連載小説 第85回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任中。ビジネス環境にも大きな変化が起こり、インターネット、電子メール、Windows95と新時代を迎えていました。そんな中、夫の倫ちゃんに転職の話があり・・・。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第85話 世界は丸くて繋がっているけど、倫ちゃんは脳天気

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。運命の人、倫ちゃんと結婚して、仕事も生活も絶好調です。半導体事業も絶好調です。ステキな土曜日の朝、倫ちゃんからのお話は、転職の事でした。

 

「舞衣子、ちょっと待ってくれよ。いきなり、じゃ行ってらっしゃいって・・・(汗)」

「倫ちゃ~ん、やっぱ一人でドイツへ行くのはイヤなんだね~ふふ?」

「そうだよ、だから相談してるんだよ」

「私にどうして欲しいのかなあ?」

「それはその・・・」

「考えてないんでしょ」

「まあ・・・あんまり具体的には・・・」

私たちはキッチンカウンターのストゥールに並んで腰掛けていました。リビングの向こうに見えるステキなガーデンにはカリフォルニアサンシャインが降りそそいでいます。

「私が、泣いて、行かないで~って言うと思った?」

「いや、そんなんじゃないけどさあ」

「じゃあ、質問を変えましょう、倫太郎さん」

「何だよ急に?」

「私たちは結婚何年目でおんとし何歳でしょうか?」

「え?」

「早くお答えください」

「えっと、4年目で、39歳と37歳

「その通りです。ですからかなり年月は経っていると言えるかと思います」

「うん、まあ」

将来設計はできていたのでしょうか?」

「まあ、基本的には、その・・・」

「その態度です、問題は。基本的にはとか、不要な修飾語で事を曖昧にしたまま、将来設計を先延ばしにしてきてしまったのではないでしょうか。勿論、その責任は当事者である我々二人に帰属するので、私も私ですが、倫太郎さん、あなたも真剣に考えて頂きたい、というのが私の望むところなのです」

「分かったよ、舞衣子。でももうちょっと普通の言い方で話そう」

「ダメです。倫太郎さんの真意を聞くまでは、この調子で参ります」

「ふうん。まあ、いいけど・・・」

「で、倫太郎さんは、今後、我々の生活をどのようにしたいとお考えなのでしょうか?」

「や、まあ、舞衣子と一緒にいると毎日楽しいし、ずっと一緒にいたいなあって思ってるよ」

「それは嬉しいご発言ですが、そんな程度のご意見を聞きたいのではないのです」

「それ以上ってなると、そうだなあ。天気もいいしなあ・・・

「そこです、問題は。このカリフォルニアの連日の晴天がもたらす脳天気状態が私たち二人をして思考停止に陥らせているとはお感じにならないのですか、倫太郎さん?」

「は?」

「は、ではございません。知らず知らず思考停止に陥っていると申し上げているのです」

「なことないよ。毎日、ちゃんと仕事もしてるし、ライフもエンジョイしてるじゃないか」

「そうでしょうか」

「そうだと思うけど」

「どうやら、私たちには大きな認識の違いがあるようです」

「そう?」

「そもそも、先ほどの転職の機会についてのお話にしても、倫太郎さんは先々の事を殆ど考えずに相談という形を借りてでペラペラとおしゃべりになり、何かを考えているようには思われませんでした」

「そ、それは・・・」

「もしその話を受けるのであれば、ドイツへ行く事は必然なのですから、私たち二人に多大な影響をもたらす問題であるにも拘わらず、具体的な考えを持たないまま、カリフォルニアサンシャインのごとく脳天気にお話になっているとしか思えません」

「怒ってるの、舞衣子?」

「その質問にはお答えしかねますが、もう少し、具体的かつ現実的なプランを提示すべきかと申し上げているわけです」

「舞衣子はどう思うの?」

「そこです、問題は。倫太郎さんには自分の意思がおありにならないのでしょうか?」

「いや、ない訳じゃないんだけど」

「では、それを提示ください」

「や、その杓子定規な言い方だと、上手くしゃべれないよ。いつもの舞衣子のしゃべり方に戻ってよ」

「・・・」

「おいおい、どうしちゃったんだ。お~い、舞衣子~。戻っておいで~」

「・・・」

私は暫く黙ったまま、遠くを見つめていました。リビングの大きな掃き出し窓から見えるバックヤードは明るい日差しの中で輝いていました。

 

一体、どうなっちゃうの~?

この続きはまた次回。

 

 

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