<これまでのあらすじ>
サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、4月から久し振りの日本勤務です。20世紀も終焉に近づいていく中、我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶発振デバイス)はどうなっていくのでしょうか。
(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら)
第125話 日本でのお仕事開始です
私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の20年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て日本へ帰任しました。家族は3人一緒でラブラブです。うふっ。
日本に戻って何日かは帰任休暇というのを貰えたので、それなりに生活のセットアップができました。4月1日から勤務開始です。
私の帰任先職場は海外営業部で、担当は電子デバイス全部のインサイドセールスとオペレーションでした。これまでやってきた内容と大きな違いはないので、すんなり入りこむ事ができました。
トム君も全く同じように帰任して、彼も海外営業部に配属されました。担当はアメリカ向けの営業です。帰任当初は半導体担当でしたが、半年後には液晶も水晶も担当する事になります。
そんな訳で、またまた、私とトム君は同じ職場で仕事する事になったのでした。因みに私たちの大事な同期の工作君は国内営業部へ異動していました。同じ電子デバイス営業本部の中なので、もちろんたびたび顔を合わすのですが、それぞれに忙しいので、そう頻繁には時間を共有できません。それでも、工作君は私とトム君のために、一番仲の良い3人での歓迎会をセットアップしてくれました。
「かんぱ~い!」
「かんぱ~い!」
「かんぱ~い!」
と久し振りに3人の声が揃いました。
「舞衣子もトムもよく帰ってきてくれたよ。ありがとう」
「ありがとう、工作君。なんだか、落ち着くわ。やっぱりこの3人だと」
「俺もそう思ったところだよ。ありがとな、工作」
工作君が予約してくれたのは、最寄り駅の居酒屋で、何てことはない店でしたが、それも同期の3人のような気の置けない仲間で来るにはちょうどいいような所でした。
「それにしても、二人はアメリカだけでなくてドイツにまで行っちゃったから、もしかして、もう帰って来ないんじゃないかと思ったよ」
「俺もちょっとそう思った時もあったけど、まあ、いったんの区切りになったよ。なあ、舞衣子」
「うん、そうだね。それにしても私たち、これでもう20年生だよ」
「おお、そうか、舞衣子、いいとこに気づいたな」
「そうだよね。ボクたち20年生なんだな」
「スゴいよね、工作君、トム君」
「ああ、スゴいよ。なあ、トム」
「おお、よく頑張ってきたよな、工作も舞衣子も、俺も」
「って事はさ。帰任の乾杯だけじゃなくて、20年目に乾杯しようよ」
「おお、そうしよう」
という事で、開始5分で、すでに2回目の乾杯とあいなりました。
「かんぱ~い!」
「かんぱ~い!」
「かんぱ~い!」
と3人の声が揃ったところで、トム君が工作君にききました。
「ところで、工作、日本の市場はどうなんだ?」
「ああ、結構順調だよ」
「何が一番伸びてるんだ?」
「やっぱり、携帯電話だな」
「おお、そうか。そうだよな」
「何てったって、電機メーカーは軒並み全部だよ。携帯電話をやらないメーカーがないんだ」
「そうか。スゴいな」
「ねえねえ、でもさあ、工作君、それだと、またスゴい競争になっちゃって、いずれ大変な事になるんじゃないの?」
「俺もそう思うよ、工作」
「ああ。それはボクたちも心配はしてるよ」
「だろ?」
「だけど、今のところはまだまだ需要の伸びがスゴくってさ、暫くは大丈夫な感じだよ」
「そうか」
「じゃあさあ、工作君、携帯電話以外だったら何があるの?」
「一つはカーナビだよ」
「カーナビかあ」
「一台20~30万円のカーナビがバカスカ売れてるよ」
「へえ」
「結構高額だなあ」
「今のところ、ほとんどが純正品だから高くてもみんな買っちゃうんだよ」
「なるほどな」
「ねえねえ、じゃあさあ、工作君、純正品じゃないカーナビが出てきたらどうなるの?」
「うん、それもどうなるかなんだけど、今のところはまだ純正主導でいくんじゃないかなあ」
「おい、工作、そんな事言ってたら、ある日突然間に合わなくなってたりするんじゃないか?」
「そうか?」
「ああ、さっさと、純正じゃないカーナビの事も考えろよ」
「そっか、ま、それもそうだな。明日、カーナビ製造メーカーの担当に相談してみるよ」
「おお、そうしろよな」
「ああ」
そこで私は口を挟みました。
「あれあれ、トム君、なんか偉そうじゃん」
「や、偉そうなことを言った積りではないのですがね(汗)」
「ダメよ、上から目線は」
「あ、はい」
「いい子ね、トム君、うふっ」
「はい・・・」
という訳で、私は上から目線的なトム君にちょっとだけ釘をさしておきました(笑)。あ、因みに、“上から目線” という言葉はその頃はありませんでしたね。その頃まだあった言葉で言えば、“タカビー”という事になるかも知れません。でも、タカビーも殆ど死語化していますね(笑)。
そんなこんなで、楽しい夜は更けていきました。
何回目かの乾杯をしたあと、明日は朝から客先回りだよ、と言って工作君が席を立とうというところで、トム君も私も帰る事にしました。昔みたいに、いつまでも飲んでいられるご身分ではなくなっています(笑)。家には子どもも待っているので、適当なところで切り上げる事がお作法だと言ってお店を後にしました。
以前のように遅くまで一緒にはいられませんでしたが、久し振りに同期の3人で集まる事ができて、とても幸せでした。
まだまだ、売上げが右肩上がりだった頃のお話です。