このシリーズの前回で、『「衝撃弾性波法」です。これは技術的に興味があるので、また別稿を設けて取り上げさせていただきたいと思います。』などと書いているので、今回はその宿題に取り組みます。その測定方法にも興味は勿論なのですが、デバイス屋視点ですから、即物的に、ぶっちゃけどんな「電子デバイス」が使われているの?というのを知っておきたい、ということになります。それにしても弾性波という言葉を聞くと、P波とS波という言葉が即座に浮かびます。
この場合の弾性波というのは、固体(弾性体)の中を伝わる波と思ってよいでしょう。身近で、かつ大規模なものは誰もが知っている地震波です。学校の理科の授業で「大森公式」というものを習っていたら思い出しましょう。P波(縦波、疎密波)とS波(横波)の2種類(表面波というものもありますが割愛)の波が震源からやってくる。その2つの伝播速度が異なるので、到着時間の差から震源までの距離が「大体」推定できる大森房吉先生ご考案の偉大な公式です。ざっくりP波とS波の到着時間差の秒数に8をかければ震源までの距離kmとなる。(あまり遠くでは成り立ちませんが)「カタカタ」と小さく揺れ始めたらP波到着、「101、102と数え(百をつけると大体1秒1回のペースになる)、ドンとS波の大きな揺れを感じたら、数えた秒数x8で距離を知る、と。
ただ、コンクリート橋対象の測定方法を実際に調べてみると『横波や表面波は判別しずらいため使用されることはほとんどない』(参考文献1)などという記述もあり、主にP波利用なようです。
この弾性波を使った測定方法が「人気」なのは、他の方法(反発度、電磁波、電磁誘導、電気化学、ファイバスコープ等)に比べて、得られる情報の種類が多く、測定の仕方を工夫することでいろいろな事を知ることができ、コスト的、運用的にもやりやすい、といった諸般の事情が重なっているためのようです。
弾性波を用いた測定は、おおまかに以下の4種に分類されるようです。(参考文献1)
- 打音法
- 超音波法
- 衝撃弾性波法
- AE法
前回、何度も出てきた打音法も弾性波を用いる手法の中に入るようです。ハンマで叩いて弾性波を起こし、出てきた「音」を聞く。固体(コンクリート)の中ではS波その他いろいろ作用していますが、空気中に出てきてしまえば、疎密波である音波だけになってしまうので情報量は減る筈。これを測定するならば必要な電子デバイスはマイクロフォンとなります。
超音波法は、超音波発振器と受信器のペアでターゲットのコンクリートなどに超音波を加えて、それを受信するもの。衝撃弾性波法も似ていますが、発振器がメカニカルな方法などエネルギーが大きく、またインパルス波形なので周波数成分が広いというところが違います。どちらも発振元と受信元の配置の仕方で、反射と透過にわけられ、反射は空隙などの探査に向き、透過は部材全体の品質評価に向くという具合です。肝心のセンサですが、超音波の受信機もありますが、衝撃弾性波法では
AEセンサ
が主に使われるようです。さきほどのリストの最後にあるAE法とも共通します。AE=Acoustic Emissionです。内部に微小な欠陥のある部品に力を掛けると、内部が「パキパキ」(これはたとえです)と音を立てて微妙に壊れるのですね。この小さな振動を拾って欠陥のある場所が分かるというのがAE法です。そのときに使われるセンサがAEセンサなのですが、電子デバイス屋的には、
PZT素子(圧電素子)
と言えば、身近に感じられるでしょうか。結局、圧電素子で個体の振動を拾っているのでした。圧電素子で電気振動に変換してしまえば、「後はこっちのもの?」です。PZTの微小な信号をアンプして、オシロでもスペアナにでも突っ込めばOK.時間波形を見ることもあるかもしれませんが、基本、周波数領域でスペクトルを見ることになります。ただ、周波数領域は数kHzから300kHz程度とかなり低いようなので、高級なスペアナなどを持ち出す必要もないでしょう。
反射波の場合、欠陥や境界面で反射してくる縦波が計測側表面で再び反射し、2つの面間で共振、定常波が発生するのを捉えることができるということです。その際、部材の反対側で反射してくるピークと、途中の欠陥部分のピークと複数が見える筈。部材の反対側までの厚みは分かる筈なので、ピーク位置も推定ができると、こういう原理なようです。当然、周波数と測定精度には関係があり、周波数が低ければ、遠くまで届くけれども精度が低くなり、高ければ精度は上がるが、減衰が大きくなって短距離しか見えなくなります。目安50kHzで付加さ2,3mということみたいです。
これに対して波を「透過」させる場合は、「何処」という場所の検出には向かないけれども、通ってくる全体としてどうなの、という事は分かるようです。プレストレストコンクリート(PC)橋の場合、ストレスをかけるために橋げたを貫通している鋼材の一方の端から弾性波を入れ、橋の別の端で受信すれば、橋全体のグラウト充填(鋼材の周囲にちゃんと充填材料が詰まっているかどうか)の良否が一気に分かるらしいです。
調べているとまだまだ面白そうなものが沢山でてくるのですが、今回はこれまで。AEセンサの方は、完全に電子デバイスの世界なので、こちらは土木でなく、センサねたでどこかで取り上げたいと思います。なお、参考文献2では、加速度センサを使って振動を拾っていました。センサ利用のタネはつきません。
参考文献
- 1)弾性波法を主体としたコンクリート構造物の損傷度評価と維持管理に関する実証的研究、葛目 和宏 2015-03-23 京都大学
- 2)コンプリート内部欠陥の非破壊調査技術 -FITSA(SIBIE法)による調査- 株式会社富士ピー・エス 田村誠一
- 3)弾性波法によるプレストレストコンクリートの未充填グラウト部検出法の改良 大津他、熊本大、西日本高速道路、日本工営
なお、SIBIE = Stack Imaging of spectral amplitude Based on Impact Echo