連載小説 第153回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京から海外市場をサポートしています。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しですが、台湾や韓国などの新興勢力も台頭してきて、日本の電子デバイス業界も大きな影響を受けていました。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第153話 事業統合

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の25年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。世界のIT産業はどんどん変化していくので、ビジネスも大忙し。我々の半導体の売上げも2000年にはサイコー!だったのですが、その後、状況は変化していきました。市場がどんどん動いていく中、我々の電子デバイス営業本部にも毎日のように変化が起こっていました。

 

トム君は4月早々に、営業の副本部長とともに、カーエレ営業部長として、鳥取へ出張したそうです。何故に鳥取かという事なのですが、砂丘を見に行ったという話ではなく、大きな工場のある鳥取S社との打ち合わせに行ったという事です。

その頃、鳥取S社は小中規模から大規模にわたる液晶を製造していて、我がサイコーエジソン株式会社の液晶事業部とはライバル関係にありました。しかし、一方で、我が半導体事業部のお客さんでもありました。LCDドライバーICを使ってくださっていましたから。

その鳥取S社の営業部長と打合せをするという事でしたので、トム君は最初、何故、同業者の営業と打合せを?と思ったそうですが、色々とひもといていくと、我がサイコーエジソン株式会社の液晶事業と鳥取S社の液晶事業が統合されるという話が進んでいた事を知ったそうです。

それによって、両者の営業部門も統合される事になるらしいという事で、取り急ぎ、相手方がどのような事業を展開しており、営業部門がどのような活動をしているかを副本部長が調べに行くところへ、トム君が同行したという事だったのでした。

ひととおり、打合せが終わり、昼過ぎにはトム君は副本部長と別れて帰途につきました。

日本海側の鳥取から、いったん瀬戸内側へ移動します。JRのローカル線を乗りついで、姫路へたどり着いたのが午後4時頃でしたので、トム君はせっかくだから国宝姫路城探検に行こうとなり、すたこらさっさと世界遺産へ向かったそうです。

姫路城は駅から徒歩でも20分程度で行く事ができ、訪れる人が大変多いお城です。4月初めの事です。大変穏やかな晴天で、ちょうど桜が満開でした。城巡りには絶好中の絶好の日よりで、トム君は颯爽とお城へと歩みを進めたそうです。

白鷺城とも称されるお城の天守閣は、白を基調とした色合いで、大変美しく、そして、日本で最大のお城です。建造時からの姿で残っているお城は数えるほどしかない中で、日本最大で美しいお城ですから、国宝にして世界遺産だというのも頷けます。大変、貴重な史跡を訪問できて、すこぶるご機嫌なトム君は、姫路から新幹線に乗って帰途についたそうです。

その後、鳥取S社の液晶事業部と、我がサイコーエジソン株式会社の液晶事業部は合併して、新会社を設立する事になります。電子デバイス営業本部で一緒に仕事をしてきた仲間たちの中から何人もが、新会社へ移籍していきました。

10月の新会社オープニングセレモニーにはトム君や私も出席させて頂きましたが、時代の大きな流れを感じざるを得ませんでした。つい昨日まで一緒にいた仲間が、別の会社の人になってしまうというのですから、言いようのない変な気持ちになった事を思い出します。勿論、新しい会社へ移っていく人たちの方が、もっと変な気持ちになっていたでしょうけれど。

新しい会社は、従業員たちの期待と不安を抱えてスタートし、相変わらず、携帯電話向けに大きなビジネスを展開していました。しかし、その行く末には更に波瀾万丈の荒波が待ち受けていました。そのお話しは、またの機会に譲りますが、新会社は長く続かなかったとだけ、申し上げておきます。

事業統合によって、生産力が増し、ガンガン行ける、と思ったのも束の間、期待の新会社にとっても、栄枯盛衰は世の常だったのでございます。

 

 

第154話につづく

第152話に戻る