連載小説 第102回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任していましたが、夫の倫ちゃんのドイツ転職を機に、私もミュンヘンにある現法へ異動しました。ヨーロッパでは携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。我々の半導体製品もその波に乗って大忙しです。そこへ、一度は別々の職場になったと思ったトム君が緊急赴任して来ちゃいました。あら、また一緒ですねえ。うふっ。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第102話 冬でも散歩好きなミュンヘンの人たち

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任し、今度はヨーロッパの現法へ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんとの新しい生活がスタートです。新婚さんみたい。うふっ。そこへ、同期のトム君も赴任してきちゃいましたよ。私と倫ちゃんは1996年を日本で迎え、帰省から戻ってきました。

 

1996年を迎えました。

倫ちゃんと私は日本帰省を終えて、1月3日のフライトでミュンヘンへ戻りました。

この頃のミュンヘン行きフライトは直行便がなく、どこかの空港を経由しなくてはなりませんでした。私はルフトハンザ航空に乗る事が多かったので、その日もフランクフルト経由でミュンヘンへ帰りました。成田を午前中に出発し、夕方にミュンヘンへ到着します。何だ、すぐだなあと思われるかも知れませんが、7時間の時差があるので、トータルでは12~14時間くらいかかっています。7時間の時差を西方向へ移動すると、一日が31時間になる感覚です。

ミュンヘンの冬は晴天の日がとても少なく、寒くてどんよりとしているので、あまり戸外では楽しめません。日本人よりもドイツ人の方が多少寒くても身体が対応できるのではないでしょうか。気温にして2~3度くらいの対応力の差があるように感じました。

寒い冬の休日、曇天の下、公園にはかなり多くの人々が散歩を楽しんでいます。それにしても、こんなに寒いのに何を好き好んで散歩なんかしたがるのか? しかも、陽気のいい季節の天気がいい日の散歩と違って、辺り一面の景色は白か黒か灰色です。空の青や木々の緑とは無縁なヨーロッパの冬です。家の中でテレビでも見てればいいのに、みたいに思ったりもします。

それでも、私たちもドイツ人と同じように冬の散歩に出かけました。テレビだけ見ていてもつまらなかったので(笑)。私たちのお気に入りは2カ所あって、英国庭園(エングリッシャー・ガルテン)とニンフェンブルク城の庭園でした。英国庭園は家から歩いていける距離にあって、かなり頻繁に訪れました。夏場になるとビアガルテンがオープンして、とても賑わうのですが、冬場はみな静かに歩いているのでした。

ニンフェンブルク城はミュンヘンを治めていたビッテルスバッハ家の夏の離宮です。ミュンヘンの西側にあり、車で出かけました。位置的には東京でいえば練馬くらいの方向感でしょうか。

倫ちゃんと私は、お城の中にある美人画をいくつも飾ってある部屋が好きで、いつもそこで長い時間、かつての美人さんたちの肖像を眺めていました。バイエルン王ルートヴィヒ1世が愛した36人の美女の肖像画がずらりと並んでいます。それにしても、36人も愛しちゃっていいの?と思いますが、それは1800年代前半のヨーロッパの王室のお話なので、私たちには計り知れない世界なのでしょうね(笑)。広大な庭園を持つ近世ヨーロッパの王宮は本当に何度でも訪れたくなるような場所でした。

ビッテルスバッハ家の国王と言えば、ルートヴィヒ2世が有名です。美人画ギャラリーのバイエルン王ルートヴィヒ1世の孫です。そのニンフェンブルク城で1845年に生まれました。1864年にバイエルン王となりましたが、「狂王」と呼ばれた変人で、最期はシュタルンベルク湖で謎の死を遂げる事になります。

在位中に建てたノイシュバンシュタイン城(新白鳥城)はディズニーのお城のモデルにもなった美しい建物で、こればかりは後世に残るレガシーになりました。今でも、ドイツ観光の目玉の一つです。

ミュンヘンからは車で2時間近くかかるところにあるので、あまりアクセスはよくないのですが、時間さえあればほぼ必ず訪れる観光地になっています。私たちも何度となく日本からの訪問者を案内したものです。

さて、話はあちこち飛んでいきましたが、ポイントをまとめますと、ミュンヘンの冬の楽しみの一つは、寒い中をただただ歩くという散歩であり、人気の場所はニンフェンブルク城で、バイエルン王は美人画好きだったり、ステキなお城を建てたりしたというお話でした。

なんだ、まとめると全然大した話じゃなかったな、とお思いの方もいらっしゃるかも知れませんが、100回以上も続く大河小説には、大した回と大した事はない回とが存在し、それぞれが相乗効果を発揮して物語りは織りなされていくという訳なのです。

大した事はない回はテキトーに書かれているのではないかと感じられる方もいらっしゃるかも知れませんが、そのような事はなく、書き手は結構真面目に時間をかけて考え推敲して、筆を進めていくのでした。

さて、1996年はどうなっていくのでしょうか。この続きはまた次回。

 

 

第103話につづく

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