連載小説 第121回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。米国現地法人のSS-Systemsを経て、今はミュンヘンにあるヨーロッパ現地法人のEdison Europe Electronics GmbHに勤務しています。世界中で携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。我々の半導体製品もその波に乗って大忙しです。そこへ液晶表示体と水晶製品のビジネスも統合され、更に大忙しです。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第121話 〇%$X□&△◎なので

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の19年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。アメリカの現地法人SS-Systemsを経て、ヨーロッパの現法Edison Europe Electronics GmbHへ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんと1歳になった子どもと暮らしています。ビジネスは絶好調でした。

 

 

1998年も暮れようとする或る日のこと、夕食を終えてくつろいでいると、倫ちゃんが大事な話があると言いました。

「これからの事を舞衣子と相談したいんだけど」

「え、何かあった?」

「実は、ソミーから日本勤務して欲しいって言われたんだ」

「ええっ、異動?」

「うん、まあソミーミュンヘンは雇われ社長だから、ソミージャパンのご意向は尊重するって事なんだろうけど、そもそも海外勤務前提でソミーへ転職したからさあ、日本に戻る事は全然考えていなかったんだよね」

「うん、そうだよね」

「舞衣子みたいにさあ、そもそも日本でサイコーエジソンに入社して海外赴任してるっていうような訳じゃないから、ちょっとピンと来ないんだよ」

「そうね。まあ、私のケースだったら、日本から帰任命令が下れば、基本的には日本の海外営業部なりへ戻らなくちゃいけないんだろうけど、倫ちゃんはちょっと違うよね」

「ああ、まあ、ソミーミュンヘンを首になったら、自力で次の道を考えなくちゃならない立場ではあるのかなあ」

「でも、どうして日本へ異動って言われたの? 何かやらかした?

「いや、何もやらかしちゃいないよ。むしろ、ヨーロッパでの売上げは伸ばしているし、業績は悪くはないんだ」

「じゃ、どうして?」

「それがさ、企業秘密なので、これ以上はホントは妻と言えども言えないんだけど、実は〇%$X□&△◎でさあ・・・」

「へええ、〇%$X□&△◎なんだあ」

「□$X□〇&って□〇&△◎だろ?」

「うん、□〇&△◎だよね。それで、倫ちゃんが日本へって訳ね」

「ああ、そういう事なんだよ」

「まあ、そういう事情なら、そういう辞令が出てもおかしくはないか」

「うん、%△□$Xは%△□$Xだからさあ」

「うん、%△□$Xは%△□$Xだね」

と、何がなんだか分からないでしょうが(笑)、そんな会話がありまして、これからの自分たちの仕事と生活をどうするか考えなくてはならなくなりました。

私たちのオプションは以下の3つにまとまりました。

  • 倫ちゃんはミュンヘンで転職先を探す。舞衣子はそのままEEEG。
  • 倫ちゃん日本への異動を受ける。舞衣子は日本へ帰任できるか打診する。
  • 倫ちゃんは、アメリカへ戻って仕事を探す。舞衣子はサイコーエジソン株式会社を辞めてアメリカへいく。

いずれのケースも2人が離ればなれになる事はないようにしようと大前提を決めました。まだ1歳になったばかりの子どももいますしね。

私はと言えば、サイコーエジソン株式会社の仕事も人も大好きで、できる事なら辞めたくないという気持ちでしたが、そこだけを曲げずにというのも違う気がして、二人が納得する選択をしたいと思いました。

「ねえ、倫ちゃん。倫ちゃんはどうしたいの?」

「うん、迷うよねえ。どの選択肢も一長一短だからなあ」

「私は、できればサイコーエジソンを辞めたくないけど、まずは倫ちゃんの気持ちを聞いてみたいよ」

「ありがとう、舞衣子」

「好きだよ、倫ちゃん」

「ボクもだよ、舞衣子」

「うふっ」

「うふっ」

なんて会話がありまして、ステキな二人の出した結論は、二人で日本へ帰る、でした。

倫ちゃんの海外生活はもうとっくに10年以上になっていましたし、私もそろそろ10年にさしかかろうとしているところでした。勿論、そのまま二人とも海外で暮らしていても良かったのですが、まあ、どっちでも悪くはないのだったら、そろそろ日本に戻ってみるというのもありかな、という事になったのです。大学もその後の仕事も海外だった倫ちゃんにしてみれば、日本で日本の企業に勤めてみるのも経験になると考えての事でした。

日本と欧米の仕事の慣習や考え方の違いで、倫ちゃんは後々まあまあ苦労する事になるのでしたが、その時点ではそこまで心配はしていませんでした。

むしろ、久し振りに日本で暮らして、日本を楽しみたいという気持ちもあり、二人して、どこに住もうかなどと考え始めると、ワクワクするようになっていました。

私は、横山社長に調整して頂いた結果、海外営業部へ戻る事が決まりました。とうとう、海外赴任生活も終わろうとしています。その間に結婚して、子どもも産んじゃったのですから、結構スゴいですよね(笑)。

3月末で帰任となります。ミュンヘンでの生活も後3ヶ月ほどです。

 

第122話につづく

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