土木でエレキ(4) コンクリートの非破壊検査技術の評価結果を覗き見

前々回、調べる対象を「橋梁」ということで絞ったので、今回は橋梁の維持管理(見守り)に使われる「リーディング・エッジな」(電子デバイス的な表現ですが)技術をいくつか調べてみたいと思います。例によってNETIS維持管理支援サイトを見てみると、ちょうど「手頃」な資料がありました。1年近く前のものですが、2018年03月29日付けの

「コンクリート構造物のうき・剥離を検出可能な非破壊検査技術」の評価結果について

という資料です。NETISはトップページから入ると名前こそ聞かれませんが、「どのような立場の人物か」聞かれるようになっている(ぶっちゃけ、私のような素人は「その他」ですが)ので、直接この資料へのURLを張るのがはばかられました。もし関心があるようでしたらちゃんとトップから入って質問に答えた上で探してください。

この資料は、1昨年の夏に公募されて、昨年3月に評価結果が出た一種のコンペティションみたいなものの資料です。参加した会社は6社。それぞれ自社の「新技術」を用いて、評価対象の橋梁(コンクリート橋)の検査(従来の方法で悪いところは既知)に挑んだようです。6社とも「従来の方法」としてあげているのは、

点検ハンマーによる打音検査

です。現場へ行って、腕を振るって叩く、と。澄んだ良い音で響けは良し、濁った音はなにかよからぬものが隠れている証拠です。音だけでなく、叩く人は直近で見ているわけですから、ボーっとしていない限り、「あれ」と思うことは見逃しますまい。まさに王道の検査です。しかし、打音検査をやりきるには人間が検査対象場所に行かねばなりません。場所によっては足場を組んだり、交通規制をしたりと大変なこともありそうです。そこで「新技術」の出番となるわけですね。6社の新技術のポイントを集計するとこんな感じでした。

会社打診装置&集音装置赤外線サーモグラフィー可視光カメラ特長
西日本高速道路エンジニアリング四国ありあり
日本電気ありあり
ネクスコ東日本エンジニアリングあり
ジビル調査設計ありありありロボット
新日本非破壊検査ありありドローン
オンガエンジニアリングありあり弾性波エコー

コンクリートの浮き、剥離を検出する技術としては、3種類の組み合わせに帰着しました。そのうち、一番右の可視光のカメラは、他の2つの方法での検出を補強する用途だと思われるので、結局、以下の2つです。

  1. 打音検査の改良、「叩く」と「聞く」の機械化
  2. 赤外線サーモグラフィ

電子デバイス屋的には分かりやすい2番目の赤外線サーモグラフィを先に見ましょう。コンクリートに剥離や空洞などあればその場所の熱伝導は、そうでない場所と異なるので、その差が温度の差として現れる筈。それを赤外線で検出するという方法です。対象が高所でもサーモグラフィのレゾリューションさえ十分であれば、近寄れなくても遠くから測定できる筈。ただし、お気づきのとおり、橋全体が同じ温度で定常状態では差が見えませんから、橋が「温まったり、冷えたり」してくれることが前提です。また、赤外線を吸収してしまう霧みたいなものには弱い筈ですし、直射日光も外乱要因かと思います。よって、適切な気象条件と時間帯で、外から見える部位であればOKということになります。

これに対して、打音検査の改良の方は、メカニカルな要素と、電子的な要素の両方が関わります。まず、人の手ではなくコンクリートを「打てる」メカニカルな装置。そして集音装置です。一番、プリミティブに思えるのがNECの装置で、長いポールの先に機械的な打音装置をつけ、それをマイクで拾うと、検出は作業員さんがヘッドフォンで行います。棒の先には近接目視用にカメラもつけてあるようです。新技術は「ポール」だけかい、と思わずツッコミたくなりました。しかし、売りはコストですね。この評価、すばらしいことに点検面積と概略費用も比較可能になっているのです。シンプルな装置だけにコストは安いと。しかし、棒です。それほど高いところや遠いところまで当たれないないんじゃないかと想像します。

それに対してネクスコ東日本エンジニアリングの装置は電子デバイス屋の琴線にフィットします。「暗騒音部分の周波数帯をフィルターカットすることで打音を聞き取りやすくし」という工夫です。どのような信号処理をするのかまでは書いてありませんが、電子的に集音するならあって当然の機能に思えます。

もっともゴージャスなのが橋梁点検支援ロボットを投入してきたジビル調査設計です。赤外線と打音の両方を備えたロボットです。橋梁点検車という、橋の上から橋げたの下に人の乗ったカゴを下せる特殊車両がありますが、その小型版のような感じです。橋梁点検車では、車線規制が必須でしょうが、小型なので歩道があれば歩道規制で作業できると。ただし、素人目にも適用条件がきつそうに見えるのと、コストがちょっとお高いのが難点かも。

新日本非破壊検査のシステムは流行りのドローンです。ドローンに打音検査装置を乗せて飛ばすという荒業です。これであれば、とても高い橋げたでも、海をまたぐような場所へでも近づけるでしょう。そして打音の解析も自動識別です。とてもよさげに見えるのですが、これも問題があります。現ドローンの構造上、垂直の面に打撃を与えられない、という制限です。点検可能なのは、定期点検範囲の約27%といっているので、ちょっと少なすぎるんでないかい、と素人は思います。また、もっと問題なのが、

UAV飛行中に機体が落下することがあり、

という一文です。この対策のため、橋の上から綱をつけて、補助員を配置だそうです。まだまだだな!

最後のオンガエンジニアリングのものは、打音検査機の機械化ツールではあるのですが、「打音」を聞くのではなくて「衝撃弾性波法」です。これは技術的に興味があるので、また別稿を設けて取り上げさせていただきたいと思います。

この評価資料ですが、

  • 精度(検出率)
  • 効率性(ヒット率)
  • 対象部位、部材

という3つの指標で結果を出しています。また、さきほど述べたとおり、概算費用もあり、適用条件(雨風など気象条件はどうかなど)もかなり書き込まれています。素人的にも分かりやすくて良かったです。

土木でエレキ(3) もうすぐ締切、土木学会インフラデータチャレンジ へ戻る

土木でエレキ(5)  衝撃弾性波法と使われるセンサ へ進む