連載小説 第23回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>サイコーエジソン株式会社7年目のIC営業部海外営業課の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを海外に売っているんですよ。時代はバブルへGo ! ですが、私たちは主任試験を受けなければいけません。ボディコン着てる場合じゃない?

 

 

 

第23話  主任試験とスーパー問題

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC営業部の4ビットAI内蔵営業レディです。私は同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当しています。なお、トム君は名前の割に純ジャパです(笑)。いつもトム君と言葉の上でじゃれ合っています。大抵はこちらが女王様です。でも、もう20代も後半です。じゃれ合っている場合じゃないかも。

主任試験の1次は通りました。仲のいい富夢まりお君も、そしてアメリカ赴任中の島工作君も合格でした。あとは2次試験を通れば翌年の4月から主任となります。2次試験は面接試験で、よほど間違った事を言わない限り不合格にはならないという話でした。

実際、2次試験の面接では、結構難しい質問をされたのですが、面接官を務める上司の方々にとっても難問で、一緒に考えてくれるというような試験でした。

結局、無事合格となったのですが、その質問というのは、日米貿易摩擦に関する質問でした。

「詠人舞衣子さん、以前、通産省へ同行してもらいましたが、日米貿易摩擦問題でアメリカからSRAM価格ダンピング疑惑をふっかけられて、価格モニタリングを受けましたよね」

「はい」

「そこで質問ですが、日本の半導体がコストダウンすればするほど、それと同じ程度に円高が進んでいつまで経っても日本企業に不利なコスト競争が続いていますが、どうしたらいいでしょうか? 」

「そうですねえ、いたちごっこのような状況で困ってしまいます。どうしましょうか(ニコッ)」

「何か有効な方法はありますか?」

「為替レートは自分たちでは制御出来ないものなので、結局頑張ってコストダウンを続けるしかなさそうですが、どうしましょうか(ニコッ)」

「そうだよねえ、レートの問題はねえ・・・。ま、一緒に悩んで行きましょう」

という感じで正解は出ないままでしたが、面接は終わりました。ま、この問題は難し過ぎて、日本中の誰も分かっていないんだから仕方ないよね、という雰囲気だったので、不合格になるような話ではなかったのですが、もうちょっとカッコいい答えが出来れば良かったなあ、と今は思います。

試験が終わったのは良かったのですが、私にはもう一つの課題がありました。それは、何かって? “恋”ですよ、恋。 “変” じゃありませんよ。 何てったってもう28歳。当時の平均初婚年齢突破から2年。なのに、ちょっと気になっていた二人はさっさと別の可愛い女子と一緒になっちゃって、私だけ取り残され感ありなんですから。

しかしながら、不思議な事にこんなに魅力的なワタクシには何故かお話がないのでした。

「ねえ、トム君、もうこの際だから聞いちゃうけど、私ってそんなにスゴ過ぎる?」

「はあ?」

「スーパー過ぎるかって聞いてるんです」

「自分の事、スーパーとか言うのは、すこぶる付きの有名人とかじゃないの?」

「だって、私ってこんなに可愛いじゃない?」

「あのなあ、舞衣子は確かに可愛いけど、自分のこと可愛いとかいうのは可愛くないぞ」

「だってえ、28だよ私」

「そんな事知ってるよ。俺は浪人したから29だけどな」

「そこでですねえ、私が問題だと言ってるのは、こんなに可愛いのに誰も近寄ってこないって事なんです」

「そんな事はないだろ。みんな仲いいじゃんか」

「そこなのよ問題は」

「何が?」

「ただ仲いいだけじゃダメなの。もっと言い寄ってくれなきゃ」

「それは、相性ってもんがあるんだろ、世の中には」

「でも・・・」

「誰に言い寄って欲しいんだよ、舞衣子は?」

「誰って言われても・・・」

「そこんとこ、おかしくないか?」

「え?」

「だから、誰かに言い寄って欲しいって感覚さ」

「え?」

「ま、いいよ、自分で考えろよ」

そこで会話は途切れてしまいました。トム君は私の事分かってくれてるって思ってたのに。なんで?

私の仮説は次のような事でした。

  • 詠人舞衣子はかなり可愛い
  • しかし、多分スーパー過ぎる
  • 従って、そんじょそこらの男子はどうせ無理だろうと引いてしまう
  • たまに寄ってくるのは、スーパーに対する機微な感覚を持ち合わせていない人
  • そういう人に対しては仲良し友達感覚は持てるものの、恋のビビビはあまり感じない
  • 私が少しでもビビビを感じた事のあった男子は二人とも別の女子と婚姻届を提出してしまった
  • 近くにそのお二人ほどのいいヤツはいない???

 

あああ、こんなんじゃ、一生かかっても恋に落ちる事はない???

この仮説が正しいとすれば、どうすればいいの???

そこで、私は仮説の1からそれが正しいのかどうか改めて検証してみる事にしました。

 

かなり可愛いのは自分でも分かりますって。 え?そこが問題?

だって、可愛いと思うんだけどなあ、自分。ボディコンも結構似合ってるのに?

もし、ここが間違っていたとしたら、この連載小説には致命的欠陥があって連載中止という事になってしまいますよ。ま、明日もう一回トム君に確認、と。

次のスーパー過ぎるかどうか、これが問題です。こればっかりは自分ではよく分からないんです。だって、私はそこそこ仕事もやれてるし、ボディコンも似合っているし、愛らしいルックスだけど、別にお高くとまったりはしていないんです。老若男女だれとでも仲良くしているし、みんな普通に接してくれているし、勘違いはしてないと思うんだけどなあ・・・。だって、私、心理学科卒業ですよ、相手の反応とか考えている事とか、よく分かっているつもりです。そして、スーパーさの種類で言えば、スーパーはスーパーなんだけど、フレンドリースーパーだと思うんだけどなあ・・・。

たまに、言いたい事は言いますよ。でも、別にけんか腰に言うわけじゃないし、どっちかって言うと、言いたい事を言うというよりは、言うべき事だから冷静に言ってるって感じなんですけどね、自分的には。

あ、その頃は自分的にはなんて言葉はありませんでしたね。自分としては、です(笑)。

あああ、悩ましいなあ。

夜も更けてまいりました。この続きは次回にしましょう。

おやすみなさい。

 

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