昔の隔週刊だった頃の日経エレクトロニクス誌を知っている身としては、近年の月刊は分量が少ない気がいたします。それでも、ちょっと気を抜くと読んでいない日経エレ誌が積みあがってしまいます。というわけで積んであった山から2019年10月号をとりだしました。表紙を見て目が点。「温度差不要の熱発電も可能に」との記事。トンデモないものを見逃していた?
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記事そのものはセンセーショナルなものではありませぬ。タイトル
IoTの電池不要化技術が実現 温度差不要の熱発電も可能に
という野澤哲生さんの署名のある6ページほどの記事であります。私、個人的にはこの方の書かれる記事大好きです。ちょっと変わったというか、変なというか、新しくて、面白そうなデバイスを取り上げられることが多いからです。デバイスによっては、型番と数量、納期そして値段で語り尽きてしまうようなものもありますが、この方は決してその類には足を踏み入れない?
タイトル後半はかなり「センセーショナル」ではありますが、本論的には、エナジーハーベスティング技術(最近はEHと略記するようです。若い人はEHエリック知らないか?)分野での進展を取り上げている記事です。私も、相当昔、その手のデバイスにちょっと近いところにいたこともあるんでありますが、当時も今も本当に商売になっているEHデバイスというのは、太陽電池くらいではないかしらん。。。実に多種多様な原理のいろいろなデバイスがあるのだけれど、本当の意味で量産、というものは少ないように思います。しかし、このところ、進展あいづき
EH2.0
なんだそうです。そんな話が分量的には大部分を占めます。そんな「前振り」を通り抜けた後、万を持して?、最後の方になって登場するのが、
温度差なし熱発電技術、増感型熱利用発電素子
なんであります。「温度差なし」?が三つくらいつきます。昔、熱力学、学校で習いました。数学難しくて、低空飛行でなんとか単位を取得。しかし、熱から仕事を取り出すには、「温度差必須」というのが記憶の奥底に刷り込まれております。そういう常識にとらわれた人々からは、当然、批判もあるようで、欄外、注6にその件の説明が書かれてています。
開発主体らしい東工大の松下先生という方の御主張の部分を引用させていただきましょう。
これは熱を位置エネルギーなどポテンシャルエネルギーの一種とみなすことによる誤解だ。
熱(フォノン)は温度差が無くても仕事をできるのだ、そうです。それを読んで、大昔読んだ
Maxwellの悪魔
をつい思い出してしまった私は不謹慎でしょうか?エントロピーが増大する?凡人には理解できません。
別の体験を思い出しました。10年ほど前、恒温槽の前に朝から晩まで何日か座り、試作した温度計測機能を含む装置の性能を測ってました。温度が安定するまで、何十分も待つのです。退屈な割に忙しい。しかし真の「平衡」にはそれでは十分でないことは分かってました。センサの性能もそれなり、試作だし、用途も何だしで、設計者(測定している本人)がまあいいか、測定点を打ち切って済ませていたためです。温度、熱、知るにはとっても時間がかかるのでした。
その後の詳報を期待したいです。(まだ読んでいない11月号、12月号に書かれているのかな??)
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