L.W.R.(38) 古文書編#9、Computer Architecture: A Quantitative Approach、Hennessy and Patterson、1990

Joseph Halfmoon

今回の御本は古文書でなく古典というべきでしょう。アマゾンへ行けば未だに手に入るし、電子書籍版もあります。ただ、本シリーズでは前世紀に入手した紙の本をもって古文書に分類。アイキャッチ画像に掲げたカバーもなく古びたハードカバーの本こそは、大ヒットしたこの本の初版本であります。

業界で、読んでいないと「モグリ」と言われたこのご本ですが、同じ著者のお二人による後続の姉妹書があることをまず書いておきます。今回は前者をとりあげさせていただきます。

  1. Computer Architecture: A Quantitative Approach (邦訳タイトル「コンピュータアーキテクチャ 定量的アプローチ」)
  2. Computer Organization and Design: The Hardware Software Interface(邦訳タイトル「コンピュータの構成と設計 ハードウエアとソフトウエアのインタフェース」)

偉大なご本にどうこう言えるような者ではないので、内容についての論評は避けますが、前者が上位レイヤー、後からでた後者が下位レイヤーといった趣ではないかと思います。また、後者は、その後「各種プロセッサ」に特殊化したバージョンに進化していった模様。なんとRISC-V特化バージョンは、昨年の新刊らしいです。

最初の方の御本の初版は1990年。今から30年以上も前です。二十世紀の出版物であるので本シリーズの「古文書」の条件を満たしておるのであります。なんと、このご本は自分で買っておらず、当時サンノゼのある会社で浮動小数点プロセッサを設計していた友人が、ノースファーストストリートの本屋さんで買ってプレゼントしてくれたのです。少しは勉強しろってことだったのかな?

このご本の前にも「コンピュータ・アーキテクチャ本」はあまたあったのでありますが、このご本が出た後ではその様相が大きく変化することになります。この本以前のアーキテクチャ本は、「事例研究」的なご本が多かったと記憶しています。歴史的なもの、また、各社のヒットした著名なアーキテクチャなどをほぼ登場順的にとりまとめて論ずるもの。まだ「コンピュータ・アーキテクチャは芸術だ」的な(個人的には嫌いではありませんよ)、あるいはバートニアン?的な優雅な世界がありました。

ところが、両大先生の共著である本書が登場した1990年を境に、単に事例を並べるようなご本は無くなってしまうのです。なにもSPARCとMIPSという当時「日の出の勢いであった」RISCを作った大先生が書いたからという理由だけではありません。まあ、言われてみれば当然ちゃ当然なのですが、アーキテクチャ上の決定も定量的というか、データに基づいて計算して設計しろよ、ということにつきます。それ以前には結構ホンワカした「思い込み」で決めていることが多かったのね(今となってはよく分かります。)

このご本のお陰で皆が正しい道を進んだかどうかという点には疑問あり。この本の初版が出た当時、SPARCなのか、MIPSなのかが世の中を覆い、x86などは落ちこぼれて行くように思われていました。このご本は、そんな世界のドグマでもあったような気がします。しかし、歴史を振り返るとその後は「ホンワカした時代」から泥縄式に発達した?x86の覇権であり、そしてこのご本の説くところとはちょっと異なったスタイルのArmの天下でした。

ただね、このご本の直系とも目される RISC-V がこのところ大人気。初版出版以来30年を経て再読すべきかも。一度は読んだはずが、とっくのとーに忘却している私はモグリだ。

L.W.R.(37) 古文書編#8 『ハイ・アウトプット・マネジメント』グローブ著1983

L.W.R.(39) 古文書編#10、COMPUTER ORGANIZATION & DESIGN, Hennessy and Patterson、1993