SPICEの小瓶(42) 2SC1815のスパイスパラメータ「2種」、実機と比べてみた

Joseph Halfmoon

LTspice付属モデルのように「中の人」がいる安心なものがある一方ちょっと不安なモデルもままあります。代表的なものが定番のNPNトランジスタ2SC1815のモデルではないでしょうか。御本家東芝製品はとうの昔にディスコン。ネットを探せば「アチコチ」にモデルが散在。Spice素人の老人にはどれを使うべきかためらわれます。

※「SPICEの小瓶」投稿順インデックスはこちら

※ Analog Devices, Inc. LTspice を使用させていただいて動作確認しております。今回使用のバージョンは以下です。

XVII(x64) (17.0.37.0)

手元にある2SC1815のモデル2種類

実は手元には出所がイマイチ不明なSPICEモデルと、出所は明らかだけれども「手入力」したSPICEモデルの2通りがあるのです。

    • その1、コメントに『madlabo』様のお名前が見える「.model Q2SC1815 NPN(…」で始まるモデル。遥かな太古の時代にNetからダウンロードしたような。URLがコメント記載されているけれど該当ページは存在しなせん。URLからすると『数理設計研究所』様にかつて存在していたページ?とも思われるが今となっては不明。
    • その2,岡村廸夫 先生著「SPICEによるシミュレータ新活用法」1991年CQ出版に記載の2SC1815モデル。「.model QNUN1 NPN(…」で始まる。30年以上前に出版された書籍の中に記載されているモデル。紙の御本から手入力したもの

元よりSPICE素人、BJTパラメータの内部などじっくり見たことも無かったのですが、今回、表にして比べてみました。しかし、比べるにもNPNトランジスタのSPICEパラメータについて知識がありませぬ。そこで『sifoen』プロジェクト様の以下のページにお世話になりました。

BJT-Spiceパラメータ設定

上記のページを読んでいると、お惚け老人でも自分でSPICEパラメータ決められるんじゃ、という妄想が広がります(広がるだけだけれども。。。多分出来んよ。)

モデル全てを掲載するのは差しさわりがあるので、比較表の最初の部分(主要なパラメータ)のみ以下に掲げまする。2SC1815paramTable1

左から、

    1. パラメータの単位(単位書かれていないのは、比などの無単位の数)
    2. モデルパラメータの説明
    3. モデルパラメータの記号
    4. 『sifoen』様がBJTトランジスタ(特定のトランジスタ用ではない)SPICEモデルの初期値として掲げられている数字
    5. 『sifoen』様の推奨値(特定のトランジスタ用ではない)
    6. 上記「その1」の数値
    7. 上記「その2」の数値

なお「黄金色」に染まった欄は、初期値または推奨値と手元モデルの値が一致しておるところです。こうしてみると「そのまま」な値が多い感じ。

しかし、よく見れば手元モデルの「個性」も明らかっす。Bfなどみると「その1」は400もあり、「その2」は140と控えめです。ここは、実際のデバイスを購入するときに「グレード」の違い(お値段も違うハズ)に反映してくるハズのところ。「その1」は結構お高い「元気な」やつ。「その2」はフツーのお値段で買える庶民的なヤツって感じか。

なお、記載のある項目はその1とその2で3,4か個の違いがありました。その辺は省略したので初期値でよろしくってか。

SPICEによるDCシミュレーション

手元の2種のモデルを使ってLTspiceシミュレーションをかけてみました。なお、LTspiceのExampleホルダに、NPNトランジスタを使ってI-Vカーブをシミュレーションするサンプル回路 curvetrace.asc が含まれています。その使い方については、MACNICA様の以下のページがそのものズバリの解説です。

LTspiceを使ってみよう – DC sweep解析でトランジスター特性を確認

上記の回路のモデルを差し替えてやれば、2SC1815モデルでDC解析を行うことが可能です。ただし今回は「現物回路」との比較もやりたいので、「測定用の現物回路」に寄せたシミュレーションモデルにすることにしました。こんな感じ。SCHmadlabo2

上記で include しているライブラリの中に「その1」のスパイス・モデルが含まれております。

さてシミュレーションした結果が以下に。SIMmadlabo2

X軸がVceで、Y軸がIcです。一番上のピンクのトレースはV2(抵抗を介してベース接続)に1Vを与えたときで、その下の青が800mVのときです。600mV以下のときもシミュレーションしてますが、X軸に張り付いてます。電流は流れないっと。

電流が流れるケースでは、Vceとともに電流が元気に増大してってます。イケイケだな、おい。

モデルを「その2」に差し替えたものが以下に。SCHokumura2

シミュレーション結果が以下に。SIMokumura2

「その1」に比べると大分「ねた」感じのトレースになりました。控えめね。電流値も少な目だし、ちょっと元気がない感じ? 一方「その1」では0であったV2=600mVで電流が流れております。

現物でどうよ

現物での測定については以下の過去回でやってみてます。

部品屋根性(91) 2N3904を題材にAD2のカーブトレーサ機能を使ってみる

トホホな疑問(51) 定番2SC1815のIc-Vbe特性、意外とバラつかないのね?

上記とほぼほぼ同じことを手元の現物 2SC1815でやってみました。ただし、先ほど述べたようにオリジナルの東芝製品はディスコンです。しかし人気のデバイスなので今でも「海外製のコンパチ品」を購入することができ、手元のものもそのようなもののひとつです。こっちはこっちでどこまで「コンパチ」なのか不明。砂上の楼閣だな。なお、購入したグレードは「GR」っす。

手抜きな測定対象回路の様子が以下に。2SC1815DUT

上記回路で測定した結果が以下に。DUTcurve

帯に短し、襷に長しな感じだな。SPICEモデルの深みへハマるのか?

SPICEの小瓶(41) LTspiceでNETリストをバッチ・シミュレーションからCSV へ戻る

SPICEの小瓶(43) 勝手改ざんの2SC1815スパイスパラメータで実機特性に近付ける へ進む