連載小説 第53回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、同期の工作君とトム君とも一緒に毎日忙しくやっています。Appleの青井倫吾郎さんとは、二人でお食事を楽しむご関係に発展し・・・。もしかして、近々、婚約発表?

 

 

第53話 メキシコ料理Fajitasの夜

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の10年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)は水平方向へ更に見事な成長をとげつつありましたが、アップル・コンピュータにお勤めの青井倫吾郎さんとは二人で毎週お食事を楽しむご関係に発展し、もしかすると近々婚約発表? でも、その前に確かめなければならない事があるかも・・・。

 

「Hi there. May I have a reservation, please ?」

「Sure, when is that ?」

「6 pm, this Saturday for 2 persons」

「OK. Let me see. Yes, we can reserve a table for you this Saturday. Your name, please.」

「Yonbito. Y, O, N, B, I, T, O.」

「All, right. All set, Ms.Yonbito.」

「Thanks, Bye.」

「Bye bye.」

てな調子で、メキシカンレストランの予約を入れたワタクシ詠人舞衣子です。土曜日になれば、また「青井の君」とお食事です。今回は、いつもと少しだけ違います。それは、車でなくても行けるお店を予約しようという事で、San Joseのダウンタウンにあるレストランにしました。なにゆえ車でないかと言いますと、メキシコ料理と言えば、テキーラ! だからなのです。軽くビール1杯というのではなくて、何てったって40~50%もアルコールが入っているテキーラなのですから、かなり来ます。まあ、普段はカクテルのマルガリータとかで頂くので、大した事はないのですが、テキーラをショットで頂くと結構来ます。今回はいつもと違ってみようという事になり、青井倫吾郎さんとダウンタウンへ行く事になりました。

San Joseのダウンタウンは、東京とかのイメージとは大違いで、賑わいの程度で言えば、月とスッポンぐらいです。大した事はありません。でも、一応70万人くらい(1991年当時)の人口を抱えるシリコンバレーの中心都市ですから、ある程度人通りもあります。

私たちは土曜日の5時半頃に、そのメキシコ料理店のバーへ入りました。まずは、テキーラショットです。

 

「舞衣子さん、じゃあ、テキーラショットで乾杯ですね」

「そうですね」

「サルー!」

「サルー!」

私たちは、ライムを搾ってちょっとお塩をふった手の甲を舐めてから、ショットグラスに注がれたテキーラを一気に飲み干しました。

「きく~!」

「ききます~!」

確かに効きました。

「もう1杯いきますか?」

「ええ、いきましょう!」

調子に乗って、私たちは2杯目のテキーラショットを頂き、かなり絶好調になった上で、レストランのテーブルへと移動したのですが、テキーラという奴はかなりの難敵でして、食事のオーダーをする頃には既にいい気分になってしまっていたのでした。

「舞衣子さんは何をご所望なさいますか? あはは」

「そうですねえ、大抵いつもの料理と決まっているのですが、因みに倫吾郎さんのご所望は? うふっ」

「ま、定番と言えば定番なのですが、一番好きなのは、Fajitasですね」

「あら、奇遇ですね。うふっ。私もFajitasをご所望しちゃおうかと思ってました」

「ステキです、舞衣子さん。ChickenとBeefとありますが、どちらをご所望ですか?」

「ここが難問なのですが、実は私、両方ご所望なのでして・・・。倫吾郎さんは?」

「奇遇ですねえ。ボクも両方ご所望なのでして・・・あはは」

「あら、気が合いますね。では、チキンとビーフをオーダーしてシェアしましょうか」

「最高です、舞衣子さん!トルティーヤはFlourとCornとどちらをご所望でしょうか」

「実は両方ご所望でして。倫吾郎さんは?」

「気が合いますね。ボクも両方ご所望でして。あはは」

「では、両方頂きましょうね。ステキです。うふっ」

「マルガリータも頼んじゃいましょうか」

「ええ。ステキです。うふっ」

テキーラのカクテルとして人気のフローズン・マルガリータを飲みながら、つまみのSalsa & Chips を口にしているとどんどん調子が出てきて、二人とも饒舌になってきました。それと同時におなかも満たされていき、冷静に考えれば、大丈夫?調子乗りすぎじゃない?という感じでしたが、当時は冷静さなどどこにもなく(笑)、メインディッシュのファヒタスというメキシコ料理が運ばれてくる頃には、絶好調過ぎて、食欲も止まることなく、あれこれと楽しいお話をしながら、サルサグワカモレを塗ったトルティーヤにチキンとビーフを挟んでは食べ、また挟んでは食べして、ファヒタスを完食したのでした。うふっ。

「ボクはもうおなかいっぱいです。I’m full.」

「私もです。Me, too.」

「でも、デザートとかコーヒーとかはいかがですか?」

「ああ、そうですね。デザートですね」

「このお店のデザートは美味しいらしいですよ」

「こんなに沢山頂いたのに、この上、デザートなどと言ってよろしいのでしょうかね、倫吾郎さん。うふっ」

「さあ、どうしたものでしょうね。あはは」

「メニュー頂いてよろしいでしょうか?」

「頂きましょう」

てな調子で、この上、まだイケるのか?という疑問はわいてくるのですが、私たちは恐れ知らずなのでした。若くて元気いっぱいだった頃のお話です。

ひとしきり、甘味とカフェイン抜きのコーヒーを頂きながら、談笑を続けた私たちでしたが、とうとう目の前のデザートも飲み物もなくなり、楽しい時間も満了となりました。

「じゃ、行きましょうか」

「そうですね。行きましょう」

「おお、車がないのでしたね」

「そうなんですよ、倫吾郎さん」

「という事は」

「という事は?」

「うううむ。これはキャブが必要ではないかと」

「そうですね。キャブですね」

キャブというのはCabでして、タクシーの事です。車社会のアメリカでは普段タクシーを使う事はあまりありません。でも、本日はそれ以外に方法がありません。で、キャブを呼んでもらい、ようやく帰途についたという次第です。

世界がびっくりするようなイノベーションを生み出していくアップル・コンピュータの一員である青井倫吾郎さんと、非上場ながらシブい存在であった日本の地方メーカー、サイコーエジソン株式会社の一員である詠人舞衣子とが、 初めて “リップの関係” に至った記念すべき夜でした。

 

 

第54話につづく

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