絶滅危惧種4ビットマイコンを調べています。前回は台湾のTenx社を調べ、4ビットマイコンは「LCDドライバ」のオマケに4ビットのCPUが付いているのだ、と言ってもよい、などと書いてしまいました。国内ではどうでしょうか。日本が家電製品などで世界を席巻していた昔は多くの会社で4ビットマイコンが作られていましたが、既に4ビットから撤退したところも多いようです。そんな中、今だに4ビットを販売している国内メーカーがありました。エプソンです。
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エプソン(セイコーエプソン株式会社)というと、もっぱらプリンタ・メーカーというイメージがあります。実際、ビジネスの主力がプリンタになって久しいですが、諏訪精工舎という社名だった時代も長く、オリジンは「セイコー」ブランドの腕時計の製造会社です。水晶振動子を使ったクオーツ腕時計を世界に先駆けて実現し当時の世界に衝撃を与えました。クオーツ商品化により時計の精度を競うスイスのコンテストが中止に追い込まれた、という話も伝わっています。デジタル・クオーツ腕時計の中心となる3部品、水晶振動子、CMOS半導体、液晶の3つの電子部品を当時の諏訪精工舎はすべて内製しており、外販もしていました。液晶部門は大分前に売却されてしまいましたが、水晶振動子と半導体の販売は継続しているので立派な電子部品メーカでもあります。
半導体部門のホームページに行けば、「まだ」4ビットマイコンが生き残っていることが分かります。そう「まだ」という表現になるのは、「まだ」製造販売されているが、「そのうち」無くなるかもしれない、という状態だからです。
保守品種
という表現がなされています。保守品種という表現は、既にその機種を使用しているお客さんのために、製造販売は続けていますけれども、そのうち「ディスコン」あるいは「EOL」になるので、新規設計にはお勧めしないです、といった扱いの製品につけられる「肩書」です。ちょっと微妙なのは、4ビットに2カテゴリあり、普通の4ビットと高性能4ビットという2分類になっていることです。それぞれの製品一覧を見ると、どちらも保守品種扱いのようですが、全般資料のところの4ビットには「保守品種」とあるけれど高性能4ビットには「保守品種」と書いてない(変更漏れ?)などと違いがあるので、もしかすると時期的なものに違いがあるのかもしれません。普通の4ビットはアドレス空間などに制限が多く、以前に説明した4ビットの典型的なCPUですが、「高性能」の方は確かにリニアなアドレシングなど普通の4ビットに比べれば一歩踏み出した感があるものです。4ビット、高性能4ビットマイコンとも、シリーズ製品の一覧表をみてみると、
ほぼ全ての4ビットマイコンはLCDドライバを搭載
でした。「ほぼ」というのは沢山ある機種の中の1機種のみLCDドライバが無いものがあったという程度です。例外機種は「煙センサ」などセンサ組み込み用でした。他の全機種はLCD搭載です。「4ビットマイコンとは、LCDドライバのおまけに4ビットCPU」説は、Tenx社とあわせ、例外はこの1機種のみということになります。
ホームページのラインナップを見る限り、ビット数だけみるとエプソンのマイコン系統は他の大手並みに充実しています。
- 自社独自コアの4ビットマイコン
- 自社独自コアの高性能4ビットマイコン
- 自社独自コアの8ビットマイコン
- 自社独自コアの16ビットマイコン
- 自社独自コアの32ビットマイコン
- Armコアの32ビットマイコン
ここまで見て来た他のマイコンメーカの多くは、自社独自コアとArmや8051といった「流通コア」の半々くらいのミックスが多かったでしたが、エプソンにおいては自社独自コアが卓越していたことが分かります。しかし、このうち、自社独自コアの4ビットマイコン、高性能4ビットマイコン、8ビットマイコン、32ビットマイコンまでは、全て「保守品種」という「肩書」がついています。現行品として「推し」ているのは自社独自コアの16ビットマイコンとArmコアの32ビットマイコンの2系統だけということになります。この構成は、ここまで調べた他の多くのマイコンメーカが、4ビット品と16ビット品を整理して、8ビット品と32ビット品に注力するという方針であるなか、かなり珍しいと思われます。
Armに関しては、マイコン用のArmとしてはもっとも基本的なミニマムコアであり、他社での採用も多いCortex-M0+コアです。Arm社はこのコアを導入しやすくするプログラムを持っているので、それに乗ったのかもしれません。Armマイコンで量産になっているのはまだ2機種だけのようです。これに対して、他社の場合「整理」してしまっている16ビット系統が主力マイコンとして充実しているのがここの特徴です。16ビットマイコン内に用途別に10系列、合計50機種ほどをラインナップしています。ここでも表示が大きな特徴になっています。
- セグメントタイプのLCDドライバ
- ドットマトリックスタイプのLCDドライバ
- LCDコントローラ
- EPDドライバ
の4系統の表示デバイスをサポートしている製品系列が存在します。表示なしの系列も存在しますが、機種数の比率からすればエプソンマイコンは「表示用回路のお供にCPUがついてくる」と言って良いかもしれません。前回のTenx社以上の徹底ぶりです。なお、LCDドライバとある上の2つは、パッシブ型の白黒などの液晶を駆動する回路そのものを集積したもので、セグメントタイプは数字やアイコンなどの表示できるものが決まっている小型のタイプ、ドットマトリックスは汎用で任意の漢字なども表示できるようなタイプです。LCDコントローラとなるとアクティブ型のカラー液晶などを制御するための制御回路を集積したもの、EPDドライバは、EPD(電子ペーパー、通常白黒)を駆動するためのタイプです。このような表示の充実が16ビットに限らずエプソン・マイコン共通の特長です。
それにしても4ビットマイコン、絶滅危惧でも「レッドリスト」入り、風前の灯火という感じです。何時まであるのか。。。