Rのパッケージ「Boot」に含まれるサンプルデータセットをabc順に経めぐってます。今回はnuclearとな。米国における軽水炉の建設がイケイケだった1960年代後半から70年代前半あたりの原発建設のコストに関するサンプルデータです。建設コストの上昇を背景的な問題意識としてもっているのだと思います。米国でも補助金問題?
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サンプルデータセットの話の前に個人的な感想を書いてしまいます。今を去ること40年以上前、あと少しで半世紀前になるやという時代、大学の授業で「原子力工学」をとりました。当時既に加圧水型、沸騰水型とも軽水炉の基本技術はほぼほぼ完成形。バリバリと原発の新設が相次いでいた時代です。真面目な学生だったので、ちゃんと勉強して単位取得。たしかAくらいの評価はもらったハズ。当然、その後の効率向上とかコマケー改良は目論まれていたハズですが、その当時の教科書の将来展望の目玉は、核燃サイクル(再処理とか増殖炉とか最終処分場とか)だったという朧げな記憶。教科書を真面目によんで「あと10年もすればカッコがついてくる」みたいな理解で試験も通り過ぎました。しかしそれから半世紀も経つというのにカッコがつくどころか、主要プロジェクトが軒並み討ち死に状態。人、モノ、金と50年ちかくの時間を使って出来なかったというのは教科書に掲げられていた当初計画に問題があったに違いないと思ってます。そういえば、当時から原発反対派はいた中に、ごく一部工学系で、かつ反対している「マイナーな」おじさんたちがいた記憶。反対派の中でもマイナーな存在。言ってることムツカシーから。核燃サイクルの工学的実現性に異を唱えてらっしゃいました。当時の真面目な学生は教科書を信じていたので、そういうオヤジもいるのね、くらいで通り過ぎてました。しかし今にして思うと間違っていたのは教科書だったのね。今頃気づいても遅いか。
nuclear、サンプルデータセット
サンプルデータセットの解説ページが以下に。
Nuclear Power Station Construction Data
60年代後半から70年代前半の米国における32基の軽水炉建設費用についてのコスト・データです。ただし、上記解説ページに曰く「見積もられたコストにメーカーの補助金が隠れている可能性」があるそうな。コストを鵜呑みにするな、と。補助金の分コストが安く見えているってことかい?どこの国もいろいろあるのね。データ列としては以下の通り。
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- cost、1976年水準に補正された「ミリオン・ドル」
- date、「1990年1月1日を基準とした」らしい建設許可の下りた日付。年単位とのこと。単なる西暦下2桁に小数点付に見えないこともないが。
- t1、建設許可の申請から下りるまでの期間
- t2、建設許可が下りてから稼働許可が下りるまでの期間
- cap、原発の出力、単位MWe (熱出力 MWt に効率xx%を乗じた電力としての出力)
- pr、同じ敷地内の既存炉の有無
- ne、発電所のロケーションが米国北東部か否か
- ct、クーリングタワーの有無
- bw、発電用の蒸気供給システム(ボイラーなど)がBabcock-Wilcox社製か否か.
- cum.n、建設を担当したarchitect-engineer毎の累積建設件数
- pt、部分的なturnkey guaranteesが含まれているか否か
うち、6番目以降は、原発の建設コストに影響があると思われているらしい「パラメータ」みたいです。6番は、同一の敷地内の「2号機」以降の建設かどうか。1号機があれば多少安くつくってこと?7番は米国でも北東部(人口多い)かどうか。当然人口が多いところの方がコストが高くなりそう。8番はクーリングタワーの有無。米国の内陸の発電所でよくみる巨大な冷却塔の有無ですな。日本では海沿いの立地で海水で冷却しているケースが多いと思うけれども、内陸などでは冷却水をタワーから落として熱を空気中に捨てるしかないのでその対処かと。原発のクーリングタワーには入ったことは勿論ないけれども、地熱発電所の「小さめの」クーリングタワーには入ったことがありますぜ。冷却水がしたたり落ちる巨大で空虚な空間。
9番目は特定の会社、BW社がボイラーを納入しているか否かという項目。BW社は米国海軍御用達?軍艦の蒸気ボイラーなども作っていたのではないかしらん。会社のURLが以下に。
10番目は、建設の「主任」的な技術者の何番目の仕事なのかを示すみたい。いくつも作っていれば慣れてくる?
