Literature watch returns(20) RISC-V 原典

Joseph Halfmoon

各種「業界」毎、これを読んでないとモグリだ、という類の定番の教科書などがございます。「RISC-V業界」におけるそのようなご本は “THE RISC-V READER” でないでしょうか。寄る年波で原著を読む元気などありませんが、幸いなことに邦訳も出ています。「RISC-V 原典」というタイトル。しかし、この手の御本は重くて分厚いことが通例、とても読む気になれなかったので「モグリ」のまま避けてました。しかし、実際に購入して目から鱗。

※『Literature Watch Returns (L.W.R.)』の投稿順 index はこちら

デイビット・パターソン先生と言えばRISC業界の大立者であります。もう一方の大立者、ジョン・ヘネシー先生とともに、RISCの教科書を執筆されており、それは今や業界の古典と言ってもいいんじゃないかと思います。私は両大先生とは取り立てて接点などないのですが、唯一、その教科書の最初の方(大学院向け?で難しい方)だったと朧な記憶、の初版が出版されたときに、サンノゼの書店で開催された両先生の講演会(兼即売会、講演時間たったの30分!)へ行き、目の前で両先生がサインをしてくれた新刊本を購入させていただいとります。ミーハー。あれは分厚く、重かったです。読むのに難儀しました。教科書なので、章末には演習問題もあり、ちょっとやってみましたが、途中で演習は断念しました。

そのトラウマ?があるので正直言って避けてました。どうせネットで必要な情報にはアクセスできるし、いいんじゃね。でも、最近、RISC-V搭載のマイコンねたなど書きつつ、また、RISC-Vのアセンブラねたなどにも手を出すにいたり、やっぱり、読んでないと不味くね、と、誠に遅ればせながら購入を決断いたしたのであります。なにせね、日本語訳というのが嬉しい。なんと気楽に読めることか。

    • デイビット・パターソン/アンドリュー・ウオーターマン著
    • 成田光彰訳
    • 日経BP社

RISC-V 原典

であります。なにが目から鱗であったかと言えば、その薄さです。全200ページといいつつ、130ページあたりからはリファレンスマニュアルになっています。当然、最初の方には謝辞やらなにやらあるので、実質100ページちょっとかと。「原典」というタイトルに、巨大で重い幻影をみていたのでした。

小冊子

というにはちと厚いですが、も少し軽い雰囲気だったらもっと早くに買わせていただいたような気がします。

この本自身が記述しているところによると、6時間あれば読める筈、だそうです。私はまだ読み切っていないですが、この見積もりに合意します。その見積もりをこのご本の中で何と比べているかと言うと、ARMおよびIntel x86の命令セットマニュアルと比べてです。アセンブラ書いてないとその手のマニュアルを読む機会があまりないかもしれないですが、最近のマニュアル、分量半端ないです。この本の見積もりによると、ARMの場合、半月(一日8時間労働で)、x86の場合1か月を見込んでいます。私、これにもほぼ同意させていただきます(昔はともかく、最近の版は通読していないですが。)同意されるような方も多いんじゃないかと思いますが、インテルx86の命令セットのリファレンスマニュアルなど読んだ日にはすぐ飽きます。Web上の表で必要な情報は検索できるので、何かなければ読まない気がします。多分1か月かけて全ページ読み通す、という行為には、強靭な意志と何か特殊な目論見がないと無理でしょう。x86も386, 486辺りまではそれほどでもなかったですが、SIMDに手を出したころから命令どんどん増えました。インテルの数え方だと3000超えているらしいです。それにたいして、RISC-VはRISCのあるべきシンプルさ、簡潔であると。ARMのようなRISCといいつつ随分複雑なやつ、とは一線を画しているのだよ、と。よってRISC-Vの命令セットマニュアルと言ってよい、このご本もまたシンプル。

本の最初に厚紙(ただし白)のリファレンスカード(両面印刷)

があり、言いたいことはそこで尽きているのかもしれませぬ。本文自体はその注釈というか、解説書と言っても良いかも知れませぬ。

そう書くと他の命令セットにおける、ありがちな「正確だけれど」「無味乾燥」なリファレンス・マニュアルを想像されるかも知れません。が、この本、かなり面白いです。年寄りからすると

ついくすっと笑ってしまう、仕込み多数

です。欄外の注釈とか、本文の中のコラムとかに多いのですが、「そうだったよな」とか、「あるある」とか、「皮肉だね、某社の意見を聞きたいものだ」とか多数。非常に楽しく読める(多少、歴史的な背景知識必要かもしれません)ので、インテルのインストラクション・セットのマニュアルのように途中で飽きる心配はありますまい。

読み終えたら、またRISC-Vでアセンブラ書きますかね。

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