SoCという言葉が一般化する以前のSoC話、x86系をほじくり返すのを止めて他に行っておりましたが、もう少しx86系を掘り進んでおこうという気になりました。本日、取り上げさせていただくのはNECのV41/V51でございます。1980年代にNECが立ち上げたVシリーズの8086互換プロセッサのシリーズ中の集積プロセッサの後期の製品です。時代的には冥界のLSI(3)PC/Chipとちょうど同時代の1991年ごろに遡ります。
(「黄昏のSoC」改題)
V41/V51を振り返る前に、NECのVシリーズ(今でもNECに源流を持つVの頭文字を持つプロセッサをルネサスが製造していますが、現在の「V」を頭文字にいただくプロセッサは、当時のVシリーズのような8086と互換性を持ったCISCプロセッサではなく、NEC独自仕様のRISCプロセッサです。さらにNECの流れをくむ新機種は頭文字Rになってしまっているのでいつまで「V」が残るのか分かりませんが。)といえば、1980年代の日本を代表した、ともいえるプロセッサでした。8086と互換性を持たせたV30、8088と互換のV20(V10は大人の事情で商品化を見送られたようです)、V30に周辺回路まで集積したV50、V20に周辺回路を集積したV40と登場し、真っ向インテルと激突していたのでした。当時を振り返れば、日本はイケイケの時代、パソコンもNECは自社のPC98シリーズで「世界最先端」の日本市場を押さえていました。インテルとの衝突は単に市場での販売合戦にとどまらず、訴訟と言う形でも噴出しました。1980年代は、「日米半導体摩擦」の時代でもあり、その象徴的な軋轢がNEC Vシリーズとインテルの8086だったわけです。
NECは訴訟で負けなかった、しかし、パソコン市場を制覇するチャンスを逃す
当時のCISCマシンはマイクロコード制御が主流であったので、マイクロコードの著作権が主たる争点になったと記憶しています。結局、マイクロコードは著作物だけれども、8086の場合著作物としての当時の米国の法律を満たさないケースがあった、という双方痛み分けのような結論で訴訟は終結します。NECは晴れてVシリーズを気兼ねなく売れる立場になった筈なのですが、訴訟終結の1980年代末ともなるとPC/AT互換のパソコンが市場を席巻しており、パソコンのCPUはインテルの80286から80386となっていました。NECは8086互換のV30の上位機種は、独自仕様の32bitに持っていこうとしていたようですが、これは失敗に終わります。結局、パソコンはインテルのx86系を使わざるを得なくなるわけです。
そんな流れの1990年代初めに登場したのが、
V41/V51
です。NECの場合、V41、V51という愛称のような「別名称」以外に、別にチップの型番(オーダ番号?)がふられており、V41はμPD70270、V51はμPD70280です。V41/V51という半端な番号で分かるとおり、これらにはV40/V50という先行機種がありました。
どちらもマザーボードを作る上で必要であった、割り込みコントローラ、DMAコントローラ、タイマといった回路を集積しているのは共通(NEC版の82xxシリーズの周辺回路を使用。本家インテルの80186が自社の82xxと微妙に違う周辺だったのとは異なり、NECの方が82xxと互換をとっていた)なのですが、大きな違いは、
V41/V51は、PC/XTと互換性をとっていた
先行するV40/V50は、8086や8088互換のCPUと82xxシリーズという似たような周辺回路を集積しながらも、IBMのPC/XTにあわせこもうという意図はなかったようです。多分V40/V50を企画した時点では、NECのパソコンこそ本道で、IBMなにするものぞ、くらいに思っていたのではないかと想像します。けれど時代も1990年代ともなれば、IBM-PC系が世界を席巻しています。日本でもDOS/Vという名でIBM系のハード上で日本語処理が一般化するのがこの時代。NECとしてもIBM-PC系に合わせざるを得なくなっていたことが分かります。カタログみると、結構細かいところまで、IBM系に合わせこんでいるところが分かります。
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- キーボードI/FはPC/XTモードとPS/2モードを選択可能
- LIM EMS互換
LIMは、L=ロータス、I=インテル、M=マイクロソフトだったと記憶しています。1Mバイトの空間しかない8086上でそれ以上の容量のメモリを扱うための拡張メモリアクセスの規格です。(ロータス知らない若者に注釈しておくと、当時のロータスはLotus1-2-3という表計算ソフトをIBM-PC上で販売し、1980年代のパソコンのアプリの星の会社だったのです。Windows上でマイクロソフトがExcelを出して表計算ソフトの市場を奪うことになるのですが、DOSの世界ではLotusが業界標準でした。)
同時期のシングルチップPC/XT互換機、C&TのPC/Chipなどに比べると、V41/V51はグラフィクスのような目を引く部分まで集積せず、マザーボード相当の部分までに集積を絞っているのですが、実際にはこの方が使いよかったのではないかと思います。しかし、時代も時代、カタログの用途には一応、パーソナル・コンピュータとも書いてはあるのですが、ハンディーターミナル、OA機器、制御機器など組み込み系の応用が列挙されています。8086より多少高速とは言え8086互換ではメインストリームのパソコンはもう無理な時代でした。組み込みに活路を見出すしかなかったでしょう。その後NECは8086互換のCISCのVシリーズから、独自仕様のRISC系のVシリーズへと舵を切っていくことになります。