特許アイデアから出願権利化そして特許収入に結び付けるために、具体的なアイデアをとりあげて事例研究(case study)をしてみます。
車を運転しながら考えました。カーブではフロントガラスのピラーで視界が制限されて危険を感じます。
「このピラーが無ければなー」
「せやけどピラーがあらへんと構造的に無理かいな」
「ほな、光学迷彩みたく透明にしたらええんや」
「曲げられるパネルが利用できるのちゃいますか」
『自動車のAピラーを透明化する』というアイデアを調べてみます。
アイデアを発明として完成するには、最初のステップは先行技術の調査です。ほとんどのアイデアはこの段階で特許として新規性がないことが分かります。例え特許出願に至らなくとも、そのアイデアを事例研究して有効に活用しましょう。「特許の失敗学」のミッション「お金をかけずお手軽に特許収入を目指す」のために。
Aピラー透明化
◆ J-Platpat検索
特許検索の正道、J-Platpatで特許検索します。
J-Platpat
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
ホーム > 特許・実用新案検索
検索項目 : 全文
キーワード:「Aピラー 透明化」
検索実行すると、いきなり残念な結果が出ます。
検索結果が3000件を超えたため表示できません(41089件)。
検索オプションの日付指定などで検索範囲を絞り再度検索してください
J-Platpat使えまへんなと思いながら、「条件を論理式に展開」というボタンを押してみます。
[Aピラー/TX+透明化/TX]
失礼いたしました。J-Platpatのマニュアルを読まずに検索しているからこうなります。スペースはOR条件でしたか。Google検索と同じでスペースはAND条件と勝手に考えてました。
そこで、検索式を編集して再度の検索です。
[Aピラー/TX]*[透明化/TX]
検索結果は、9件でした。 国内文献 (9) の中でアイデアに該当する出願は、
特開2015-085879 車両用表示装置 矢崎総業株式会社
特開2015-085879のURL情報をコピーしました。
これだけでも、「Aピラー透明化」のアイデアは公知と分かります。
特開2015-085879の経過情報を見ると、審査請求後の拒絶理由通知に出願放棄です。という事は、この出願に更に先行技術があるということです。
普通は、権利化をあきらめる場合は拒絶理由通知に応答せずに、みなし取下げとします。この出願人は律儀に出願放棄書を提出しています。(初めて見ましたよ)
特許審査の手続きについて知りたい方は、URL情報をクリックして、経過情報から下記のリンクをチェックしてくだされ。
特許願 2013/11/01
出願審査請求書 2016/10/20
検索報告書 2017/06/15
拒絶理由通知書 拒絶理由条文コード (22 第29条第1項等) 2017/06/20
出願放棄書 2017/08/11
査定種別(査定無し) 最終処分(放棄) 最終処分日(2017/08/14) 通常審査
正道の特許検索はどのような検索式を使うのか、「検索報告書」を見ればわかります。そもそも、特許調査のプロは予備検索の段階でも「全文 Aピラー 透明化」のような簡単な検索式は使いません。お勧めはしませんが、お時間と興味のある方は、特許分類コードとかの特許調査の勉強をしてください。
◆ pseudo patent search
特許検索の邪道「pseudo patent search」日本名「なんちゃって特許検索」その実態は『Google画像検索』であります。
まずは、Google検索 「Aピラー 透明化」
そして、Google画像検索をクリック ビジュアルな先行技術の確認ができます。
「ピラーの透明化」のアイデアを考えた人は相当多いようで、「車輪の再発明」状態でありました。その中でもトップにヒットするのはトヨタ自動車の特許です。Aピラーを光学的に消してしまう技術で、電力無しで課題解決します。この状況だと「Aピラー透明化」の出願は諦めざるを得ません。
J-Platpatの検索で、どうしてトヨタの特許出願はヒットしなかったのか?
