特許の失敗学[7] クレーム(その2)NGワード

特許の失敗学
NGワード
特許クレームは契約書と同じく一言一句、注意深く記載しなければなりません。特許クレームにはNGワードのようなものが多数あるため注意しないと失敗します。特許審査官は、当然ながら欠点のあるクレーム記載を理解していますが、問題点を出願人に教えてくれません。審査官は特許法や審査基準に基づいて審査して必要な拒絶理由を通知するのであって、審査した特許が有効(収益可能)かについては出願人に通知することはありません。

 NO ONLY
特許クレームで最も注意を要する言葉は「のみ」でしょう。
のみ」の記載がクレームにあると、特許査定で特許登録しても容易に特許回避できます。つまり、クレームに「のみ」を含む特許は権利行使できない可能性があります。例えば次のような記載です。
  (1) [原料A]のみを含む[構成要素B]と、~
  (2) [センサーA]のみを用いて[処理B]を行い~

「のみ」はその対象が100%であると解釈されます。従って
(1)は[原料A]以外の原料を含むことで回避可能です。(2)は [センサーA]と異なる第2のセンサーを追加使用することで回避可能です。技術としては「~のみ」で実施することはコストダウンに寄与する優れた設計です。しかし特許で「のみ」を含むクレームは回避容易という残念な結果となります。
請求項1などの独立クレームに「のみ」が記載されていると、その独立クレームを引用する全ての従属クレームが回避可能となり、その特許が無効であるのと同様になります。
「のみ」の記載が問題とならないケースもありますが、特許クレームでは「のみ」の記載は避けるのが無難です。

公開特許のクレームで「のみ」が記載されているか調べてみます。
特許・実用新案検索|J-PlatPat
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
のHPで論理式検索します。手順は、
ホーム→(特許・実用新案 pulldown)→ 特許・実用新案検索→ 論理式入力→ 検索

「のみ」をクレームに含む公開特許の件数(過去4年間)は、
 [のみ/CL]*[特開2016/BI] → 2450件
 [のみ/CL]*[特開2017/BI] → 1321件
 [のみ/CL]*[特開2018/BI] →   236件
 [のみ/CL]*[特開2019/BI] →     41件

毎年「のみ」をクレームに含む特許件数は減っていますが、つい最近の2017年の特許公開までこれほど多数の「のみ」を含むクレームの特許出願があったことに驚きました。

「以上」「以下」
上限又は下限だけを示すような数値範囲限定(「~以上」、「~以下」)がある結果、発明の範囲が不明確となる場合は、拒絶理由が通知されます。「発明の範囲が不明確」というのは、「~以下」により数値範囲の上限だけ記載すると数値範囲には0%も含まれるが、「当該要素を0%含む」数値限定は不明確としてNGという事です。法律文書にゼロは禁止ということです。
「以上」「以下」を含むクレームについてはウェブにいろいろ解説があります。拒絶理由通知に応答する際にクレームを補正しますが、明細書にクレーム補正の根拠となる記載が無い場合(明細書のサポート要件不備)は特許査定を受けられない出願となる可能性があります。
このように、クレーム記載には法律文書に特有のトラップがあるので、特許実務経験の無い発明者が特許明細書を自筆して、弁理士のチェック無しで出願するのは非常に危険です。特許が登録となっても、回避が容易であれば、特許権利行使はできません。

Afterword

ある時、特許審査で「公序良俗違反」という拒絶理由通知を受け取りました。明細書に何か不適切な表現があったのかとビックリしました。その衝撃の拒絶理由とは、...図面に会社のロゴが表示されていたのでした。まるでソフトウエアのエラーで、読んでも原因が不明なメッセージを出されたときに似てると思ったのでした。特許出願で広告宣伝してはいかんということですな。チャンチャン♪