11番目が問題の補助金がらみ。turnkey guaranteesという制度がどういうものかは分からないけれども。turnkeyというからには、何か「お任せ」で即稼働できるようにしてもらう代わりにギャランティーが含まれているのか?それが見掛けのコストを下げているの?分からんです。
なお、『一般社団法人 日本原子力産業協会』様の以下のPDF資料に、米国の原発新設数と、廃炉数などのグラフが載ってます。以下の資料を拝見しても1970年前後は米国における軽水炉設置の「黄金時代」であることが分かります。資料自体は「既存炉を有効活用しようよ」という趣旨のものみたいです。
既存炉活用に頭から反対する気はないのだけれども、この間の地震でも「基準の半分くらいの地震動」しか観測されなかったハズなのに「変電器だか何だか」壊れていたよね、確か。基準以下で壊れる、とかはオカシイだろ~。普通はちょっとくらい基準超えても大丈夫な設計するもんだが。
先ずは生データ
結構列数が多いので全貌の把握がつらいっす。
そこでということでプロットしてみました。
plot(nuclear)
こんな感じ。黄色のマーカはdateに対して明らかな右肩あがりになっている感じの項目です。コスト、申請から建設許可が出るまでの期間、そして経験値がアカラサマな比例関係に見えますな。
6番目以降のパラメータのコストへの影響
さきほど述べましたとおり、6番目以降のパラメータの影響に興味しんしんだったので、例によって aggregateしてみました。まあ原発の規模を示すWeとかは無視の集計なので雰囲気だけだけれども(コストをWeで割ったものを指標にしたら良さそうだと今気づいたけれども後の祭り。)
既存炉があった方が、コストが安い傾向はあるっと。当然か。
おお、北東部に作るのはコストがかかるのが歴然。でも人口多いっていったって日本に比べたら人口密度少ないっす。その上安定陸塊で氷河に削られたせいで地面の直ぐ下に岩盤があるようなところだし。
やはり、クーリングタワーがある発電所の方がコスト高みたい。
なんだ、BW社製使った方が安いじゃん。でもね、ここだけみて「騙されては」いけませぬ。
おお、上記をみると、ギャランティーが含まれている案件の見掛けのコストの安さが際立ちますです。
もしやということで、BW社製とギャランティーの両方で集計してみたものが以下に。
ギャランティが含まれていないもの同士、ギャランティが含まれているもの同士を比較すると、BW社製の方がいつも高いじゃあーりませんか。BW社製だけを取り出してみると安く感じるのは、BW社製品でのギャランティ付きの率が高い(案件の50%)ためかと。これはどういうこと。。。何かの御用達?
Bootストラップ法の例題
今回のサンプルデータセットについては、boot関数のところにブートストラップ法を適用して回帰分析を行い、コストの予測をたてるためと思われる処理例が掲載されています。
何がなにやらよく分からん(デバガメ的な後ろの方のパラメータはバッサリなのでイマイチ興味も持てませぬ)ので、言われたとおりに処理しておきます。
最初にnuclearの一部列のみ抽出して nuke (といわれると原爆かと思うじゃないか)というデータセットを作り、回帰分析かけてます。
抽出した nuke が以下に。bwとか不穏な列はバッサリ切られてます。
このデータセットの後の時代にスリーマイル島の事故とかあったので、この「黄金時代」のデータを外挿するのは意味あるんかなあ。まあ、R言語の練習用だな。