連載小説 第49回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化による水平方向成長をものともせず、同期の工作君とトム君とも一緒に毎日忙しくやっています。青井倫吾郎さんからの電話が途中で切れてしまうという不運を克服し、再会を果たしました。私って絶好調かも・・・。

 

 

第49話 日本の半導体産業の光と影・・・のはずが

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社で10年になりました。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。しかも、同期の富夢まりお君も島工作君も一緒で、何てステキ!と思いきや、思わぬ落とし穴が・・・。だって美味しいレストランが多すぎて、私の見事な肉体(笑)にも水平方向成長化という由々しき異変がおこり、偶然再会した“青井の君”に私だと認識してもらえない事態に・・・。しかし、数々の困難を乗り越え、日本食スーパーのお味噌売り場で青井倫吾郎さんと再会を果たしました。

 

 

「ねえ、トム君、なんだかんだ言って、今年もいい感じで売上げも上がったし、良かったよね」

「ああ、あと3ヶ月ちょっとで決算だなあ」

1990年の年末が近づいていました。欧米の年末年始休暇はクリスマスイブから元旦までです。日本とは少しずれているので、何となく2週間くらいオフになっている気分です。

トム君はハルカちゃんとメキシコのマヤ遺跡へ探検に出かけるそうですし、いつでも暖かいフロリダへ行くという人もいれば、ちょっとLos AngelsとSan Diegoへなんていう人もいて、日本人赴任者たちもそれぞれ思い思いの休暇を楽しむようです。

私は久し振りに日本へ帰る事にしました。久し振りと言っても、年に何回かは出張で日本へ行くので、実はそれ程久し振りでもありません。

渋谷区の実家へ戻ると母が迎えてくれました。

「ただいま~お母さん!」

「あら、お帰り、舞衣子。あなた丸くなったわねえ」

「え、いきなりそれ? この前の出張の時と変わらないと思うんだけど」

「9月でしょ、この前来たのは」

「うん、そうだよ」

「3ヶ月でまたいちだんと貫禄が増した感じだけど・・・」

「え、そんな事ないよ。データが証明してるよ。この前帰ってきた時は120パウンドで今は121パウンドだから、ほぼ同じだよ」

「あら、そうなの? 見た目は1ポンドの差じゃないように見えるんだけど・・・」

「いいでしょ。ちょっとくらいふくよかでも」

「まあ、ガリガリ君よりはね(笑)」

 

パウンド(ポンド)というのはキログラムに換算するとどれくらいかという事なのですが、それをここで持ち出すとちょっと真実をつまびらかにし過ぎる感じなので、やめておきますね(笑)。ご興味のある方は調べてみればすぐ分かると思いますが・・・。

アメリカ社会では、世界標準の単位とは違う単位を平気で使っているので、わかりにくくて困ります。でも、慣れてくるとそちらの方が普通になってしまったりもします。

ハイウェイを走行していても、表示は55とかなのですが、時速55kmではなく、時速55マイルなのです。ん?55マイルって何キロ?と最初は換算を試みます。88キロくらいなのですが、そうこうしているうちに、ダッシュボードのスピードメーターを見ながら、体感速度と照らし合わせて、何となく55はこのくらい、65はこのくらいと、覚えていってしまうので、マイルをキロに換算しなくなります。

因みに日本の25度はアメリカでは77度です。カリフォルニアの気候ですと湿度が低いので、77度くらいは最も過ごしやすい感じで、テレビの天気予報でも、75度(24℃)~85度(29.5℃)くらいの晴れマークだと、”It’s a gorgeous day.”とか言っています。80度台になると暑い事は暑いのですが、蒸し暑い訳ではないので、殆ど不快感はありません。

 

「舞衣子、あのね、あなた、そろそろいいお話はないの?」

「もう、顔を見ればこれだもんね」

「だって、ねえ、来年は33よあなた」

「という事は今は32という事ですね」

「そうよ、32って言ったら普通は、2人目がもう1歳になりまして、なんて言ってるのよ」

「まあ、いいじゃないお母さん」

「誰かいい人いないの? この際、アメリカの人でもいいから」

「まあ、いない事はないんだけどね、えへっ」

「え、いるの?」

「うん、まあ」

「アメリカの方? 名前はなんていうの? リチャードさんとかいうの? それともジョナサンさん?」

「いや、その、リッチとかジョンとかじゃなくて、ま、いいじゃん」

「だって、つきあってるんでしょ?」

「いや、あの、つき合ってるのかどうか、イマイチ良く分かんないんだよね」

「分かるでしょ、ふつう。ほら、その・・・いわゆる、ひとつの、“リップの関係” とか何とかあるでしょ?」

「なに、そのリップの関係って(笑)? そんな言い方してるの、お母さんたちの世代って?」

 

実は、私、“青井の君”こと青井倫吾郎さんと、その後何度もお食事には行ってはいるのですが、“グルメ探検隊” みたいな感じで、その母親の言うところの“リップの関係”とかいうところへ到達できていなかったのでした。もう、いい加減、お互いいい年なんだから、リップくらいねえ~と思ったりもしたのですが、毎回、美味しい世界のお料理に魅了されてしまって、

 

「この料理、美味しいですね、舞衣子さん」

「はい、素晴らしいです」

「Oh, I’m getting full.」

「Me, too. ああ、おなかいっぱい」

「それじゃ、また来週末に」

「ええ、楽しかったです、っていうか美味しかったです、ははは

「ははは、じゃ来週はメキシコ料理で」

「ええ、私もSalsa & Chips大好きです」

「じゃ、また」

「はい、See you 倫吾郎さん!」

みたいなデート(?)を繰り返していました。

二人とも、世界中の料理が好きで、今日はステーキ屋さん、次はインド料理、その次はChinese、その次はメキシコ料理、そして次はFish料理店、などとグルメツアーを繰り返していたのでした。従って、121パウンドになってしまっているのもムベなるかな、という感じで・・・。

 

あら、いけない、また、美味しいもののお話になってしまいました。私たちの半導体産業の光と影のお話は一体どこに・・・?

でも、次もお食事のお話だったりして・・・?

 

 

第50話につづく

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