冥界のLSI(6) Motorola、DragonBall PDAを先駆ける

JosephHalfmoon

SoC以前のSoCプロセッサ話、どうもx86側に引きづられ過ぎたようです。登場したてのx86の対抗馬と言えば68K(MC68000)でした。そしてx86側にPC/AT互換のSoC(まだSoCという言葉は一般化していない)が登場した1990年代中盤、68KにもSoCプロセッサが登場し、「一山あてる」ことになるのです。市場はPDA、これまたPDAという言葉以前にApple社がARMプロセッサを使ってNewtonという装置を出したけれど「あてられなかった」市場です。その市場を本格的に立ち上げたのは、Palm社でした。そしてそのプロセッサこそ、DragonBallの名で知られるMC68328とMC68EZ328でした。

(「黄昏のSoC」改題)

MC68000が登場したときは衝撃的でした。インパクトの強い巨大な64ピンDIPのプロセッサ。長さだけでなく幅も広いので、8086の40ピンDIPがちっぽけに見えました。また、8ビット8080のレジスタの雰囲気を引きづる8086に比べると、32ビットCPUじゃないの、というレジスタ群、直ぐにも8086など吹き飛ばしてしまうのではないかと思いました。が、そういう運命はやってきません。x86が、屋上屋を重ねるような拡張をしつづけ、80286でパソコン市場を握り、80386で32ビット化し、486やPentiumで攻勢をかけてきたRISCと性能向上合戦を戦っているころ、対するモトローラ社の68Kファミリは傍から見ていても「混迷」していました。出す筈だったものがなかなか出てこない、どうしたんだろう、という感じです。それが原因なのか結果なのかは知りませんが、モトローラ社はCISCの68Kファミリに見切りをつけるかのように88KというRISCに注力を始めます。68Kファミリの最大の顧客であったApple社に68Kでなくこの88Kを売ろうとするのです。しかし上手くいきません。Apple社がIBMのPowerアーキテクチャに乗り換えるかという方針になって、急遽88Kを捨て、IBMと妥協し、中身はIBMのPower、外側は88KというPowerPCに方針変更したのでした。これでAppleとの関係はつながりましたが、68Kファミリは最大顧客を失います。また、出始めのワークステーションの多くは68Kファミリ(68020など)を使っていましたが、それらはSPARCやらMIPSやらに既に入れ替わっています。唯一残されたのが組み込み市場でしたが、モトローラ自身が68Kの代替わりを推進します。68000とは似ているけれど、バイナリ互換性のないColdFireという68KのRISC版とでもいうべきものを作って組み込み市場に向けるのです。(今でもモトローラ半導体が分社化してできたフリースケールセミコンダクタを飲み込んだNXP社のホームページに行けば、組み込み向けにColdFireが売られています。そしてColdFireのページの末尾に68Kファミリの末裔を見ることができます。ただし新規設計非推奨品ですが)当時、RISCがイケイケの時代で、インテルも860や960などRISCプロセッサを出していましたからRISCになびいたのはモトローラばかりではないのですが、それにしても68Kの虐げられようは可哀そうに思えてきます。しかしその中から

DragonBall

が登場してくるのです。コアは高性能化して肥大した68020や68030などではなく、オリジナル68000のCMOS版。そしてSoCという言葉にふさわしい(その言葉はまだ無いが)周辺の充実ぶりです。最初期の版は、MC68328(DragonBall)でしたが、第2世代の改良版としてMC68EZ328(DragonBall EZ)が追加されます。どちらも基本構成はほとんど同じで、EZの方が細かい改良が施されている感じです。

  • 68EC000 CPUコア
  • 割り込みコントローラなどのマザーボードの中核となるロジック
  • DRAMコントローラ
  • タイマ、PWM、シリアルポート
  • LCDコントローラ(モノクロかカラーSTN液晶用だった)

これを使ってPDA市場を牽引したのがPalm社でした。既に携帯電話はありましたが、まだスマホは無い時代。PalmOSを搭載したPDAは、今のスマホを先取りするように一時大流行します。ここまで虐げられていた68Kが一花さかせたのです。が、それも一時のことでした。90年代中盤になってもPDAでやれた68Kは、元の設計が大変良かったのだと思います。しかし、さすがに機能を盛っていこうとすると無理がありました。結局、PalmOSはARM採用機にシフトして行きます。しかしそれもつかの間、スマホの大波にPDAは飲み込まれ、消えていく運命にあるのでした。

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