冥界のLSI(10) NEC(大昔の)Vシリーズ、シングルチップおまとめ

Joseph Halfmoon

20世紀のチップ共の記憶が薄れゆく中、いくらかでも記憶にとどめるべく取りとめないこと書き連ねてます。今回は第7回「V41/V51、NEC版PC/XTワンチップ」の補足。NEC V30は「いろいろあって」多くの人が記憶にとどめているけれど、VシリーズにはMCUもSoC(当時はそういう名前はなかったけど)もあったのだよね。

※『冥界のLSI』投稿順 INDEX

V20、V30というお名前で知られているNECのCPU(MPU)Vシリーズ。かってのベストセラーパソコン、初期のNEC PC9801シリーズを支えたチップです。インテルi8086互換であって、インテルに正面切って対決し、訴訟には負けなかった?けれども発展の芽を摘まれてしまった悲運のチップでもあります(個人の感想です。)

Vシリーズは単品のプロセッサ(CPUともMPUとも綴る)のV20/V30が有名ですが、集積チップ、マイコンと呼ばれるような者どもも充実しておりました。その一部を第7回にてとりあげさせていただいております。今回はそのとき取り上げなかったシングルチップマイクロコントローラなど補足しておきたいと思います。

列挙すると以下の表のとおりです。

別名称 型番 カテゴリ 特徴
V20 μPD70108 MPU i8088と「上位」互換
V30 μPD70116 MPU i8086と「上位」互換
V25 μPD70322 MCU V20+周辺回路+ROM+RAM
μPD70320 MCU V20+周辺回路+RAM(ROMレス)
μPD79011 MCU V20+周辺回路+ROM(RTOS搭載)+RAM
μPD70P322 MCU V20:V30+周辺回路+EPROM+RAM
V35 μPD70332 MCU V30+周辺回路+ROM+RAM
μPD70330 MCU V30+周辺回路+RAM(ROMレス)
μPD79021 MCU V30+周辺回路+ROM(RTOS搭載)+RAM
V40 μPD70208 SoC V20+周辺回路
V40FD μPD70250 SoC V20+V40周辺回路+FDC-DMAC
V41 μPD70270 SoC V20+IBM PC/XT互換周辺回路
V50 μPD70216 SoC V30+周辺回路
V50FD μPD70260 SoC V30+V50周辺回路+FDC-DMAC
V51 μPD70280 SoC V30+IBM PC/XT互換周辺回路
別名称?愛称?

上記の左端には別名称と書いてありますが、ご本家NECのマニュアルに「別名称」と書かれていたのでそう書いてます。一般にはこちらのお名前で記憶されていることが多いのではないかと。愛称みたいなものかね? 一方、チップの型番としては、右隣りの「μPDなんたら」という番号が書かれてますが、これすらも「正式なオーダー番号(半導体営業に発注かけるときにつかう)」ではありませぬ。この番号の後ろにHLだとか何だとか、いろいろ諸元を示す文字やら数字やらが続きます。まあそういう情報は既に冥界に去っておると。。。

カテゴリという欄に、勝手な分類を書かせていただきました。MPU分類は「単体のプロセッサチップ」です。周辺回路とかメモリとかは搭載していないもの。パソコンに使われるのは主にこれです。一方、MCUというのは

シングルチップ・マイクロ・コントローラ

のMicro以下にUnitをつけた略称です。間違っても「マーベルなんたら」とかいう世界とは別世界です。周辺回路やメモリなどを搭載し、シングルチップ(日本では通例ワンチップと称します)で組み込み用途などで主に制御を行うもの。洗濯機や冷蔵庫から自動車まで司っておるものどもであります。

