鳥なき里のマイコン屋(16) Tenx、絶滅危惧種4ビットのニッチ

JosephHalfmoon

前回、マイコン業界の絶滅危惧種ということで4ビットマイコンについて書かせていただきました。早速、そんな4ビットを未だに生かしつづけてくれている希少な会社を経めぐっていこうと思います。最初に取り上げさせていただくのは、台湾のTenx社です。ここのホームページの”Recent Update”の項目の最初には、

Taiwan’s sixth largest MCU IC design company

と書いてあります。”sixth”、なんか微妙です。

だいたい “MCU” で検索すると「マーベルの映像キャラクターたちの世界」が続々ヒットしたりして「マイコン」は肩身が狭い今日この頃です。ところが、Tenxで検索すると「仮想通貨」関係がヒットしてきたりもします。なかなかMCU の Tenx社に辿り着けません。「仮想通貨」や「アイアンマンの映画」よりTenx社の方が古いような気もするのですが、いたしかたありません。ただただ、「業界の生態系(エコシステム)の中で、絶滅危惧種が生きられるようなニッチ」で地道にやっている、ということが伝わってくるのをお感じください。

ちゃんとTenx社のホームページへ行きつけるURLを貼っておきます。

Tenx technology

4ビットに行く前に、残念なことにTenx社では、今まで調べた十数社で成り立ってきた「Armのお供にレガシー8051説」が成り立たない、ことを言明しておかないとなりません。「Armコアのマイコンはあるけれど8051は無い」という会社はままありますが、Tenx社には当てはまりません。レガシー8051、しっかり存在するのです。Tenx社独自と思われる8ビットのコアのMCUと肩を並べて製品ラインの一翼を担っています。無いのは Arm の方です。今や世界中のほとんどのマイコン屋がなんらかの形でArmコアのマイコンを提供しているというのに。ある意味凄いことです。この1点をとっても、他社とは違う

ニッチ

で生きる矜持を感じさせてくれます。そして、Tenx社が、”8bit RISC”と呼んでいる自社製コアについて見てみると、その性格がもっと明らかになります。8bitの大ベストセラーZ80、レガシー8051、みなCISCに分類されます。Tenxの8ビット機のどこがRISCなのかと見てみれば、14ビット幅の固定長の命令セット(一応RISCの基準に当てはまります)、当然、プログラムメモリ(ROM)も14ビット幅、8ビットなのはデータメモリ(RAM)側だけです。メモリ量も小さい方を見ると、ROMの量が1Kワード、RAMの量が48バイトなどという機種があります。前回4ビットの特徴ということで述べさせていただいたものと比較していただけるとお分かりになる筈です。

4ビット機との違いはデータRAMの幅の違いだけ

つまり、処理できるデータが符号なしの整数でいって、0~16なのか、0~255なのかという点を除けば、後は同じ特徴です。ぶっちゃけ「4ビットマイコンの演算回路(ALU)とデータRAMの幅を倍にしただけ」にも見えます。実際には4ビット機の命令ビット幅は16ビットでより広く、ROMサイズ的にも上は12288ワードなどという大容量品まであるので、8ビットより「デカイ」4ビットがごろごろしています。RAM容量についても同様です。8ビット機よりもトータルのビット数が多い4ビット機が沢山あります。

他のマイコンメーカでは、上位のビット数の機種は、単にビット幅が増えるだけではなく、用途も違い、ハードウエアの道具立ても違い、「クラス」の違いがハッキリ際立つような製品構成にするものですが、どうもここでは違うようです。ハードウエア的に8ビットの方が大きいとか、価格が高い、とかいうことはない筈です(価格やチップサイズを知りませんのであくまで推測です)。

清々しい割り切り

です。本当に感動ものです。これからするとレガシー8051は「普通の8ビット」なので、多分、この会社では最上位機種(業界用語でいうフラグシップ)です。

しかし、では、なぜ、4ビットが生き残っているのでしょうか?ぶっちゃけハード的にさほど変わらないのであれば、8ビットに統一してしまっても良さそうなものです。なにせ大は小を兼ねるなので、8ビットあれば、4ビットの計算もできます。そこに対する疑問は、品種の一覧表を眺めると氷解します。

8ビット機には「パッケージ」という欄がありますが、4ビット機には無い

4ビット機は全てパッケージ無の裸のチップ(ベアチップ、ダイス)状態で販売されるのです。そして4ビット機の全機種にセグメントタイプのLCDドライバの端子数が書き込まれています。目覚まし時計、キッチンタイマ、温度計とか小さなLCDパネルのついた製品では、端子数の多いチップを安く実装するために、裸のチップを直接ボード上でボンディングし、後で樹脂で覆うのでした。4ビット機はこの用途において「ニッチ」を占めて生き延びているようです。勿論、8ビット機にもLCD対応機種はあり、数種類の機種はベアチップで対応できるようですが、品数とバラエティからいって、4ビット機の比ではありません。絶滅危惧種の4ビットのCPUは、いうなれば「セグメントタイプのLCDドライバのお供」としてドライバチップに内蔵されているのだ、と言えます。

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