今回は電気特性の冒頭付近に書かれている「絶対最大定格」。RP2040とRP2350を比べるだけではイマイチな感じがあったので、日米欧のマイコン業界の巨人?ルネサス、マイクロチップ、STエレクトロニクスの3社のチップの「絶対最大定格」とも比較してみましたぞ。まあ各社クセはあるけれども必要なことは書かれている。大丈夫か?
※Pico関係投稿一覧は こちら 『Pico三昧』は一覧の末尾付近にひっそりと。
※Raspberry Pi Pico、Raspberry Pi Pico2のデータシートは、以下からダウンロードできます。
※今回参照させていただいた各社文書は以下です。
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- RP2040 Datasheet build-date: 2022-06-17 build-version: 7028f9f-clean
- RP2350 Datasheet build-date: 2024-08-21 build-version: 522d2d4-clean
- Renesas RA4M1グループ ユーザーズマニュアル ハードウェア編 Rev.1.00 2020.03
- Microchip SAM D5x/E5x Family datasheet, DS60001507L 2023
- ST Microelectronics STM32F446xC/E datasheet,DS10693 Rev 10, January 2021
今回比べてみたマイコンどもの記載
今回、PicoのRP2040、Pico2のRP2350に加えて、日米欧の大手マイコンメーカの製品の絶対最大定格とも比べてみたのは、他でもありません。RP2040の絶対最大定格、PDFファイルのしおりにもかからぬ奥底の方に記されていて、何か冷遇されている感じを受けたからです。
絶対最大定格、通常、使っている分にはふふん、とか横目で通り過ぎるような規定です。しかし「これを超えたら壊れるよ」というポイントを宣言しているので、B2Bのビジネス的には重要。取引の基本書類である「納入仕様書」とかの一部としてデータシートなりマニュアルなりの一部に必ず含まれてます。それを超えたら責任とれませんよ、という「一線」であります。
日米欧各社の文書における、絶対最大定格(Absolute Maximum Ratings)の扱いが以下に。
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- ルネサス RA4M1、「48.電気特性」の冒頭、「48.1 絶対最大定格」として記載
- Microchip SAMD51(元ATMELのチップなのでATSADM51と記することも多し)、「54. Electrical characteristics at 85℃」の先頭近く「54.2 Absolute Maximum Ratings」として記載。なお、54.1は測定条件などについて述べている部分なので、実スペックとしては54.2が冒頭。
- ST Microelectronics STM32F446、「6.Electrical characteristics」の下 「6.2 Abaolute maximum ratings」。やはり6.1は測定条件など述べている部分なので実スペックとしては冒頭。
一方、RP2040、RP2350ではこんな感じ。
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- RP2040、「Chapter 5. Electrical and Mechanical」の下の 「5.3 Pinout」の下の「5.3.3. PinSpecifications」の下の「5.3.3.1 Absolute Maximum Ratings」に記載あり。なお「5.3.3. PinSpecifications」まではPDFのしおりがついているけれども4階層下は見えず。どこにAbsolute Maximum Ratingsがあるのか探し回りました。
- RP2350、「Chapter 14. Electrical and Mechanical」の下の 「14.9 Electrical Specificaiton」の下の「14.9.1 Absolute Maximum Ratings」にあり。
ちょっとRP2040では虐げられすぎっす。RP2350では多少マシにはなりましたが、まだまだ他社と比べると電気特性自体が一段奥に引っ込んでいる感じがします。
絶対最大定格(Absolute Maximum Ratings)の記載項目数
各社御家流とか諸般の事情あり、一律に比べられないですが、ザックリした比較のために規定されている仕様項目数を表にしてみました。なお、Absolute Maximum Ratingsに記載されている項目だけでなく、別項のESDとThermalのところも参照して各社の凸凹をならしました。
RP2040 | RP2350 | RA4M1 | SAMD51 | STM32F446 | |
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項目数合計 | 5 | 10 | 15 | 9 | 24 |
電圧規定 | 2 | 7 | 13 | 2 | 5 |
電流規定 | 0 | 0 | 0 | 2 | 15 |
温度規定 | 1 | 1 | 2 | 3 | 2 |
ESD規定(HBM/CDM) | 2 | 2 | 0 | 2 | 2 |
RP2040の規定がかなり簡素なことが分かります。それがRP2350になって倍増。この原因は後で述べる「FT」(略称)というものです。RP2040とRP2350の差としてはココを述べれば大体良いかもしれない。ホントか?
電源電圧、入力端子電圧について電圧を規定するのがキホンだと思います。ルネサスRA4M1は細かい端子毎に個別に規定して数が多いです。一方、米、欧2社はRP2040、RP2350と似たような感じ?
一方、電流条件(どのくらい電流を流しても壊れないか)はST社が細かく規定してます。マイクロチップ社も規定がありますが、ザックリ。ルネサスおよびラズパイは規定が見当たりませぬ。
なお、RP2040とRP2350の温度規定はTc(ケース温度)のみです。保存温度とかジャンクション温度についての規定は見当たりませぬ。その辺、大手3社は書き方に凸凹ありますが、保存温度、ジャンクションにも言及あり。
ESDについてはHBM(ヒューマン・ボディ・モデルでよかったハズ)、CDM(機械装置のモデルだよね)について記載あり。唯一、ルネ様だけは見当たりませなんだ。これは「担当営業におたづねあれば別途」というスタイルなのではないかと勝手に想像。最近欧米系の会社は何でもボロリンとWebでダウンロードできることが多いけれども、日系の会社はキチっと決まった代理店、特約店ルートで「機微」な情報を流す習慣が続いているような気がしないでもない。よって野次馬のお惚け老人などは知る由もない?そうなのか?
FTピン
RP2350で規定の項目数が増えたのは、FTという略称がつけられているIOピンが存在しているからです。そのココロ(RP2350における)は
FT=Fault Tolerant Digital
だそうです。ぶちゃけ、フツーのIOピンより「強く」なってる端子みたいです。データシートより引用させていただきます。
Fault Tolerant Digital. These pins are described as Fault Tolerant, which in this case means that very little current flows into the pin whilst it is below 3.63V and IOVDD is 0V. These pins have enhanced ESD protection. Programmable Pull-Up, Pull-Down, Slew Rate, Schmitt Trigger and Drive Strength. Default Drive Strength is 4mA.
なお、Analog入力に使える端子とQSPI端子以外の全GPIO端子は「FT」になってます。なんのことはないRP2040では「弱かった」端子を、RP2350では「強く」なるようにテコ入れしたってことみたい。なんかあったのかな? RP2040で。絶対最大定格、読まなかったら気づかんかったぜよ、FT。