お手軽ツールで今更学ぶアナログ(7) Analog Discovery2でボード線図

JosephHalfmoon

コロナなGW頃に「M1Kでボード線図」という投稿を書いたのです。その時は簡単に測定グラフが描けると喜んでいたのですが、その後M1K(ADALM1000)のボード線図「作図能力」にはかなり不満が溜まりました。M1Kが悪いわけじゃないのです、M1Kの能力では追従できないような信号に適用しようとしたから。そういうわけでAnalog Discovery2の出番です。

※「お手軽ツールで今更学ぶアナログ」投稿順 indexはこちら

まずね、カーブトレーサーなどの測定器に通ずるものがあるSMUを持っているM1Kは、本質的にはボード線図などの測定には「向いている」と一言書いておきます。実際、Analog Discovery2でボード線図を描く準備をするよりは、信号本数は少なくて済むです(電源除けば2本しかない。)ただ、不満なのは、

100Kサンプル毎秒

という速度の上限だ、と申し上げておきましょう。このところ、オペアンプをいろいろ比較してみたりしているのですが、簡単なオペアンプの回路でもM1Kでボード線図を描かせると

ほぼまったいらなグラフしか描けない

からであります。多分、M1Kで描けるのはせいぜい10KHz付近くらい。手元にある「普通の」オペアンプのカットオフ周波数でも数十KHz付近だとおもうので、残念ながらまにあわないのであります。

それでもね、まずはM1Kで出来るところまでやっておきたい。今回参照させていただくアナデバ様のM1Kの学びのページは約1年ほど前の以下のページであります。

「ADALM1000」で、SMUの基本を学ぶトピック17:基本的なオペアンプ回路

このページ自体にはボード線図などは出て来ず、オペアンプ使った基本的な回路を実際に構成しながら学ぼうという趣旨?なのではないかと思います。使用しているオペアンプは

AD8541、CMOS rail-to-rail オペアンプ

であります。ただね、文句を言うわけじゃないのですが、手元にあるADALP2000 Analog Parts KitにはAD8541はふくまれていません。2回路をワンパッケージにした兄弟チップ

AD8542

が入っています。1回路版より2回路の方が、お得じゃね、とも思うのですが、上記のページをよんでいくと(1行引用させていただきます)

もし時間があれば、AD8541を「OP97」か「OP27」に変更し、出力電圧の最小値/最大値を比較してください。

と書いてあります。OP97、お世話になっています。OP97は1回路なので、ピン配置が異なります。同じピン配置だったなら、「ブレッドボード上のICを差し替えるだけ」で、比較実験できたのに~、AD8542は2回路だから、別々に配線しないといけない、使わない方のアンプを止めたりちょっと面倒、などという不埒な思考のためであります。

比べよ、というのは普通のオペアンプ(OP97)に対してrail-to-rail(AD8542)の実力を示さん、という親心?からでしょう。アイキャッチ画像に掲げたとおり、ブレッドボード上にOP97とAD8542について、約5倍の反転増幅回路を構成しました。なお、AD8542のBOBは、チップと足が90度ローテイトする配置になっていて、BOBのピンからみると、AD8542のデータシートのピン配の図と「鏡像」「裏表」です。たかだか8ピンですが、記憶力の弱った年寄りは、頭の中で反転させて接続していくのが辛い。その上、データシート通りの1回路のOP97と2個同じ回路を並べているので、こんがらがります。実際、最初、AD8542の+入力端子を繋ぎ忘れて、なんじゃらほいな波形がでてビックリ。しかし、記事を書かれたアナデバ様の技術者はなんでもお見通しだ!(また引用)

回路を構築している際、正しく動作させるまでに大きな苦労が伴うこともあるでしょう。<中略>回路の問題の99%は、単純な接続ミスか電源に関する問題です。<中略>回路がうまく動作しないときには、部品や機器のせいにするのではなく、電源を切り離して単純な原因を探し出そうとするのが最善の策だと言えます。

そだね~。直しました。例によってM1Kの電源は0V, 2.5V, 5Vなので、2.5Vを基準にして5Vをプラス電源、0Vをマイナス電源、という設定です。今回はオフセットの変更は行わず。

まずは、M1Kで取得したAD8542の入力(緑)と出力(オレンジ)波形

さて、上記のページのご指示にあるとおり、上の約5倍の増幅から、フィードバック抵抗を倍にして約10倍の増幅にしたものが下。当然5Vの電圧範囲に収まる筈もなく上下は切れてしまっています。見れば、マイナス側は0Vまで振れていますが、プラス側は4.8V付近でサチっている。あちこちに書かれていることですが、Rail-to-Railといっても完全に振り切れるわけじゃないのだと実感できるグラフです。

さて、同じことをOP97でやってみました。まず5倍の反転増幅。おやおや、下の方が怪しい。

さらに十倍に変更。これを見ると、もう5倍の時点でほぼ限界に達しているのが分かります。普通のオペアンプはこんなもんじゃい、と。

ようやく、本題のボード線図に入ります。M1Kで描かせてても、AD8542もOP97も「ボード線図」ぽくない平なグラフしか描けないので、Analog Discovery2に交換します。当然、Analog Discovery2はSMUではないので、測定用の端子とパターンジェネレータ用の端子を2本組み合わせて配線しないとなりません。また、測定端子も正負の2本になるので大分本数が多くなります。ただ、よろしいのはプログラマブルな正負の電源がとれるので、GND中心に、上を+2.5V、下を-2.5V設定とできます(それぞれ+5V、-5Vまで範囲を広げられる。)

一応、Analog Discovery2で測ったAD8542の5倍反転増幅波形がこちら。

OP97の5倍反転増幅波形はこちら。

やはり、上下が頭打ちです。ボード線図を測定するのに、出だしからちゃんと振れていないのは嫌なので、入力波形の振幅を半分にして綺麗な正弦波になるようにしてから測定することに変更。

さて、Analog Discovery2を使って得たAD8542のボード線図。入力信号(パターンジェネレータ)も入力信号の観察(オシロ)もCH1側で、測定すべき出力はCH2で見る、という設定さえまもれば、あっけないくらい簡単にボード線図を描いてくれます。M1Kでは到底たどり着けない5MHzくらいまで測定可能。それっぽいボード線図だな。よしよし。

OP97は下です。AD8542と比べると1MHz超えたあたりで良からぬことが起きている雰囲気があります。赤いカーソルを出してカットオフ周波数調べると30KHz付近でしょうか。ま、その辺までなら位相の余裕もあるみたいだし。問題ない?

やっぱり、何かとAnalog Discovery2、良いな。

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