老人の勝手な意見では「コンピュータ・アーキテクチャ本」はシリーズ第38回のヘネシー&パターソン本の前と後で分けられるっと。出版は1990年(平成2年)なので、今回経めぐっている昭和の時代の御本は全て「それ以前」ということになります。今回の御本、翻訳版は平成元年だけれど原著は昭和の時代の産物。「それ以前」の時代の頂点?
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原著者と監訳者、訳者
原著者は、Harold S. Stone先生、IEEEフェローにしてACMフェローでもあらせられます。米国コンピュータ業界の大先生ですな。IEEEのコンピュータ・ソサエティの紹介ページが以下に。
IBMに関係が深いのかと思ったら、上記の記事を拝見するとNECフェローでもあるということなので、NECとの縁も浅からずみたいっす。原著は1987年(昭和62年)の教科書です。
このご本を2名様の監訳者と4名様の翻訳者で翻訳されとります。
監訳者のお一人は、電子情報通信学会の会長もつとめられた齋藤忠夫先生です。どういうわけか『情報処理学会』様のページの方がヒットしてきたのでそのURLを以下に掲げます。
もう一人の監訳者は、NEC,沖電気で活躍された発田弘様です。調べたら「情報処理学会 歴史特別委員会 委員長」として日経XTECHのインタビューをうけておられる記事を見つけました。
前々回、IPSJ様の「コンピュータ博物館」配下のページへのリンクを貼り付けたおり、そういえば「現物の」博物館を目指していたけれど先立つものがなくてWeb上の博物館になったらしいなどと不埒な事を書いてしまいましたが、上記は挫折以前の記事みたいです。
そして2名様の監訳者のもと4名の翻訳者の方がおられるのですが、多分、翻訳時には全員NECの方だったじゃないかと想像されます。しかし出版時点の現職で部長、助教授、部長、課長とかなり偉い人ばかり。ペーペーじゃありませぬ。
御本の定価5900円、そして丸善様。当時、よくこんな高い本買ったなと老人は思うのですが、ちと思うことあり。実は似たような時期に丸善様で翻訳出版されたご本(といってデバイスよりですが)の翻訳者としてかかわったことがあったからです。そのときも監訳者は2名、大学の先生と以前勤めていた会社の上司(スタンフォード出)、実働翻訳部隊は下っ端の設計者ども(こちらは同期の皆さんだったのでまだ皆ヒラばかり)でした。定価の中でまず原著者(原出版元)に捧げられる割合が決まっており、その後で翻訳側に配分される割合があります。その割合を翻訳担当した分量などで分配するので、定価は高額でも懐に入ってくるのは1冊あたり大した金額じゃありません。何パーセントであったか?でも、版を重ねたりすると追加で振り込みあったりして嬉しかった記憶。
かなりモダンな内容
このご本の冒頭近くに以下の節があります。
1.2 芸術か技術か?
本書では「誰がいった」などと不埒なことは書かれてませんが、「前時代の」「偉い」コンピュータ・アーキテクトの中には、アーキテクチャは芸術だみたいなことを言う人が居たらしい(誰とは言わんけど)ので、そことの違いを断っておくためじゃなかったかと思います。
序文から1か所引用させていただきます。
設計者が選択するコンピュータの実現方法は本書で述べた基本原理を、おのおのの時点で一般化しているデバイス技術に適応したものとなろう。
ということで、メモリシステム、パイプライン設計技術、ベクトルコンピュータ、マルチプロセッサについて論じられてます。どれも現代に通じるものばかりじゃないかと思います。ただ、処理対象として想定しているのは当時負荷の重い計算の代表だった数値解析みたいです。今のAI全盛時代からするとその辺はクラシック。