特許の失敗学[11] 特許庁の広報(2) 『特許』君の名は

特許の失敗学

『特許』君の名は

“patent”の語源は「開いていること」「公開すること」であり、“patent law”は発明者に発明を公開することを奨励して一定の期間の排他的な権利を与える制度です。しかしながら、『特許』には「権利を特別に付与する」という心象を受けます。明治の文明開化期は西洋文明からの新規概念に天才的な訳語が考案されました。例えば「経世済民」の『経済』です。『特許』君の名は誰が付けたの?

 経済の語源|出典:集広舎
 https://shukousha.com/column/hirota2/6033/

◆ 自己責任

始まりは新聞のコラムです。新聞も配達してもらえない田舎に住むArahaは、新聞紙も欲しいので週末にコンビニで朝日新聞を買います。最近は日曜版が無いので、土曜に買う事にしてます。2020年4月18日の1面コラムに目が留まりました。

 折々のことば 出典:朝日新聞デジタル 折々のことば:1790 鷲田清一
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14446218.html

 英語で「セルフ・レスポンシビリティー」という言い方は普通しません。「レスポンシビリティー」だけで十分だからです。 (苅谷剛彦)
    ◇
 自己責任などと言う必要はない。責任とは相手に応答(レスポンド)できること。何かを委(まか)されているとの自覚をもって処すること。

 『自己責任』の用法には否定的なイメージがあり、『責任』は「責を負わせる」という負の概念を感じます。ネットには『責任』は誤訳ではという意見もあります。

▼日本語にはない「責任」に関する「RESPONSIBILITY」と「ACCOUNTABILITY」の違いとは? | 出典:ハフポスト
 https://www.huffingtonpost.jp/hisami-oshiba/responsibility-accountability_b_8046218.html

 辞書ではともに「責任」と訳されて、「accountability」は「 説明責任」といった注釈がついているが、英語本来の意味からすると時制とその用法に違いがある。
 「responsibility」:これから起こる(=未来)事柄や決定に対する責任の所在。
 「accountability」:すでに起きた(=過去)決定や行為の結果に対する責任、またそれを説明する責任。
またこの2つの言葉には、以下のような局面で使用されるという、側面も持つ。
 「responsibility」:「誰の責任であるのか?」という時に使われる。
 「accountability」:「誰が責任を取るのか?」という時に使われる

 『Responsibility』は「職務を明確にして対応する」であれば、CSR『Corporate Social Responsibility』は企業の利益還元とかではなく、社会の永続に関して企業の対応を明確にすること。


◆『特許』の由来

 それでは、『特許』という日本語は「誰が、何故に」名付けたのという疑問を解決するべく、ネット検索しましたが見つかりません。仕方がないので特許庁に訊いてみよう!
特許庁に電話して広報室に質問です。

(1)「patent」を「特許」という日本語に翻訳した由来について。
(2)特許以外の知的財産権も所管しながら、どうして「知財庁」ではないのか。

すぐには回答できないということで、折り返し電話を待ちます。
約5時間後: 不安になり再度電話します。「もうしばらくお待ちください」
更に1時間後:折り返し電話が来ました。

「結論から申し上げると、どちらもわかりませんでした。」
「えー」と思いつつ、詳しいお話を伺う。

・特許庁の調査では、アメリカで特許制度を調べた岩倉具視、遣欧使節の福沢諭吉などの資料を調べたが、『特許』を名付けた記録は見つからない。
・最初は『専売特許』(もはや死語?)であったが、『特許』に変更された。
・USはPatent and Trademark Officeだが「意匠」も所管する。ただし意匠はdesign patentである。
・中国ではpatentは「専利」である。
 日本人の訳語を多数採用している中国であるが「特許」は採用しなかった。
・韓国は「特許」を使用している。

「特許制度」の歴史については、特許庁のHPに記事があります。
 特許庁には「高橋是清氏特許制度に関する遺稿」という文書が所蔵されています。この遺稿に何か記載があるかもしれませんが、残念なことに、コロナ対策のため特許庁図書館に入れず確認できないとのこと。

今後も『特許』訳語の由来の調査継続を約束していただきました。
こんな質問にも丁寧な対応を頂き感謝いたします。さすがは「特許庁ビジョン」を掲げる特許庁であります。


◆ Afterword

『チェック チェック ダブルチェック』 出典:クライマーズ・ハイ 横山秀夫

英語では『self-responsibility』を本当に言わないんだろうか。
気になったので、Googleに訊いてみます。

 Google検索: “self-responsibility” 1か月以内
 https://www.google.com/search?q=%22self-responsibility%22&tbs=qdr:m

何としたことか “self-responsibility”は、大量にヒットします。
例えば、英国の教育関係のページ
 出典:Starks Field Primary School – News
 https://www.starksfield.enfield.sch.uk/news

Be The Best You Can Be helps our pupils learn the importance of our 6 core values: kindness, respect, tolerance, resilience, honesty and self-responsibility.

>>>>これのGoogle翻訳
あなたができる最高になることは、生徒が私たちの6つのコアバリューの重要性を学ぶのに役立ちます:優しさ、敬意、寛容、回復力、誠実さ、自己責任

 まさか、最近になって日本語の「自己責任」が英語になったのでしょうか。
コラムの執筆者にお任せとはいえ、新聞1面に出す記事であります。とても短いコラムです。疑問に感じたり調べたりしないのでしょうか。ダブルチェックといってもググれば容易なチェックです。責任あるマスコミの失敗学―「だいじょうぶだぁ」であってほしい。