連載小説 第152回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京から海外市場をサポートしています。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しですが、台湾や韓国などの新興勢力も台頭してきて、日本の電子デバイス業界も大きな影響を受けていました。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第152話 25年生といえば、もう四半世紀ですね

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の25年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。世界のIT産業はどんどん変化していくので、ビジネスも大忙し。我々の半導体の売上げも2000年にはサイコー!だったのですが、その後、状況は変化していきました。市場がどんどん動いていく中、我々の電子デバイス営業本部にも毎日のように変化が起こっていました。

 

私の同期のトム君はカーエレ営業部長、工作君はモバイル営業部長です。なかなかカッコいいです。まあ、見た目はカッコいいというよりは、シブいと言った方がいいかも知れませんが(笑)、頑張って責任ある仕事をしている姿はカッコいいです。

相変わらず、時々3人でビールを頂きます。もう、同期のビール会を25年近くも続けているので、いいかげん飽きる事はないのか?と思うのですが、この二人とのビールの誘惑には勝てません(笑)。

かつて、私が心憎からず思った事のある二人ですので、まあ少々特別と言えば特別なのですが、そんな事は差し置いても、とても近い部署で何年も一緒に仕事をしてきた仲なので、もうホントに色々お世話になってきましたから、その意味で特別なお二人なのです。

で、本日、何が起こったかと言いますと、4月から新年度(2004年度)が始まり、最初の部門長会議がありまして、トム君は名古屋から東京へ出張してきて夜はフリーだというので、工作君と3人で集合したという次第です。

我々もとうとう25年生になりました。

「四半世紀にかんぱーい」

「かんぱーい」

「かんぱーい」

と声を揃えました。

「ねえねえ、トム君、随分、あっち行ったり、こっち行ったりしてるみたいだけど、大丈夫? 疲れてない?」

「それがさあ、最近は回遊魚みたいになっちゃって、同じ所にじっとしていると具合悪くなっちゃいそうな気分なんだよ」

「分かる分かる、僕ももうそんな感じで、回遊魚状態だよ」

「工作君も忙しいよね」

「ああ」

「二人とも、今週はどこのお客さんのところへ行くの?」

「俺は、東京の方だと、日産とホンダと電装メーカーがいくつもあるから、明日はそのうち2社を回るんだけど、その後、名古屋に戻って明後日はトヨタと電装メーカーと打合せだよ。来週は、広島と、大阪は池田市だな」

「僕は、携帯電話のお客さんが何社か事業部訪問するっていうから、明日から松本、諏訪方面だよ」

「大変ねえ、二人とも」

「ま、俺は結構充実してるよ。カーエレの売上げはまだ小さいけど、殆どの車メーカーと電装メーカーと繋がってきたからな」

「結構、頑張ってるわね」

「まだ、売上げには結びついてないけどな。その点、工作はスゴいよ。売上げナンバーワンだもんな」

「ああ、売上げだけはスゴいよ。でも、携帯電話向けの液晶の納期や数量調整みたいな事が多くて、クリエイティブな仕事が減ってるんだよね」

「携帯の市場は大きいもんな」

「うん」

「そっか~。工作君、大変だね。海外向けの納期や数量調整とかは私ができるだけサポートするよ」

「ああ、ありがとう、舞衣子」

「工作君のためだったら、私、頑張るから(笑)」

「おい、舞衣子、俺のためには頑張ってくれないのか?」

「トム君は、売上げがいっぱい上がったら考えてあげる(笑)」

「あちゃ~。それを言われると辛いなあ(汗)」

「せいぜい、頑張りなさい」

「はい~」

「なあ、トム、ところで聞いたか?」

「何を?」

「液晶の事業再編の話だよ」

「あ、おお、まあな」

「え、何、何? 私、聞いてないわよ」

「舞衣子ちゃんにはまだ早いかな、アハハ」

「何よ、それ。教えなさいよ」

「だって、企業秘密だも~ん

「私だって、同じ企業でしょ」

「でも、舞衣子ちゃんにはまだ内緒なんだも~ん」

「トム君、あなたねえ、私を誰だと思ってるの?」

「舞衣子だろ」

「ふざけないでよ、私に向かってそんな口をきいてると、が起こるわよ」

「どんな禍でしょうか?(笑)」

「きっと、明日、犬の落とし物を踏んづけて、OMGって天を仰いだ瞬間、顔に鳩の落とし物を頂戴するって事よ」

「そりゃOMGx2だな(笑)。でも、そんな事起こらないよ」

「ふん、起こるわよ」

「万が一起こったら、舞衣子の勝ちだよ、ふん」

「ふん」

「ふん」

「おいおい、トムも舞衣子もそのくらいにしとけよ。ふん、とか、ふん、とか言ってないで(笑)」

というようなおバカな会話がありまして、ビールのジョッキはそれぞれ3杯目になっていました。

その当時、日本の電機電子メーカーは群雄割拠でしたが、同じモノを同じように開発してしまう事が多く、例えば、液晶に関して言えば、我がサイコーエジソン株式会社を含めて、殆どの日本の大手が参入している状態でした。

数えてみますと、S、S、S、S、S、P、H、T、Kなどの各社が、同じ市場でしのぎを削っていました。これに対して、韓国、台湾、香港、中国などの液晶メーカーも台頭しつつあったため、そのままでは、日本メーカーは共倒れになってしまうという危機感が生まれていた頃です。

業界内では、M&Aなどによって、不毛な競合よりは効率的な協業を目指そうという模索がなされていました。

これは、液晶業界に限った話ではなく、半導体業界でも全く同様の状況が起こっていて、既にDRAMの世界では、複数の企業における事業切り離しと、合併が進んでいました。本大河小説の第139話でお話しした通りです。

さて、その頃、隆盛を誇っていた我々の液晶事業ですが、その後、大きく転換して行きます。そして、どのような末路を辿ったのか、今後、お話ししていかなくてはなりません。

いずれの産業も諸行無常なのでした。

 

第153話につづく

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