<これまでのあらすじ>
サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、同期の工作君とトム君とも一緒に毎日忙しくやっています。Appleの青井倫吾郎さんとは、二人でお食事を楽しむご関係に発展し・・・。とうとう1991年です。
第51話 株って儲かるの?
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の10年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)には水平方向成長化という由々しき異変がおこりましたが、アップル・コンピュータにお勤めの青井倫吾郎さんとは二人で毎週お食事を楽しむご関係に発展し、もしかすると近々婚約発表? でも、その前に確かめなければならない事があるかも・・・。
1991年の元旦を帰省中の日本の実家で迎えました。
「あけましておめでとうございます」
父親が述べました。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
母と私がこたえました。
この様子をみると、どうやらこのファミリーは3人家族だなと思われるかも知れませんが、私には実は妹がいます。しかし、既に結婚して別の場所に暮らしているので、元旦の日は実家にいませんでした。ま、妹の話は今のところ重大な要素を含んでいませんので、そのうち必要になりましたら出演願う事にして、話を先に進めて参りましょう。
「舞衣子、久し振りの日本はどうだ?」
「別に久し振りじゃないよ、お父さん」
「しかし、サイコーエジソン株式会社もよく頑張っているなあ。業績もいいようじゃないか」
「うん、まあね。半導体事業は年々成長してるわよ」
「半導体だけじゃないだろ、時計もあるし、プリンターとか色々やってるんだろ?」
「まあね」
「なんだ、舞衣子は半導体事業しか知らないのか?」
「うん、他の事業部の事はあんまり詳しくは分からないなあ」
「まあ、大手企業だけど上場していないから、あまり世間に事業内容を知られていないよな」
「でも、株式会社だよ、お父さん」
「そうだよ、株式会社だよ。でも株式を上場はしていないだろ?」
「上場ってなんだっけ?」
「おいおい、上場を知らないのか?」
「えっと、心理学科卒なので・・・」
「ま、いいや。お父さんはこれからは株式市場に注意していこうと思っているんだ」
「どうして?」
「去年バブルが弾けただろ?」
「うん」
「それで株価も一気に下がったんだけど、求人はまだ結構多いんだよ」
「って事は?」
「これから、また景気が上向くかも知れない」
「って事は?」
「株価が上がるかも知れないって事だ」
「って事は?」
「株を買う!」
「って事は?」
「儲かっちゃうかも」
「へえええ、すごーい!」
でも、そんなうまい話はそうそうありません。父は、バブルが弾けた後の数年間、株価下落が続くとも知らずに、株をたくさん購入してしまったそうです。結局どれだけ損をしたのか分かりませんが、予定よりは豊かでなくなってしまったと、後になってから聞きました。まあ、大人のお小遣い程度の事だったようなので、それ程の額ではなかったのでしょうが、全く困ったもんですよね。
でも、この時期、バブル崩壊による景気後退は、ゆっくりと徐々に徐々に表面化していったという状態だったので、「また行ける」 とか、「まだ行ける」 とか市場を読み間違えて、資産を減少させた方々も多かったと聞きます。
欲張ってはいけませんね(笑)。
サイコーエジソン株式会社は、そもそもが同族企業だったので、非上場を続けていましたが、それなりに大手で、その後の2003年に上場するまでは、唯一残された非上場大手企業みたいな言われ方をしていました。ま、上場するまでにはまだ10年以上ありましたので、そのお話はいずれするとしましょう。
「ねえ、お父さんはさあ、いつお母さんと知り合ったの?」
「さあ、どうだったかなあ。多分、おまえが生まれる前だったと思うが・・・」
「そりゃそうでしょ(笑)」
「学生の時?」
「そうかも知れないなあ」
「じゃ、お母さんは可愛かった?」
「ん?」
「ねえ、可愛かったの?」
「そりゃ可愛かったよ。なんてったって、み」
「はいはい、もういいでしょ、その話は」
と母が割り込んで来て、“み”のあと父がなんと言おうとしていたのか、分からないまま、お屠蘇を頂く事になり、続いて、お雑煮を食べ、新年の抱負をそれぞれが発表する事になりました。
「じゃ、お父さんからね」
「そうか、うん。今年はだなあ、日本と世界の経済、社会の動きをよく見定めて、世の中の役に立つ仕事をしたいと考えているわけだ」
「それが抱負なの、お父さん?」
「ま、そういう事だな」
「全然、具体的じゃないじゃん」
「そうか?」
「そうだよ。そんなんじゃ、私の会社だったら全然NGだよ」
「ま、それぞれだからな」
「ふ~ん。じゃ、お母さんは?」
「そうね、今年はどうしましょ。家族の幸せが抱負かな」
「え、そんなんでいいの?」
「うふふ、それだけじゃつまらないわね。もう一つはね、ちょっと考えている事があるの。でも、今は内緒」
「え、何かあるの、お母さん?」
「だから、今は内緒って言ってるでしょ」
「お父さんは知ってるの?」
「いやオレも知らないぞ」
「ま、いいじゃない。そのうち分かるわよ」
「ケチだなあ、お父さんもお母さんも」
「そうか?」
「そうよ、ケチじゃないわよ。ま、舞衣子も舞衣子なりに頑張りなさい。応援してるから」
「変なの」
何だか、訳の分からない両親の抱負を聞きながら、元旦の朝は過ぎていきました。
私の抱負は、「人生の転機かも、チャンスをゲット!」 です。
さてさて、うまくいくのでしょうかねえ?
「舞衣子の思い出」 次回もお楽しみに!