連載小説 第34回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ> サイコーエジソン株式会社IC海外営業部の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICのアメリカ営業担当です。平成元年になった1989年、とうとう、現地法人のSS-Systemsへ海外赴任しちゃいました。

 

 

第34話  いよいよアメリカ赴任です

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC海外営業部の4ビットAI内蔵営業レディです。同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当していたのですが、ついにアメリカの販売現地法人であるSS-Systemsへ赴任する事になったのです。しかも、同期の富夢まりお君も一緒です。そして、同期の島工作君も赴任中。何てステキ!

 

サンフランシスコ空港へは工作君が迎えに来てくれました。我がサイコーエジソン株式会社の現地法人はサンノゼにあるのですが、当時はまだ、シリコンバレーへ行くのには、San Jose Airport よりはSan Francisco Airport をよく使っていました。路線が多かったからですね。NRT-SFOのUA便(成田-サンフランシスコのUnited Airline航空)が定番でした。

“ Hi, Kosaku. Thanks million for picking me up. “

“ No problem, Maiko. It’s my billion pleasure. “

“ Oh, that’s a lot. I should have said trillion ? “

てな感じで、日本人同士、アメリカ人が言いそうもないジョークで挨拶を交わしたりするのですが、すぐに日本語になってしまいます。

「どう元気、工作君?」

「ああ、バリバリ元気だよ」

「もう6年になるっけ?」

「そうなんだよな」

「いつ来ても天気いいよね、こっちは」

「ああ。でも冬は時々雨が降るんだよ」

「そうだっけ?私が出張に来た時は雨だった事ないかも」

「まあ、住んでみれば分かるよ」

「そうだね」

「まあ、アパートが見つかって車を買うまではボクが責任をもってテイクケアするから安心して」

「ありがとう。早く一人で何でもできるようにしなきゃね」

「ああ、でも焦んなくていいよ。ここはみんなノー天気だからさ」

「うん、でも工作君は忙しそうじゃん」

「まあね。人にもっと任せられればいいんだけどね」

「トム君くらいテキトーになればいいのに」

「そうもいかないんだよ。ま、性分ってやつだな」

「ふうん。ところで、美結ちゃんは元気にしてる?」

「ああ、元気元気。何てったってこっちで子ども産んだんだから頼もしいよ」

「赤ちゃん、可愛いだろうね」

「そりゃね、えへへ」

「赤ちゃんに会いたいな」

「おお、勿論だよ。落ち着いたらうちへ遊びに来てよ」

「うん、ありがと」

 

工作君はアメリカでパパになって、家族ともどもすっかり現地に溶け込んでいるようです。シリコンバレーは豊かな地域で、インフラも医療体制も何から何まで整っていて、こっちで子どもを産んで育てるのにも殆ど躊躇する事はないようです。赴任者は大抵英語はOKですが、その家族で英語に親しんでいなかった日本人も、慣れてしまえば、日常はあまり不自由なく暮らせるようです。住めば都ですね。

「ねえ、私は暫くはホテルでしょ。ご飯とかは外で食べるんだよね?」

「ははは、舞衣子の一番の心配はご飯だったか(笑)」

「そうよ、イケない?」

「いや、イケなくないないない」

「どこで食べるの?」

「まあ、大丈夫、今日はどっか連れてってあげるから」

「そう。じゃ、OK」

 

赴任早々、ご飯の心配か、と思われるかも知れませんが、胃腸が丈夫な私は食欲が落ちる事はまずありません(笑)。お肌もつるっつるなんですけど、カリフォルニアだと湿度0%みたいな感じでみんなお肌がカサカサになっていくそうです。0%はウソですけど。

日本みたいな温泉はほぼないらしく、シャワー生活だそうです。しっかりバスタブのあるアパートがいいなあ、なんて思ってしまいます。

「ねえ、工作君、土日は何してるの?」

「そうだねえ、ご家族との時間をまずは大事にしなくちゃいけないんだろうけど、仕事がらみのいろいろが多くてさあ」

「色々って何よ」

「出張だろ、アテンドだろ、ゴルフだろ」

「休みの日までそんな事しなくたっていいじゃん」

「いや、それがさあ、出張者が土日をはさんで滞在していると、何かしてあげなきゃイケない感じになっちゃうんだよね」

「だって、美結ちゃん一人だけにしておくの?」

「いや、子どももいるから一人だけじゃないんだけど」

「何言ってんの、実質一人じゃん」

「まあ、そうか」

「工作君、そうやって家族を顧みない生活をしてると大変な事になっちゃうぞ」

「・・・かなあ。でもそれで6年経っちゃったし」

「ああ、やだやだ。男尊女卑みたいな事しないでね」

「や、そんな積りじゃないよ」

「そんな積りじゃなくても、そうなんじゃない? 私は美結ちゃんの身方だからね」

「怖いぞ、舞衣子・・・」

 

私は、その昔、工作君の事をちょっとだけ憎からず思っていた時もあったからでしょうか、尚のこと、美結ちゃんを応援したい気持ちになってしまうのでした。今では、別に工作君に同期の友人以外の感情はありませんが、ま、複雑な女ごころってヤツですか? あまりに工作君がノー天気にしているのもちょっとどうかなって思ったりもするのでした。

そんな話をとりとめなくしながら、ハイウェイ101を小一時間ほど南へ走るとオフィスのあるサンノゼに到着しました。

「ねえ、いったんホテルにチェックインしていい?」

「ああ、その積りだよ。ちゃんとメークしてからオフィスに行こう」

「うん。メークしなくったって私は可愛いですけどね」

「ああ、分かってる分かってる(笑)」

 

何と言っても赴任一日目です。SS-Systems Incの皆さんは何度も出張で会っている人たちですが、そうは言っても、ねえ。私はちょっとだけ気合いを入れて身支度をしてから工作君の車に戻りました。もうお昼の時間です。

 

「お待たせ~」

「お、カッコいいOLって感じだな」

「そう? うふふ・・・」

 

San ThomasからNorth First Streetへ曲がるとすぐにオフィスです。

こうして、赴任第1日が始まりました。

 

この続きはまた次回に。

 

 

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