連載小説 第104回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任していましたが、夫の倫ちゃんのドイツ転職を機に、私もミュンヘンにある現法へ異動しました。ヨーロッパでは携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。我々の半導体製品もその波に乗って大忙しです。そこへ、一度は別々の職場になったと思ったトム君が緊急赴任して来ちゃいました。あら、また一緒ですねえ。うふっ。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第104話 電子デバイス営業の統合

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任し、今度はヨーロッパの現法へ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんとの新しい生活がスタートです。新婚さんみたい。うふっ。そこへ、同期のトム君も赴任してきちゃいましたよ。

 

「舞衣子、4月からは大変になるみたいだぞ」

1月のある日、トム君が話しかけてきました。

「どうしたの?」

「今は俺たち、半導体の仕事だけだろ?」

「うん」

「でも、液晶事業部と水晶事業部の仕事もミュンヘンで扱う事になるらしいんだ」

「へえ、でも今はアムステルダムの現法で営業活動を行ってるんでしょ?」

「そうなんだけど、来年度からは事業部をまたいで電子デバイスの営業を一本化するらしいんだ」

「そっかあ。じゃ、誰が担当するの?」

「セールスは一本化して効率化するだろ。それで、オペレーションも一本化だな。日本との調整を含めたマーケティングはそれぞれのデバイス毎かな」

「え、じゃ、私、オペレーション全部やるの?」

「ああ」

「ひょえ~」

「大丈夫だよ。担当者付けるから」

「ならいっか。でも、液晶と水晶の事はほとんど分らないよ」

「大丈夫、オペレーション自体はあんまり変わらないから」

「ま、何とかなるか。じゃ、マーケティングは?」

「それは、今アムステルダムに赴任してる担当者がミュンヘンへ異動する事になってるからちゃんとやってくれると思うよ」

「そっか、じゃ、最近時々アムステルダムからミュンヘンへ出張に来ている日本人赴任者がこっちへ来るって事?」

「そう、彼らがそのまま異動する事になったんだ」

「なるほどね。最近頻繁に来ているもんね」

「ああ、4月からの新体制の準備なんだよ」

「そういう事か。じゃ、彼らの仕事の場所が変わるだけと思っていいのかな?」

「うん、基本的にはそうなんだけど、マネジメントは我々がしなくちゃいけなくなるから、責任は重くなるよな」

「いいじゃん、いいじゃん。業容を拡大するのは悪くないし」

「まあな」

という事で、私たちミュンヘンの現法は、4月から、サイコーエジソン株式会社の電子デバイス全てをヨーロッパ市場で営業する現法に生まれ変わる事になりました。もともと、半導体と液晶表示体と水晶製品は別々の事業体で営業も別々に行ってきたのですが、販売先は同じだったりするので、顧客にしてみると三事業の営業が別々に来ないで欲しい、一本化して欲しいという要望も多かったのでした。

例えば、携帯電話のメーカーにしてみれば、一つの製品の中に半導体も液晶表示体も水晶製品も全部使っているので、同じサイコーエジソン株式会社の電子デバイスはまとめて購入できた方が容易な訳です。であれば、販売元の我々も電子デバイスはまとめて営業する方が顧客の要望に叶っていますし、効率も良くなります。

このような動きはヨーロッパ市場だけの話ではなく、日本市場向けもアメリカもアジアも同じで、我々の元籍である日本の半導体営業部は、液晶表示体営業部や水晶デバイス営業部とともに、電子デバイス営業本部の中に統合される事になりました。

「舞衣子さあ、それでね、4月からは、Edison Semiconductor GmbHではなくて、新しい会社名に変わる事になったんだよ」

「そっか、そりゃそうだよね、半導体だけじゃないんだもんね。トム君、大社長じゃん

「ははは。そこがそうは問屋が卸さないって話でさ」

「どう卸さないの?」

「社長は新たに赴任してくるんだって」

「へえ、そうなんだ。じゃ、トム君はどうなっちゃうの?」

「まだ、完全には決まってないんだけど、とりあえず、半導体と液晶の責任者って事になるらしい」

「じゃ、水晶は?」

「水晶製品は今アムステルダムにいる梅野さんがそのまま担当するらしいよ」

「ああ、最近よく出張に来てる」

「そうそう」

「じゃ、社長は?」

「うん、そこなんだけど、営業からじゃなくて半導体設計部の部長が社長として赴任して来るんだって」

「え、設計部長って横山さん?

「うん、そうらしい」

「いいじゃん、横山さんならカッコいいし

「いや、そういう問題じゃないかも」

「じゃ、どういう問題?」

「いい人だと思うけど、横山さんって宇宙人らしいぞ

「宇宙人?いいじゃん、いいじゃん、ますますいいじゃん(笑)」

「そっか?」

「面白そうだよ」

「でも、営業のイロハも知らないし、英語もほとんど宇宙語のレベルらしいぞ」

「ま、いいんじゃない?英語なんて私たちが通訳すればいいんだし、私たちも宇宙語習えるじゃん(笑)」

「舞衣子は天真爛漫だよなあ。宇宙人って事はビジネスも宇宙人レベルって事だぞ。苦労するのはきっとこっちだよ」

「いいじゃん、若いうちの苦労は買ってでもしろって言うでしょ?」

「ま、そうなんだけど、俺たちそこまで若くないかも」

「私は横山さんに一票!」

「ま、俺も別に横山さんは好きなんだけど、営業的に未知数だからちょっと心配なんだよな」

「大丈夫、何とかなるって。私たちがリードすればいいんだし」

「ま、そりゃそっか」

「大事なとこだけ判断してもらえばいいんだよ」

「うん、それはそうだな」

「心配すんなって、トム君」

「ああ」

案ずるより産むが易しって言うしさ」

「ま、舞衣子がそう言うんなら、悪くないって気もしてきたけど」

「けど何?」

「いや、けどじゃありませんでした、舞衣子さま」

「そうでしょ。私の勘って、大抵合ってるでしょ?」

「はい、舞衣子さまの感性は人一倍素晴らしいです」

「そうよ、数学はイマイチだけど、人を見抜く力はあるんだからね」

「はい、カッコいいし、宇宙人ならなおさら面白いって事なのですね、舞衣子さま」

「その通りだぞよ、トム」

「ははあ」

「苦しゅうない。おもてを上げい」

「ははあ・・・」

てな訳で、久し振りに主従逆転茶番劇をしたようになって話は終わりました(笑)

この次は会社の名前をどうするかです。

 

 

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