連載小説 第13回
4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

ItohTakamitsu
ペンネーム    桜田ももえ

<これまでのあらすじ>上諏訪時計舎5年目のIC営業部海外営業課の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。ちょっとわけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを売っていますよ。海外はアメリカ担当。海の向こうには気になる島工作君が赴任中。オフィスの隣の机にはトム君が・・・。

 

 

第13話  島工作キュンの告白

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC営業部の海外営業レディです。私は同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当しています。なお、トム君は名前の割に純ジャパです(笑)。二人で米国法人へ赴任した島工作君をサポートしたり、アメリカから訪問して下さる多くのお客様をサポートしたりしています。

私もトム君も年に何回かアメリカへ出張するようになっていました。一方、アメリカ赴任中の島工作君もたびたび日本へ出張で帰ってくるので、出張中の会食がない日は大抵同期の3人でビールに行きました。

「それでは久々の再会を祝して、かんぱーい!」

とトム君がご発声をなさいましたが、おいおい、全然久しぶりじゃないじゃん。先々週サンノゼで会ったばかりだよ。と思いつつ、ま、つまんないジョークに合わせてあげました。

「ひっさしぶりー!半年ぶりくらいだっけ?」

「もうちょっと短いインタバルじゃないか」

「ま、こんな頻繁に二人と会えるとは自分が赴任した当初は思わなかったけど、これだけしょっちゅう行き来するってのは、ビジネスがいっぱいあるからって事で、ま、良かったって事だよね。いつも、ありがとね、トム、舞衣子」

「何を仰るウサギさん。俺たちは同期だから、工作のお世話をするのは当たり前だのクラッカーだな。こうやってビール一緒出来るのも三人とも独身だしだよ。なあ舞衣子」

「はいはい、そうですよ。で、いつも思うんだけどさあ、そのつまんないジョークっての? もうちょっとレベル上がらないの、トム君? 日本の最高大学の看板が泣くよ」

「え、ま・・・、その辺はホットケーキっつうことで」

「ぷっ! 何だよ、トム、そのホットケーキって。新しいヤツだな、それ。ねえ、舞衣子」

「・・・」

私は、この会話の流れ上、笑うもんか、と無表情を繕ってしばらくこらえたのでしたが、我慢出来なくなって降参しました。

「Hahahahahaha、トム君のばかぁぁぁ。ビール吹きそうになったじゃん」

今では、オヤジギャグという言葉で括られていますが、当時はそういう言い方はなく、トム君の喋る事はただただ特殊であると認識していました。まあ、ユニークという言葉は使われていましたので、そう言っても良かったかも知れません。それにしても、恐れを知らないヤツだ、富夢まりお!

そんなこんなで、しばらくとりとめのない話をしていましたが、2杯目のジョッキになったところで、唐突に、島工作君が宣言したのでした。

「さてと、そろそろ僕も告白する事にするよ」

え、告白? もしや、もしや、私にコクるの??? 私は、島工作君の事を憎からず思っていましたし、彼も私を嫌いなわけではないと思っていましたので(それに可愛いですし、うふ)、いつかこの時が来るかもと、心の準備はしていましたが、まさか、このタイミングで? しかも、私の事を憎からず思っているはずのトム君の前でそれ?と思いましたが、私の妄想はまるで外れていました。

「僕、婚約しました~」

「え?」

「誰、アメリカ人と~?」

「いいえ、日本人です」

「え、じゃあ誰と?」

「はい、それは、みゆちゃんで~す」

何、それ。私じゃないの? と私は落ち着け、落ち着けと思いながらも、動揺を抑えきれずにいました。勿論、顔には出さないように慎重に注意しながらです。

「そうか、工作キュン、知らなかったよ。みゆちゃんか~。胸キュンだなあ。それは、良かった! しか~し、俺はまだだぞ。相手いないぞ。なあ、舞衣子」

「・・・」

「ん、どうした、舞衣子?」

「・・・」

「大丈夫か? 救急車呼ぶか?」

「・・・ううん、それは良かったって思って・・・ちょっと感激して言葉に詰まっちゃった・・・」

多分、工作君は分かっていたと思います。彼自身、それまでの私たち同期の関係性の中で、それ以上の特別な関係を作るのには何か躊躇いがあったという事を。そして私は、彼が3人の関係性以外のところに特別な関係を求めていたのだと、改めて分かりました。

それに、普段は私自身だって、自分も特別な関係は別のところに求めた方がおそらくはいいのではないか、と思っているのでした。ただ、この二人はいいヤツ過ぎて、時として、二人のどちらかと私の「特別」を妄想してしまう自分もいたのです。そんな時は、“私とした事が妄想すぎる自分!” としばしば、冷静に冷静に、と思ったりもしていたのでした。

“別に同期と特別になったっていいじゃない、どうして彼らとの特別を抑えようとする自分がいるの?” と考えてみたりもするのですが、何か合理的な理由が見つかるわけではありません。誰かに何故かを説明してみて、と言われても上手く答えられるような気がしない、そんな私でした。

さて、島工作君のフィアンセになったのは、私たちもよく知っている北原みゆちゃんでした。彼女は生産管理課の一員で、営業部の売上げ予測や注文書に基づいて製造を手配し、納期に間に合うようにフォローしてくれます。そして、輸出の手配も発送の手配も一貫して面倒見てくれるので、我々にとっては大事な業務上のお仲間です。

生産管理課の中でも、ひときわ注目なのがみゆちゃんでした。何てったって、とても愛くるしい女子なのです。そして、仕事もしっかりやってくれるので、営業部のメンバーからは大人気でした。その当時、営業部と生産管理部は同じフロア―にあり、かなり頻繁に行ったり来たりしていましたので、アフター6での交流も多く、特に若手の社員は部門を超えて大勢で頻繁に懇親会をしていました。

そうか、その中で島工作君とみゆきちゃんが特別になったとしても無理ないなあ、と思いました。私だって、別部門の人たちとも普通に仲良くしていたのです。

お二人の特別への発展は普通なら噂になりそうな話ですが、二人の気持ちが特別になっていったのは工作君がアメリカへ赴任した後になってからという事なので、誰も気づいていなかったのです。

マヌケな私、と思いましたが、冷静に考えてみると、営業部の若手エースと生産管理課のイチオシ美少女の二人が仲良くなったのは、それはそれで必然だったのかも知れないと思い直しました。

それにしても、電話代高かったでしょうね。その頃はSkypeもLINEもZoomもありませんでしたので・・・。

私は、やおらグラスを取り上げ、

「よ~し、じゃ、もう一回乾杯だね~(笑)」

と少々、カラ元気ながら、明るく振る舞っていたのでした。

冷静に、冷静に、と言い聞かせながら祝杯(!)を上げているうちに、夜は更けていきました。

その日、眠りにつく前に改めて一日の全てを思い出し、ひとしきり涙した事は、今だに誰にも言っていません・・・。

この続きはまた次回。

 

 

第14話につづく

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