それはね。
検索式があかんかったんや。
最大の問題点は、「透明化」のキーワードです。トヨタの特許明細書には「透明」という記載しかありませんでした。
[Aピラー/TX]*[透明/TX] でJ-Platpat検索をします。
国内文献(345) 345件がヒットします。全部チェックするには多いですね。
そこで、近傍検索を利用します。
[Aピラー,20N,透明/TX] でJ-Platpat検索
国内文献(14) 14件のヒットです。これならまあまあですな。
◆ 概念検索
Arahaが知財部門に在籍した後期に「概念検索」という検索ツールが導入されました。その目的は特許検索技術に疎い発明者でも先行技術調査を行えるというものでした。
(参考)出典:概念検索はなぜ上手に検索できるのか?
http://www.patentcity.jp/patentcity/japio2008yb.htm
初期の「概念検索」は機械学習などのAI技術を利用したものではなかったと思います。検索結果は、上記のようなヘボい検索式より遥かにすぐれてましたが、的外れな検索結果も出力してました。
Google検索(pseudo patent search)が優れているところは、
・特許文献のみならず非特許文献も検索できる(外国情報もヒットする)
・検索クエリーはキーワードだけでよい
・あいまい検索を実現している
・関連性(重要度)が高い順番で結果が表示される
・検索結果のチェックが容易。画像でチェックできる。
特許審査の先行文献は、普通は日本の特許公報です。まれに外国特許公報や専門書籍が引例として挙げられます。しかし、特許は世界公知(新規性阻害事由となる公知公用について、国内のみならず外国における公知、公然の実施や文献の公開を先行技術に含めること)なので、特許庁の特許査定で特許登録されても公知資料があれば特許無効となります。
特許検索の技術に疎い発明者にとって、「Google検索(pseudo patent search)は先行文献調査に十分使える」という仮説を立てました。今後の事例研究で検証していきます。
◆ Afterword
Don’t think! Feel. 出典:映画『燃えよドラゴン』
Arahaが知財部門で仕事を始めたころ、超絶的な才能をもつ特許技術担当(エヌ氏)の噂を聞きました。なんでも普通の技術担当の数倍の速さで中間処理(特許出願後、権利化に向けて特許庁との間で行われる各種手続の総称)をこなすそうです。仕事が遅い者からすると信じがたい話でした。ところが組織変更でエヌ氏が私の上司となりました。
エヌ氏は博士号を有する元研究者で、知財の仕事にも独自の哲学を持つ人でした。エヌ氏は技術担当をしながら自社技術に基づく大量の出願もこなしていました。私が長時間かけて検討した拒絶対応の承認確認に行くと、パラパラと資料を見て「ここがポイントだよ」と教えてくれました。私が英語クレームの書き方が分からないと言うと、時間を取って講義してくれました。知識が足りない者を馬鹿にするようなことはありませんでした。
エヌ氏は「この発明は筋がいい」と言うことがありました。「筋がいい発明」とは、学術的に優れたという意味ではなく、特許性が確実(特許無効にならない)、実施が容易で回避が困難(コスト問題なし)、そして効果が明白で有用な特許であると考えます。つまりは経済的価値も高い特許です。例えば、特公昭53-29260号(ICカードのチップ配置)は「筋がいい発明」であると思います。
特許の失敗学[6] クレーム(その1)
「Don’t think! Feel.(考えるな!感じろ。)」
このセリフには、続きがあります。
「Don’t think! Feel. It is like a finger pointing away to the moon. Don’t concentrate on the finger, or you will miss all that heavenly glory.」
「考えるな!感じろ。」はアスリートの天才的な感覚のことと思っていました。実は深い意味があることを最近やっと知りました。ネットの解説記事をご参照ください。
エヌ氏の驚異的な中間処理の能力は努力なしで得られるものではないでしょう。その努力の結果として「筋がいい発明」は『感じる』ものだと思います。
「お金をかけずお手軽に特許収入を目指す」において、
「finger」は特許登録、「moon」は特許収入であると考えます。先に掲げたミッションについて、お金をかけないため努力は必要なので「お手軽に」は削除して見直します。
「最低限の費用で特許収入を目指す」… ミッション 2020/06/24 改訂