表面実装部品など手半田しておりますと、老眼の目は霞み、ピンセット持つ手は震えて上手くいかないことが度々。思いのほか時は過ぎます。しかし、出来上がった小さな基板を眺めながら一杯頂くのが、これまた乙なものかと。そんなことで日々過ごしておる今日この頃ですが、1つ問題に気付きました。問題といっても平和な問題なのでありますが。
※かえらざるMOS回路 投稿順 INDEX
ちょっと前、Araha氏から、トラ技2020年5月号の付録基板の流れで使うことになりましたMOSトランジスタ、BSS84、BSS138へのご感想を聞いておりました。
「小さい、安い、牛刀割鶏」
この中の「牛刀割鶏」のところ、実はかなり気になっておりました。そして、前回、BSS138のIV特性モドキがM1Kのお陰で「実測できるみたい」と喜んだ様子を書いてしまいましたが、実はその陰で、
こりは、ヤバイ
という感触をもっておったのです。前回とったグラフの縦軸を御覧じろ、VDS=2.5Vでゲートに2.3Vほどもかけたら150mAほども電流流れてしまうのです。電流を流せるのは本来マズイ話ではありません。ましてやディスクリートのトランジスタなど電流流すために使うものであります。この数字すら控えめと言えば控えめかも。しかし、今回は、このディスクリートのトランジスタで
論理回路
を作るという、まさに牛刀割鶏なことをしています。それでも、トラ技の特集では、
スタティックなCMOS回路
であります。CMOSなので基本、電流は流れない。スイチングのときに一瞬流れておしまいです。トラ技の特集どおりならあまり考えることもない。けれども、当方でこれからやろうという「古代の回路(モドキ)」の復元、
ダイナミック回路、NMOS
を考えると、電気が流れ過ぎるのは結構大問題です。大体は、今回測定に使おうと思っているM1Kの制約事項なのですが。
まずは電源とその電圧です。トラ技付録基板は3V電源前提、1.5Vの乾電池2本で動作できるようにしてあります。それに対して、M1Kのパッケージ内に格納されていた小さな注意書きのペラ紙から引用させていただきましょう。
To keep both your M1K and computer safe, please avoid using the device with external power supplies or batteries over 1.5V.
外付けの3V電源など使って実験するのは止めた方が良さそうです。もともとM1Kは電源を内蔵しているので、M1Kの内蔵電源端子を使用することにいたします。M1Kから取り出せる電源は以下の3種類です。
-
- 2.5V
- 5.0V
- 3.3V
M1K自体、USBバスパワー駆動(USB2.0)なので、基本USBから取り出せる 5V500mA(正確にいえばそうでもないことをADALM1000のハードウエアのページで説明されています)内で動作しなければならない筈。アナデバ社が用意してくれている唯一ともいえる日本語資料、
「Active Learing Program ADALM1000(M1K)使用の手引き」
によれば、電源仕様として
-
- 5V(200mA)
- 2.5V(200mA)
と書かれています。「デジタル電源」として3.3Vもあり、こちらの方がUSBの根本に近いのかもしれませんが、M1K内部のマイコンなどのハードウエアを駆動するための電源でもあるようなので、論理回路といいつつ、アナログ(アナクロ?)なテスト対象回路(DUT)に接続するのは憚られます。2.5Vではちと低いです。それに、頭の中にあるのは、
5V単一電源だったころ
です。今のような低い電圧で多電源の世界ではなく、かといって、5V以外にプラス、マイナス12Vが必要だった「前」の世代でなかった時代、電子回路が幸せだった時代が念頭にあるのです。幸いBSS84、BSS138ともに耐圧20Vです。実験回路の電源は5Vとして、M1Kの5V電源を利用させてもらうことにいたしました。これにより、
実験回路全体として200mA以内に収める
ことが絶対の要請となったのであります。そこで、回路に使う予定の各素子毎に5Vでどのくらいの電流が流れそうか、見積もってみることにいたしました。最初に取り出したのは、第2回でトホホだったシュミット・トリガ・インバータであります。普通のCMOSのインバータなどでは電流がそんなに流れるわけはないですが、こいつはかなりヤバイ。使用しているMOSモデルパラメータがイマイチ信用できないままなのですが、こういうときに当たりをつけるのには、SPICEでしょう。LTspiceに5V電源のときのVIN対VOUTのグラフを描いてもらいました。こんな感じ。
見事に「シュミット」な感じ。文句のつけようがありません。しかしね、肝心なことは、この回路に流れる電流です。電流プローブであたってみるとこんな感じ。
スイッチング時に流れるのは予想通りですが、結構デカイ。赤の方が電流(右側目盛)です。まさに、
牛刀割鶏
この回路1個で、M1Kの電源供給能力を使い切ってしまう、ようです。ま、SPICEパラメータにイマイチ信用おけないとは言え、大体の傾向はこんな感じの筈。そこで瞬間的に考えました(何も考えていない)
電流制限抵抗入れよう、P,N両方に入れて「バランス」とろう
抵抗値は1KΩとしました。何故と言えば
リール買いして5000個手元にあるから
そういう成り行きな理由で再シミュレーション用に修正した回路図がこちら。
シミュレーションを走らせてみます。一応、シュミットといえばシュミットな動きをしているのだけれど、とても「汚い」波形でないかい。立派な回路設計者が見たらお怒りではないかと思いますが、トラ技の付録基板の「流用」でそのまま使える、という1点で私の要求には適合。
一番の問題は、電流であります。が、抵抗が上下あわせて2kΩも入っているので、間違ったってそれほど流れるわけはありませぬ。一応、電流波形を重ねてみましょう。こういうことはSPICE便利。
2mAもあれば収まる計算です。このペースで電流を押さえることができれば、このシュミット回路を含む、数十トランジスタくらいの「論理回路」を組んで、M1K電源で駆動することも可能でしょう(とか言ってまた甘い見積もりか)。
実際に、トラ技付録基板のシュミット回路(今回の目的に合わないので、LEDとか入力のプルダウン抵抗とか取り付けてません)をDUTとしてM1Kに接続したところがこちら。
M1K、ほんと接続が簡単。おもむろにAliceを立ち上げ、X軸(CHA)を入力、Y軸(CHB)を出力にとれば、こんな感じ。
MOSモデルパラメータの問題があるので、LTspiceのシミュレーション結果とスレッショルド電圧がかなり差があるのは以前と同様です。しかし「汚い」特性の感じは、クリソツ。
まあ、こんな感じで、適宜、電流制限抵抗かませてやれば、とりあえず動作するんでないかい? 本当か?