何度も繰り返し書きますが「IoTはデバイスビジネスじゃない」と言われつつ、デバイスに突っ込んでおります。今日は、その中でもちょっと変わったというか特徴のあるデバイスを調べさせていただきます。米国CYMBET社の固体電池です。表面実装の小さなICチップみたいなものが電池になるという代物。シリコン・ウエファ上に作る工程は、材料を除けば、半導体製品と見まがうばかり。当然、量産性は良い筈。なにかものすごいポテンシャルのありそうな技術ではあるのですが、実際に使うとなると、私などウームとうなってしまいます。何でしょ、これは。
低消費電力のマイコンを扱うことが多かったので、電池と言えばペーパ電池みたいな薄型の2次電池など非常にスペースを食わないものも使ったことがあります。でも一番定番、使いやすいのはCR系のボタン電池(1次電池)でしょうか。ボタン電池のサイズにもよりますが、低消費電力マイコンであれば32kHzのクリスタルを使って年単位で動作させることも普通にできます。32kHzでは時間を測るくらいしかできないように思われるかもしれませんが、ゆるゆるとした反応で間に合う応用であれば、通信などそこそこの処理も可能です。なにせRISC的なマイコンであれば1秒に3万2千命令も実行することができるわけですから。
しかし、ボタン電池は小さいとは言え「ボタンあるいはコイン」的な大きさと厚み。小さな基板上にボタン電池のソケットをつけると結構な面積を占めるのでビックリすることがあります。場所をケチって場合によっては基板にボタン電池を直付け(電池を半田リフローする訳にもいかないのでその部分はスポット溶接的な接続)もありだと思いますが、元がボタンだかコインなのだから、薬の錠剤サイズまで小さくすることはできません。
一方、このCYMBET社の固体電池、サイズ的には
2.25mm x 1.7mm 厚さ200ミクロン
です(最小容量のベアチップの場合)。毎朝飲んでいる錠剤よりは遥かに小さい。その上シリコンウエファのベアチップなので、マイコンでもメモリでもMEMSのセンサでも、何か別なICとスタックしてワンパッケージにしたらどうよ、とか、ついつい妄想が広がります。そんな目で見ているとCYMBET社の固体電池、とっても使い道がありそうにも思えてくるのです。もし興味があったら、上にリンクが貼り付けてあるのでさっさと見に行った方が良いかもしれません。しかしです、でもね、データシートを見ると数品種あるのですが
電池容量5マイクロAh~50マイクロAh
低消費電力なチップであれば数百nA程度の電流でメモリをバックアップしたり、32kHzでゆるゆる動かすくらいはできますが、それでも数十時間から数百時間程くらいでしょうか。電源もらえないときの一時しのぎにはなる筈ですが、動かしつづけるときのメインの電源にはなりそうにありません。
2次電池で5000回くらいはチャージできる
みたいなので、時々充電してやれれば結構使い道は広がりそうではありますが、別に電源持つのなら、固体電池をわざわざ乗せなくても、なんとかなっちゃうかも。普通そうしているのだし。でもRFIDなどは無線で電力貰っているときだけ動作だな、何かその辺りで使えんかな。。。
その上、スペックを読んでいるとこんなことも分かります。
電池の内部抵抗結構デカイ、品種にもよるがキロオームから数十キロオーム
大きいだけでなく、どうも充電繰り返しているとこの内部抵抗が段々大きくなる「クセ」があるようです。だから、容量は小さいけれど、それを短時間に一気に流すという使い方もできない。マイクロAくらいの電流をしずしずと流すのに向いている。多くのセンサ類は、一瞬でよいからそれなりの電流(mA単位とか)を必要なものが多いので、そんなデバイスを駆動するのは望み薄かと。
また、ちょっと気になったのは、基板に表面実装することになるのだろうから、リフロー大丈夫なの、という点でしたが、これは
リフローの温度プロファイルがデータシートに掲載されていた
ので大丈夫そうです(私は実装の人ではないので、よく分からんけど。)
うーむ、使い道考えると、太陽電池か何かでチビチビ充電しながら使う時計みたいなものが思い浮かんでしまう。あんまり腑に落ちないですね。テクノロジーのインパクトの割りに普通過ぎる、そんな物しか考えつかない私が悪い。
でも、この会社のホームページみると、まともに商品化しているのはRTCとRTCとRTC(RTC=リアル・タイム・クロックですぞ。時計機能だわ、ぶっちゃけ)。なにかね、もっと華々しい大きな可能性のある「小さい」けれど「市場が巨大な」アプリないものでしょうかね。アイディアとテクノロジーは凄いのだからね。実は今、裏で世界を驚かすアプリを仕込んでいる最中なのかもしれないですが。