連載小説 第57回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。食生活の変化で私の見事な肉体は更に水平方向へ成長しつつも、毎日忙しくやっています。同期の工作君はとうとう帰任する事になりましたが、トム君やニック君がいます。Appleの青井倫吾郎さんとは、メキシコ料理の情熱ナイトを経て、ステキな進展があり、壮大なエクリプス・プロジェクトが始まりましたが・・・。

 

 

第57話 インテル入ってる?

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の11年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。美味しい食事の連続で、私の見事な肉体(笑)は水平方向へ更に見事な成長をとげつつありましたが、アップル・コンピュータにお勤めの青井倫吾郎さんとはメキシコ料理の情熱ナイトを経て、壮大なエクリプス・プロジェクトが始まりましたが・・・。同期の工作君はとうとう帰任。もっと頑張んなきゃ、わたし。

 

 

壮大なエクリプス・プロジェクトについて、第53話をご覧になった方はご存じかも知れませんが、私の青井倫吾郎さんと二人で7月11日の皆既日食を見るためにメキシコはカリフォルニア半島南端のサンホセデルカボへ行っちゃおうという計画です。4月に思いついて、フライトとホテルを探したのですが、その時点で既に満席満室状態。やはり、世紀の一大天文ショーをひとめ見たいという人は多かったようです。

その状況を倫吾郎さんに伝え、二人で 「オーマイガー」 と言ってみたものの、どうなる訳でもなく、とりあえずキャンセル待ちという事にしたのですが、事態は意外とあっけなく打開されてしまいました。

「Hi, Ms. Yonbito. Your fight and accommodation is available now.」

と、旅行代理店から電話がきたのは、5月に入ってからの事でした。誰かがキャンセルしたのでしょう。あっけなく、関門クリア。そうなれば、あとは休みを取るだけです。

とは言ったものの、私も倫吾郎さんも半ば諦めていたので、お休みの申請はまだしていませんでした。その時期に休めるかどうか、場合によっては調整が必要です。まあ、法的に認められた有給休暇ですから、休むと言えば休めない事はありませんが、1991年頃のお話ですので、特に日系企業は若干の “取っても大丈夫ですか?感” はありました。

ま、結局取ったんですけどね(笑)。

倫吾郎さんはアメリカ企業なので、比較的自由に休みが取れました。

 

「倫ちゃん、私もお休み取れたよ」

「そうか、良かった、舞衣子」

早速電話で報告しました。

「わたし、スペイン語を少し習おうかな。倫ちゃんは?」

「ボクは何回かメキシコへ行っているから、ある程度は喋れるよ。習いたいなら、ボクが教えてあげようか。1時間20ドルでいいよ(笑)」

「ただなら習ってあげるけど、どしよっかなあ、うふ」

ってな調子で、私たちはちょっとじゃれあってから、今週末の予定を確認し合いました。おつきあいを始めてから、殆どの週末は一緒に過ごしています。そして、メキシカンレストランへ行く機会も増えました。

「ねえ、Pedro’s Sunday Brunchっていいらしいよ。行ってみない?」

「Sounds good ! 行こう!」

「じゃ、土曜日はうちに泊まっちゃう?」

「ああ、そうするよ。でも、今週、土曜日の午後はゴルフなんだよな。ディナーもあるかも」

「いいよ、全然。私も買い物とかあるし」

「All right, Maiko.」

「じゃ、ゴルフ終わったら電話してね」

「OK」

という事で、土曜の夜から倫ちゃんは私と一緒です。うふっ。

 

ペドロスサンタクララ市にある比較的大きなメキシカンレストランです。Highway101から入ってすぐのところにあり、その一画には何と世界中の人々がお世話になっているCPUの半導体メーカーであるインテル様の本社ビルが聳え立っています。Intelと言えば、IBM、Microsoftとともに、Windows系のPCを世に送り出した立役者であり、いまだに世界のPCのメインCPUはIntelです。スゴイ事ですよね。

Intel はフェアチャイルドからスピンアウトしたロバート・ノイスさんと、ゴードン・ムーアさんたちが設立した半導体メーカーで、3番目の社員のアンディー・グローヴさんとは、その後インテルの社長となって指揮をとっている頃、サイコーエジソン株式会社のトップとともに訪問してお会いした事もあるんです。それは1994年頃の事でしたので、またいずれお話しますね。

因みに、設立者の一人のゴードン・ムーアさんとはお会いした事はありませんが、あの「ムーアの法則」のムーアさんなんです。ムーアの法則については、文系の私(笑)が説明するまでもありませんが、どんどん世の中のICは小さくなっていくよ、スゴいよ、というような法則です。え?間違ってました?

ま、いいです。でも、思えば、インテルだって64ビットSRAMから始まったんです。え、64ビットなの、スゴいじゃん、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、64ビットCPUではありません。メモリー容量が64ビットしかないSRAMなのです。ほんのちょっと記憶できるというだけだったのです。“ちょBit SRAM” ですね(笑)。

それと、昨今、「ギガが足りない」 とか言ってる若者の皆さん、ギガの意味をご存じですか? 文系の私でも64ビットと64Gビットの違いくらいわかります。ギガはスゴくたくさんという意味ですからね。

ま、いいです。ついでに言っておくと、インテル様も、CPUは4ビットから始めたんですよ。世界初のマイクロプロセッサ 「4004」(1971年)は何てたって、4ビット、108KHzですよ。何事も始めの一歩は少しの事から始まるのです。翌年の「8008」だって、8ビット、200KHz、10μmプロセスだったそうですから。

という訳で、今回はサンノゼ市のお隣のサンタクララ市にはインテルがあるというお話でした。

あ、そうそう、ペドロスのSunday Brunchはどうだったかですか? メキシコ料理のBuffe(食べ放題)ですから、色々な美味しい料理が並んでいて、取り放題です。更にメキシカンデザートなんかもセカンドラウンドまで取りにいって頂いてしまったりするものですから、満足度120なので、二人の体重に更なる異変が生じた事は疑いようもありません。「All you can eat」 とも称されるバフェスタイルのレストランは危険だと、もっと早くに気づくべきでした(笑汗)。

 

 

 

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