鳥なき里のマイコン屋(27) Ambiq Micro、超低消費電力MCU

JosephHalfmoon

ここまで取り上げさせてもらってきたマイコン屋さんの多くで、買収や合併などを通じてMCU製品ラインが整理統合されてきた様子を窺い知ることができました。どの会社にも「利益率が高いとは言えないマイクロコントローラ事業」と格闘してきた「長い歴史」がある、と言えるでしょう。マイクロコントローラを事業にしている会社の数はかなり減っている、というのが実感です。そんな今時、といっても2015年ですが、マイクロコントローラに新規参入した会社があるのです。米国テキサスのAmbiq Micro社です。

会社設立自体は2010年ごろらしいですから、設立から4~5年してマイクロコントローラに参入してきたことになります。この会社の製品ラインは、ホームページによると以下の3種類のファミリからなっています。

  1. Apploファミリ
  2. Applo2ファミリ
  3. Applo2 Blueファミリ

全てのファミリが同じArm Cortex M4をコアとして使用しています。M4は浮動小数点まで含むので、マイクロコントローラ・コアとしては比較的上位に位置付けられます。パッケージのバリエーションなどでカタログ上の品種は膨らんでいるのですが、製品のスペックからすると合計4種類のダイ(チップ)しかないように見えます。ApploファミリはFlash 512KB品(RAM64KB)とFlash 256KB品(RAM32KB)の2品種、Applo2ファミリはFlash1024KB品(RAM256KB)の1品種、Applo2 BlueファミリはApplo2とFlash/RAM容量は同じで、Bluetooth LEまで集積したところがApplo2との違いのようです。他の既存MCUメーカだとどこも品種が多いので、1個のファミリにまとめられてしまう程度のバリエーションです。さて、集積している主な周辺回路はというと

  • センサとインタフェースするためのADコンバータなどのアナログ回路(温度センサは内蔵)
  • タイマ、リアルタイムクロックなど
  • I2C, SPI, UARTなどのシリアルインタフェース

といったもので、それほど特徴があるようにも見えないのです。他社もセンサーIoT向けのようなカテゴリで出しているマイクロコントローラにありそうな構成にみえます。なにが勝算あって参入してきたのかと言えば、この会社の売りは、

SPOTとよぶ超低消費電力プラットフォーム

です。SPOT=Subthreshold Power Optimized Technologyだそうです。カタログスペック的には消費電流的に他社より一桁以上小さくなるような数値が書かれています。いろいろ条件はあるにせよ、確かに数分の1くらいは十分達成できそうな低消費電力なマイクロコントローラであることは間違いなさそうです。それができるのは、SPOTの最初のS, Subthresholdにあります。ザックリ言ってしまえば、スレッショルド電圧というのはトランジスタをON/OFF制御するために必要な電圧です。それの Sub、下だ、と言っているのです。通常のCMOSトランジスタ回路で使うような電圧の下、具体的に言うと 0.5V~0.3Vくらいの電圧で回路を動かしているようです。そういうサブスレッショルド電圧になってくると、トランジスタのON/OFFの電流よりも、だらだら流れ続けるリーク電流というものが多くなってしまう、とかいろいろ悪い現象も発生します。「普通のマイコン屋さん」は手を出さない領域じゃないかと思います。

敢えて人が手を出さない領域を、うまく使いこなしている

と主張しているのが、この会社の存在意義なんじゃないかと思います。ただ、内部のそんな低い電圧をマイコン外部の世界にまで求めてしまうと、周辺のインタフェースが取れなくなってしまいます。

低い電圧は内部のレギュレータで作る。外部電源的には1.8V~3.3V=普通

低消費電力が売りのマイコン屋さんは昔からオンチップのレギュレータで内部の電圧を下げて使うということで消費電力を抑えてきました。だから、内部の電圧を落として使うこと自体は、この会社だけの特徴ではないのです。しかし、普通そこまで落とさないだろうという、0.5V~0.3Vといった低い電圧まで落として使っている、というのがここの特徴です。

そんな低い電圧でよく安定して回路動かせているな

と感心します。確かに「売り」にしたくなる技術ではあります。この低消費電力技術を使って、スマートウオッチ、ヘルスモニタなどのウエアラブル領域を「攻めている」ようです。しかし、ちょっと気になるのが、

1年くらい新たなプレスリリースが出てない

です。ベンチャ企業なので、何か「デザインウイン」(これも古色蒼然とした業界用語ですが)の度に、xxに使われました、的なアナウンスが数件あったのですが、昨年1月から追加がありません。何か次の1手を仕込んでいる最中なのかどうか。ブツの量産を始めたのは良いが、胸突き八丁、というところなのかとも想像します。それにね、マイコンだけ数分の1にできても他の部品が食う電力もありますものね。応用システム全体としてみたら、差は小さくなりそうな。。。

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