連載小説 第76回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任しちゃいました。運命の人、Appleの青井倫吾郎さんと、とうとう結婚しちゃいまして、うふっ、楽しいです、仕事も生活も。半導体事業も絶好調ですよ。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第76話 ナショナルセールスコンファレンス

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の14年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任。アップル・コンピュータの青井倫吾郎さんと遂に結婚しちゃいました!ステキです。うふっ。半導体事業は絶好調です。

 

日本ではバブルが弾けてもう3年も経つというのに、金融業界や不動産業界など影響の大きい所以外は総じて言えばまだバブルみたいな感じでした。製造業、とりわけ半導体などの先端技術産業はまだまだ伸びしろも大きく、成長し続けていました。アメリカでも半導体産業の伸びは続いており、シリコンバレーは活気に満ちあふれていました。

SS-Systemsも例外ではなく、どんどん売上げは上がるので、余裕があります。従業員数は100人をゆうに超え、200人に迫ろうとしていました。会社全体での行事も多く、四半期に一回はホテルのボールルームを借りてQuarterly Communication Meetingなるものを開催していました。社長が会社の状況をプレゼンし、大抵は売上げも利益も問題ないレベルの数字なので、大きな拍手で会は終了し、その後、ドリンクを手に軽く懇親会をするというものでした。

利益が十分出ている状況だったので、コスト管理はそれ程厳しくありません。少々、緩すぎかなという感じでした。というわけで、会社のMeetingも結構お金がかかっていてもOKで、ホテルのボールルームも当たり前という感じです。

年に一度はセールスミーティングをリゾート地で行うというのが世の常で、大抵の大手半導体企業は全米各地のセールスレップ(Sales Representative)を呼んで、2泊3日とかで一大セールス会議兼慰労会的なイベントをおこなっていました。

その年によって開催地は変わるのですが、1993年はバブルでしたねえ。SS-Systemsは、ハワイはマウイ島でナショナルセールスコンファレンスを行ったのでした。

で、ま、ちょっとハワイには行ってみたいじゃないですか。セールス部門の直接担当者は当然出席する訳ですが、関わりがやや微妙な部門の人は、何だかんだ理由をつけて、行く行く行く行くと手を上げておりました。さて、ワタクシと言えば、Liaison部門で“なんでも屋”的に仕事をしていましたが、特に日本側へ注文書を発行して商品を確保するという重要な使命を果たす責任者をしていたので、ここぞとばかり、Purchase Operationsの責任者として、参加を決め込んだのでした。セールスコンファレンスの一番の内容はセールスレップに対して商品の内容や売り方のこつを説明して、売る気満々になってもらうという事なのですが、会議の内容はそれだけではありません。私は客先から注文を早めに出してもらうようセールスレップの皆さんに協力を要請するという重要な使命を果たすため、どうしてもコンファレンスに出席する必要があるのだという大義名分を作って参加を決め込んだのでした。ホントはマウイ島に行きた~いという裏の理由も大きかったのですけどね(笑)。

私がプレゼンする内容は、半導体需給がタイトな状況においても、しっかり商品を確保するために十分なリードタイムをもって日本へ発注する事、そのために客先を説得してなるべく早く注文書を出してもらう事、商品の標準リードタイムは需給逼迫時にはその限りではないので特に注意してね、という事でした。

半導体製品は、抵抗やコンデンサーなどとは違い、なかなか代替がきかない基幹部品なので、うかうかしていると、モノの確保ができず、時として自社の生産ラインが稼働できない事態に陥るという恐ろしいデバイスで、大抵の完成品メーカーは購買部門を強化していました。

需給バランスによって周期的に売り手市場と買い手市場が繰り返されます。大抵は、景気がいい時期は受給が逼迫する売り手市場で、景気が低迷すれば買い手市場です。従って、いつでも顧客が強いわけではなく、顧客が頭を下げて我々にモノの確保を懇願するという事も頻繁に起こりました。

受給が逼迫した時期における顧客サイドの一番の対策は、早めに注文を出して、製造アロケーションと納期を確保する事です。一番の失敗は、注文を出すのが遅れ、モノを確保できない事です。この辺の事情を半導体メーカーと顧客とそれを繋ぐセールスが共有できていないと、モノが確保できずあたふたする事になるので、私のプレゼンは大変重要なのでした。

Liaison Departmentからはトム君とチーバ君もセールスミーティングに参加しました。チーバ君は海外営業部の後輩で、ニック君の後任として今年から赴任しています。明るく楽しい性格なので、すぐにSS-Systemsにも溶け込んでいました。

さて、金曜日の午後、予定のミーティングを終えた後は、それぞれ自由な時間があり、ビーチでくつろいだり、高級ホテルのプールサイドでゴージャスに過ごしたりしました。ブルーハワイやマイタイ、ピニャコラーダなどの南国カクテルに酔いしれた事は言うまでもありません。

ビーチはすぐそこにあります。シュノーケルを付けて泳いでいると、大きなウミガメが海の底の方をゆっくりと泳いでいました。うわ~ステキ!と思って、そっとついていったのです。シュノーケルがこれほど威力を発揮した事はありませんでしたね。水中の数メートル下に見えるウミガメと同期して泳ぐ私は人魚のようであったに違いありません(笑)。素晴らしい水中ショーは3分くらい続いたでしょうか。ウミガメの姿は今でも目に焼きついています。

そんなこんなで、マウイ島のリゾートでステキな時間を過ごすという得がたい一日になりました。景気が良くて何かと余裕があった頃のお話です。うふっ。

なお、私の体重は相変わらずでしたので、ダイナマイトボディは、はち切れんばかりで(笑)、ビーチの景色に豊かな花を添えていた事を付け加えておきます。あはは。

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