鳥なき里のマイコン屋(22) 正統派すぎる? ST

JosephHalfmoon

MCU(マイクロコントローラ)業界でもメジャーな会社の一つが STマイクロエレクトロニクス社です。本社スイスですが、そのルーツはイタリアとフランスにまたがっています。そして、その長い歴史の中で欧米の多くの半導体メーカを飲み込んできた欧州を代表する半導体メーカであります。そんなメジャーな会社を後回しにしてきたのは、一重に「変なところがない」(ので面白くない、すみません)からです。まさに、現時点でのMCUメーカとしてはこの方向でしょ、というそのものズバリ優等生路線。

さて例によって使用コアを列挙すると以下の3種に集約されています。

  • STM8 8ビット
  • STM32と呼ばれる、Armコア 32ビット
  • SPC5と呼ばれる、Powerコア32ビット

これ以外にST23と呼ばれる、セキュリティ向けのコアがあるのですが、こちらは用途が特殊なので後でちょっとだけ触れます。

どこかのように異なるアーキテクチャのコアが多数残っていない

綺麗なものです。それもローエンドには自社コアの8ビット、ミドルからハイエンドには業界標準的な外部IPコアの32ビットという「典型的」な製品構成です。

先の無い4ビットや8と32の間でポジショニングが難しい16ビットはなし

8ビットと32ビットの組み合わせで市場をカバーするという考え方は、現時点では多数派かつ平均的な判断じゃないかと思います。唯一、32ビットに2種のコアがある部分に「重複感」があるのですが、ここすらも正統的な理由によるのではないかと推定できます。

PowerアーキテクチャのSPC5は、車載専用MCU

ちょっと驚くのですが、汎用MCUでは主力のSTM32コア製品には、車載向けグレードなどは一切ラインナップされていないように見えます。逆に車載向けのSPC5には汎用品など存在しません。線引きは完全です。STマイクロエレクトロニクスの製品ラインを決めている人たちはものすごく筋を通すタイプなんじゃないかと想像します。他の会社でよくある商品の被りとか許せないんじゃないでしょうか。なんといっても

車載といったら、長期安定供給のお約束必須

ひとたび車載向けにMCUを供給するならば、半導体メーカの都合でディスコンだの、EOLだの勝手なことをいうな、ということです。これは車屋さん向けに限りませんが、マイコンは半導体メーカだけでなく、マイコンを使う側の会社もソフト、ハードの開発に多大な投資をすることになるので、その資産が使いづけられないととてもマズイわけです。とくにソフト資産はどうしてもコアに結びつくのでそんなに簡単には移植できません。マイコンユーザさん達の中では、

自動車最強

です。あっちにフラフラ、こっちにフラフラでは「車載向け」として相手にしてもらえません。あるコアを使っていたのに、別系統のコアで似た製品を作ったりすると、「あるコア」を使っている人は、本当にこのコア使い続けていいの?と疑心暗鬼になるでしょう。なにか変化を起こすとしても、10年単位の長い目で見て、長期安定供給を行い続けながらでなければならないでしょう。多分、STは相当前にPowerで車載向けMCUを始め、ユーザー側には既に膨大なソフトウエア資産などが積みあがっているのだと想像します。そのため、車載はこれでやり続けます、という決意を示している「住み分け」なんだと思います。

一方、自社コア8ビットのSTM8の方は、汎用品だけでなく車載品もあります。ただし8ビットなので、車の中でも末端部を制御するような手足向けの製品です。あくまで「車載の頭」はSPC5で、これと被ることはありません。

車載向けマイコンという方向性自体、現時点では王道のねらい目ですが、実際にできているところは限られます。ここをしっかりやり切れている、という点でもSTは数少ない優等生の一人に見えてしまうのです。

もう一つ、優等生でないとできない王道のねらい目が、

セキュリティ

分野です。スマートカード(銀行カード、IDカード)などに代表されるようなお金や個人情報などに直接関与する分野です。これまた、泡沫で、フラフラしたメーカには決して落ちてくる仕事ではありません。STはこの分野でもガッチリやっているようです。ローエンドの小規模なカード系では先ほど登場したST23ですが、上位機種ではArmです。ただし汎用品のSTM32とは峻別されているセキュリティ向けのプラットフォームです。このセキュリティ分野の製品にも車載向けがあるので、「Armコアの車載向け」というものが存在します。これは、さきほどの話と矛盾するわけではありません。自動車のECUなどに組み込まれる制御用にはSPC5、Armコアが自動車で活躍するのは開錠施錠などをワイヤレスで行うセキュリティ用途と住み分けが明確だからです。

最後はSTM32と呼ばれる、汎用のArmコアのマイコン群です。Armコアとして使用されているのはCortex-M0からM7まであります。Armコアのおさらいはこちらを見てください。Armベースのマイクロコントローラの製品ラインナップのカバー範囲の広さとして、これほど充実したコアをそろえているのは、他に数社あるかないか。ここでもまた優等生です。

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