L.W.R.(33)古文書編#4『プログラミングとアーキテクチャ』VAX-11, CQ出版

Joseph Halfmoon

今回古文書のタイトルは『プログラミングとアーキテクチャ』。レヴィー/エックハウスJr. 共著白井訳、CQ出版1984年初版です。邦訳のタイトルだけでは何時の時代の何の話か分かりません。サブタイトルの「32ビット・スーパーミニコン VAX-11」を見てようやくVAXの本だと分かる次第。名著だと思います(個人の感想です。)

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今でこそ、プロセッサの命令セット、データ構造、アセンブラ、リンカ、OS、仮想記憶といったコンピュータの「読み書きソロバン」的必須知識を教えてくれる教科書はいろいろあります。でも当時はこれほど網羅的、かつ、実践的、そして簡潔にして明快なものは珍しかったんじゃないかと思います。現在でも基本部分は変わっていないので、今でも役立つような気もしないでもないのです。ただ当時一世を風靡していたDECのVAX-11中心のご本です。当時は良かったのですが、今となってはVAX何それ?って若者(中年でもそうか)ばかりだと思うので、残念です。

まず最初に、VAXとDECの立ち位置的なものを勝手に総括してみたいと思います。皆さんお使いの Linux の源流が Unix というOSであったことはご存じかと思います。そして Unix は C言語で開発された(書き直された?)ということもご存じでしょう。そのC言語やらUnixが最初に走っていたのが、DECのPDPシリーズの「16ビットミニコン」だったわけです。そのPDPシリーズのベストセラー、PDP-11はエンジニアリングやサイエンティフィックな分野で大成功をおさめたはず。私も最初に使ったCADマシンはPDP-11でした。そのPDP-11の「Virtual Address eXtension」としての上位機種がVAX-11です。32ビット化され、仮想記憶を備え、今に至るコンピュータの基本が全てそろっている、といっても良いマシンでした。勿論、UnixやC言語もVAXの上に移植され、「育つ」わけです(なお、DEC自体はUnixではなく、自社OSのVMS中心でした。VMS使っていて、当時のUnixみると、何この素人っぽいOS、みたいな感じがしました。また、MS-DOSの源流であるCP/Mは、PDPシリーズの影響が感じられます。)

ちなみに今に残るMIPSという単位が最初に測られたのも VAX-11 の上だったらしいです。 1MIPS! 当時の1MIPSは凄かった。

今ではほぼ絶滅した「ミニコン」というカテゴリ、1970~80年代くらいは世の中に蔓延っていました。「基幹業務」向けに使われることが多かった大型機に対して、研究、開発用途向けなど小回りの利かないと困る分野はミニコンの独壇場だったです。そしてDEC、Digital Equipment Corporationこそが、ミニコン世界の旗頭でした(一応 DEC-10など「大型機」分類のマシンもあったですが。)

日本のユーザはDECのことを「デック」と呼ぶことが多かったですが、奴ら自分では Digital と呼称してましたな。だいたい当時の欧米人(業界の)が Digital というとDECの会社のことを指しました。当時、「Digitalを一身に背負っていた」会社だったのです。

昔、ある会合でプロの同時通訳の人(ただしコンピュータ業界の知識はない)が DEC のことを「デジタル機器株式会社」と訳していたのを聞いたことを覚えています。何の誤りもありませぬ。しかし、そう訳した瞬間、会合出席者(DECの人ではない)多数からはブーイングが飛んでいました(同じような昔話で国際ビジネス機械社の話もありますが、私は実体験したことないです。)

業界じゃ大立者、だけれど業界を離れたら一般にはまったく知られていない。当時は、インテルやマイクロソフトも皆そんな感じだったのでいたしかたありませぬ。

さて購入したご本の後付けをみてみると初版1984年です。そして今回本棚の奥から取り出すまで忘れていたのですが、CQ出版社でした。最近もハードカバーの翻訳書などを出版しているのかしら?価格は前回よりはお手頃な2800円とな。

VAX11_CP

当時、結構 VAX-11/780 にお世話になっていたので、それもあってこのご本を購入させてもらったんだと思います。駆け出しエンジニアには勉強になった一冊でした。

しかし、今から思うとこの1984年は微妙。DECのミニコンビジネスはまだまだ儲かっていた時期の筈ですが、既に暗い影が忍びよっていた筈です。RISCワークステーションという奴ら、SUN(SPARC)とかMIPSとか。80年代後半からはRISCベースのUnixワークステーションが急速に伸び、90年代に入るとミニコン市場は急速に萎んでしまう筈。そして偉大なDECは、部門ごとにバラバラに売り払われていき、最後はパソコンメーカのコンパックに買われ、そのコンパック自体がHPに買われとなった次第。当時の一部部門の末裔は今でも健在みたいですが。

やっぱVAX触ったことないと「1MIPS」語れないよ。年寄りの繰り言か。

L.W.R.(32)古文書編#3『Z-80 マイクロコンピュータ』寺田他、丸善1979 へ戻る

L.W.R.(34)古文書編#5 『IBMパーソナルコンピュータ』1983、アスキー監訳