介護の隙間から(15) LoRaで見守り

徘徊検知装置の場合、徘徊に出る前で「水際」で押しとどめるということが大事なことです。そのためか、まず離床センサでベッドから出ることを検出し、次には出入り口などを見張るというシステムが多いです。しかし、万が一、外に出てしまったら後はどうするか。普通に考えるとGPSで場所を検出し、携帯電話網で通知するというシステムになりそうです。当然、そういう製品もあるのですが、介護保険適用の条件を考えると、徘徊検知に特化していない一般的なGPS端末+インターネット通信のような構成では保険適用は難しいのではないかと思います。また、携帯網に接続する場合は電池の持ちも気になります。そこで、徘徊検知に特化しつつ、電池の持ちがよい、それでいて屋外のある程度の範囲の位置を測定できるもの、があれば良いなと思ったらありました。ことし発表、新製品です。一種の無線タグと言って良いかと思います。

この製品を出してきたのは、東京の OFF Line Co., Ltd. という会社です。無線を2種類併用(GPSを無線にいれるならば3種)しているというところがこの徘徊検知+位置検出のシステムのキーポイントだと思います。まず、屋内から屋外へ「徘徊」に出てしまう検出には、Bluetooth LEを使っています。LE=Low Energyです。Bluetoothも比較的低消費電力ですが、LEはもっと低消費電力です。この通信が可能な場合屋内に居る、と判定し、通信できなくなると屋外へ出た、と判定するようです。一般的な住宅はカバーできると紹介にはありましたが、Bluetooth LEは、かなり非力な無線で遠くまで飛ばないので、広い家や無線に支障のあるような構造体がある場合は、ちょっときついんじゃないか、とも想像します。ただ運用的には、玄関付近の見張りに使うか、普段暮らしている寝室や居間などの範囲に居るか、居ないか程度が分かれば、万が一外に出てしまった場合の検出機能があるので、実用的には問題ないのかもしれません。しかし、このBluetooth LEによる徘徊検知機能が盛り込まれていることはこの装置の第1のキモで、この機能は出入り口を見張るような他の装置と機能的には共通し、徘徊検出に特化した装置と言える根拠になると思います。

次に、外に出てしまった場合の位置の検出はGPSで行い、これをLoRa無線で、専用の受信親機に向かって送信するようです。GPSでの位置検出は誰でも考えつくことですが、現時点でLoRa無線を使っているのはここだけのように思われます。LoRaというのは、LPWA(Low Power Wide Area)といわれる低消費電力(電池で何年も稼働でき)で比較的長距離(~10km)の通信ができるような種類の無線方式の一つです。LoRa Allianceという組織が推進している方式で、応用は主としてIoT向けです。介護はT=Thingsじゃないよね、人だよね、と考えますが、広い意味でIoTの応用なのかもしれません。日本でもソフトバンクがサービスをしているようですし、LoRa無線モジュールを村田製作所が販売しています。

無線通信としては、920-928MHzのサブGHz帯を使う「特小」無線のカテゴリで、通信速度を 5kbit/s 程度の低速に抑え、ビット数の少ない軽いメッセージを日に数回送信する程度の使い方をすると、バッテリで10年持つ、と主張しています。

ここで、携帯網やインターネットなど「一般的」なものであると介護保険適用部分から外れてしまうのではないか、とも思えるのですが、このシステムの場合、専用の親機を対象の住宅(屋根、屋上?)に設置して、そこから半径5kmくらいの範囲で位置を検知できるとしているので、「一般的」な装置という印象はかなり薄まり、特化した印象をうけます。実際には、さらにこの無線タグを靴に装着することで、介護保険適用の判断となったようです。

LoRa無線そのものは、バッテリで10年、10km程度と言っていますが、この無線タグのスペックを見ると電池は1か月半程度の持ち、距離も5km程度のようです。実際にはLoRa無線だけでなく、Bluetooth LEのタグとしての動作に加え、GPSの受信機としても動作しなければならないので、靴に取り付けられる程度の重さのにするとその程度の電池の持ちになるのもうなずけます。また、住宅の屋根に取り付けられる程度のLoRa受信機で、靴に取り付けたタグの無線を受信するので、街中などの条件を考えると5kmと言っておくのもしょうがないかと思います。5kmあれば徘徊中の人を発見できそうに感じます。ただ、通信の頻度が少ないと、気付いたら範囲を抜けていたということはあり得るので、電池の持ちを犠牲にしても測位と通信の頻度はある程度確保しないとならないでしょう。まだ、出て2カ月もたっていないので、この装置の普及とか、運用状況とかは知れないです。どんな実力なんでしょうか。

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