<これまでのあらすじ>
サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任中。ビジネス環境にも大きな変化が起こり、インターネット、電子メール、Windows95と新時代を迎えていました。
(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら)
第84話 世界は丸くて繋がっている
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。運命の人、倫ちゃんと結婚して、仕事も生活も絶好調です。半導体事業も絶好調です。ステキな土曜日の朝、倫ちゃんからお話が・・・。
「舞衣子、ちょっと話があるんだけど」
土曜日の朝、倫ちゃんが話しかけてきました。
「どうしたの、改まって?」
「まあ、ちょっと大事な話だから、座って」
「うん」
私たちはキッチンカウンターのストゥールに並んで腰掛けました。リビングの向こうに見えるステキなガーデンにカリフォルニアサンシャインが降りそそいでいました。
「ボクさあ、転職しようか迷ってるんだ」
「え、そうなの?」
「実はある日系企業からオファーがあって、日本語も英語もできて電子業界に詳しくて国際感覚に優れた人材を募集してるっていうんだ」
「へえ、それ、私じゃん(笑)」
「あ、そうとも言える(笑)」
「でしょ? 私も応募しちゃおうかな?」
「え、ホント?」
「ウソウソ。SS-Systems最高なんだもん。それに、今は赴任中だからね。辞められないよ」
「それは良かった。でね、ちょっと問題があるのだよ、舞衣子」
「何なの?」
「勤務地がこの辺じゃないんだ」
「え、どこどこ、シリコンバレーじゃないの? LA(Los Angels)とか? それなら、週末婚でもいいよ(笑)」
「いや、ドイツ」
「わお、ヨーロッパ大陸?」
「そう、ヨーロッパ大陸」
「おフランスのあるヨーロッパ大陸?」
「そうだよ、おフランスのある大陸の」
「でも、ドイツ(笑)」
「はは、そのドイツだよ」
「飛行機で10時間かかり、船なら2ヶ月。歩いたら途中で倒れるという、伝説のドイツ?」
「そんな伝説ないけど、そのドイツだよ」
「それは面白い話ね、うふ」
「面白いと思う、舞衣子?」
「時と場合によってはね」
「そりゃそうだ」
「ねえ、倫ちゃん、おフランスじゃなくてドイツはいいけど、ドイツと言っても広うござんす、だよね」
「そう、広いね」
「で、ドイツのどこなの?」
「どこでしょう?」
「私が聞いてんの」
「失礼しました」
「で、どこなの? 日系企業ならデュッセルドルフ?」
「ああ、確かに日系企業が多いところらしいね。でも、もっと下の方」
「ということは地下帝国?」
「いや、そっちの下の方じゃなくて(笑)」
「だったら、最初から南と言って頂きたいわ」
「うん、失礼した、南の方」
「南国のドイツといえば、ニューギニアかな?」
「そこまで南じゃない。それに、ニューギニアはもうドイツの領土じゃないし」
「ふうん・・・。分かったよ、倫ちゃん」
「え、分かったの?」
「ミュンヘンでしょ」
「え、なんで分かるの、舞衣子?」
「そんなの常識じゃん」
「え、どうして?」
「ここがシリコンバレーなら、ドイツのシリコンバレーはミュンヘンらしいよ」
「え、そうなの?」
「サイコーエジソン株式会社の販売現地法人だってミュンヘンにあるよ。同じ現法同士、もっと情報交換をしようって、この前も全ヨーロッパ代理店会議にトム君が行ってきたもん」
「そうか、そうだったんだ。それなら、話が早いよ、舞衣子」
「結構、ここまで来るのにあっちこっち南の島とかまで行ってたけどね(笑)」
「まあ、そのプロセスも大事だよ」
「ま、いいわ。で、その奇特な日系企業さんはどこなの?」
「さて、どこでしょう?」
「ヒントは?」
「では、質問を3つまで受けよう、舞衣子」
「いいでしょう。ではQ1です」
「どうぞ」
「その企業は半導体を作っている?」
「ううん、研究開発はしてると思うけど、大々的に事業としては行っていません」
「ふうん。じゃあ、Q2ね」
「ああ」
「その企業は関西系の企業である」
「答えはNoです」
「なるほど、なるほど」
「次で最後だぞ、舞衣子」
「ちょっと待ってよ。今、考えてんだから」
「あと10秒。10、9、8・・・」
「その企業は携帯電話を作り始めた?」
「ピンポン」
「ううん、半導体は大規模にはやっていない携帯電話のメーカーで西じゃないのね」
「ああ。でも、なかなか上手い質問だよ、舞衣子」
「まあね。私も伊達や酔狂で半導体レディとしてこの業界を生きている訳じゃないので。おほほ」
「いやあ、お見それしました、レディ様。で、ご解答は?」
「分かりました。それは株式会社デンポーさんかと?」
「おお、そこへ来ましたか、舞衣子さん。なかなか玄人好みなご解答ですね。でも、それは、ブブーです」
「え、違った?」
「じゃ、ソミー?」
「うん、そのソミー」
「どっちか迷ったんだよね。デンポーなら、おお、そこが来たか、って感じだけど、ソミーじゃ、まんまじゃん。でも、そのまんまだったのね(笑)」
「はい、まんまのソミーさんです」
「ドイツのソミーで何するの?」
「ヨーロッパ販売現法の責任者だって」
「スゴいじゃん。で、どうすんの、倫ちゃん」
「ああ、ですから、どうしようかなって舞衣子さまに相談しているところなのであります」
「ふうん・・・」
「・・・」
「じゃ、行けば」
「ええ? 行っちゃっていいの?」
「うん」
「週末婚なんて無理だよ、舞衣子」
「だって、行きたいんでしょ、倫ちゃん?」
「まあ、かなりのステップアップにはなると思うけど」
「なら、いいじゃん」
「・・・」
「でも、どうして、ヨーロッパの責任者をわざわざアメリカで募集してるの? 日本から送り込めばいいじゃん」
「ああ、ボクもそれが疑問で聞いてみたんだ。そうしたら、日本のソミーに所属する人財を送り込むと日本寄り過ぎてしまって国際的なバランスが足りなくなるんじゃないか、という判断らしいよ、今回のケースは」
「ふうん」
「だから、日本企業に属していなくて現地採用されているボクみたいなのは、よりスムーズに現地に溶け込めるようなマネジメントができるって期待されてるみたいなんだ」
「ま、色々ソミーなりの考えもあるんでしょうね」
「ああ」
「じゃ、行ってらっしゃい」
「え、ちょっと待ってくれよ、舞衣子・・・」
私はちょっと倫ちゃんを突き放した言い方をしちゃいました。
この続きはまた次回ですね。うふっ。
第85話につづく