SoC(System On Chip)というのは朧げな記憶によると当時無かった名称です。名称はなかったけれども、それに近いことは当時も考えられていて、CPUと各種の周辺回路などをワンチップ(日本式、米国で言うときはシングルチップね)に集積し、あとはメモリなどと接続すればOKな奴ら。MCUとどこが違うの、といったらば、限られたメモリ量、工場出荷時に固定されたプログラム(最近では通信発達したので書き変えもできるものがあるけれど)で「底辺をささえる」MCUに対して、大きなメモリといろいろなプログラムに対応できるSoCって感じでしょうか?知らんけど。(まあ、会社によってはマイコン担当部署が取り扱っているのがMCU、ASIC担当部署が取り扱っているのがSoC、なんて時代もあったかもですが。)

i8088/i8086「上位」互換

V20~V50の特徴でもあり、インテルとの訴訟になった原因であるのがi8088/i8086との互換性です。まず元になったi8088とi8086ですが、これはほぼ同一に近いチップです。データバスが8ビットなのか16ビットなのかの違いだけ。IBMから8ビットバスなら買ってやるといわれたインテルが8086から「一瞬で(比喩ではなく)」作ったと言われている兄弟チップです。命令セットなどは同じ。そしてi8088がIBM-PCに搭載されたことで今のパソコンに至る「流れ」が出来たと。

NECの場合、V20が8ビットデータバス、V30が16ビットデータバスです。そして、V2x、V4xは8ビットデータバス、V3x、V5xは16ビットデータバスです。バス幅だけで倍に品種が増えている感じです。

NEC Vシリーズは元になったインテル8086シリーズより「互換性」が高い部分があるのです。もともとインテル8086は、前の世代のベストセラー8ビット機8080と「雰囲気」合わせて作られたものの、アセンブラソースのコンバータで8080からのソースレベルの移植をサポートする、といった中途半端なところがありました。一方、NECのVシリーズは、8080のオブジェクトをそのまま実行可能なエミュレーションモードを持っていたのです。当時一世を風靡していたDECのVAX-11が全世代のPDP-11のエミュレーションモードを持ってたみたいなものか(閑話休題。)

そういう点でもNEC Vシリーズはインテル8086の上位互換であります。

マイクロコントローラ

第7回ではROMを搭載していないV41/V51の方だったですが、VシリーズにはROM、RAM搭載しているMCU扱いの機種もあったのです。私は中の人でないのでどのくらい売れたのかは知りませんが、ラインナップを見るとそれなりに力が入っていた気がします。

ROM、RAM積んだマイコン機種はV25(8ビットデータバス)、V35(16ビットデータバス)という「別名称」ですが、それぞれ以下のバリエーションがあります。

    • ROM搭載品
    • ROMレス品
    • ROMにRTOS搭載品
    • EPROM品

ここで重要なことは、当時のROMは本物のROM(マスクROM)だった、ということです。現時点ではほぼ全てのマイコンにはFlash ROMが搭載されており、簡単なツールでプログラムを書き込むことができます。しかし、当時はまだ今のFlashのようなものは普及しておらず、プログラムのビットパターンをメーカに提出して工場で書き込んで出荷してもらうマスクROMの時代です。

つまり開発や、小規模量産時にはマスクROMを使わずに行いたいので、ROMレス品というのもありなわけです。ただしROM品に近い形態で最終試験など行いたいというときには、「清水の舞台から飛び降りる」勢いでEPROM搭載品を使えることになってました。

なおROMのサイズは16Kバイト、RAMのサイズは256バイトです。ちいせ~。

また、現在のモダンなマイコンと比べると周辺回路も貧弱っす。しかたね~。

2系統の「SoC」

「SoC」系統のV40/V50系統はインテルi80188/i80186に相当する機種です。i80186搭載の周辺回路は当時ありがちな82xx系(勿論オリジナルはインテル製)とは一線を画していて(多分「軽く」したかったのだと思う)、なんで~?というユーザーの疑問があったハズ。それに比べるとV40/V50の方がユーザーはファミリアであったような気がしないでもないです。しかし、第7回で既にふれていますが、V40/V50とV41/V51で2系統に分岐しているように見えます。これはV41/V51が「よりIBM-PC XT」互換な方向に寄せたためでしょう。V40/V50のままではIBM互換な方向に行きづらかった? 一方V40/V50にはFDという名を持つデバイスもあります。これはFDC(フロッピーディスク・コントローラ)を集積した品種(そのかわりDMACは割愛されてしまったみたいデス。)当時を振り返ると、日本には日本語ワードプロセッサという商品ジャンルがあり(NECにもワープロ製品あり)これが結構売れていたのでそれ向けでなかったかと。今では若者の知らないレトロな媒体のフロッピーですが。

とりとめなかったな。

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