今回の御本は30年以上も前に岩波書店から出ていた本です。前回の御本の未だに派生の新刊書が出る息の長さとは異なりますが、驚いたのはAmazonで古書として購入する場合の価格です。当時の定価1700円の5倍以上の価格で売られていました。人気高いのね。「マイクロコンピュータの誕生」、サブタイトル「わが青春の4004」。
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そろそろマイクロコンピュータ生誕50周年なので、「最初のマイクロコンピュータ」インテル4004(4ビット)が話題に上ることもあると思います。昔の電子デバイス業界では、4004の設計者が日本人だというのは常識だったですが、50年を経た今どきの若者(あるいは中年)にはどうだか。その4004(だけでなく、インテル8080、ザイログZ80)の設計者として有名な嶋さんがお書きになったご本です。
恐れ多いので内容についてとやかく言うことは避けますが、サブタイトルからうかがえる通り嶋さんの「自叙伝」的な側面を持つ書物です。しかし、自叙伝とも言い切れないのは、本書の中の図版の多さからも分かります。チップ写真は勿論、ブロックダイアグラム、命令フォーマットの図から、回路図、タイミングチャートまで掲載されています。多分、半導体の設計に関わったことのある人であれば、うなづきながら読める内容だと思うのですが、背景知識の無い人が読むとなんだか分からない部分が相当あるんじゃないかと想像します。
4004、8080、Z80、Z8000の4機種の設計について、設計途上のアレコレから技術的に考えたことまで盛りだくさんな書物であります。
個人的にこのころのチップ写真はとても好きです。線幅広く、メタルも1層で、手配線。写真みたらどんな回路からできているのか大体想像がつきます。今のチップ写真みても分かるのは大きな機能ブロック程度というのとは大違い。
古書とはいえ、定価の5倍以上で売られているのを見て、一瞬「売ってしまうか」などと良からぬことを考えました。すみません。しかし、売れませんな。下を御覧じろ。
嶋さん、お手づからの立派なサイン、もはや「揮毫」といっていい雰囲気のものを頂いておるのであります。その上、日付は第1刷の発行日に合わせて。
古本屋ではなく「鑑定団」レベルかとも思いましたが、「お宝」の電子デバイスを「鑑定」してくれる鑑定士はいないだろうしなあ。
冗談はさておき。
この本を読むにあたっては、1970年前後の電卓戦争についても知っておいた方がよいかもしれません。今でこそ100円ショップでも売られている電卓ですが、出始めのころ、数十万円もする装置でありました。軽自動車並みの値段だった?
ごっつく重く、LCDなどはまだ実用化に程遠く、赤い数字がチラチラと光ってました。レシートを想像すると良いのですが、多くはロール紙用のプリンタ(当時のはデカイ音のするインパクトタイプだったと思う)も搭載していました。キーを叩いても、計算結果をプリントしてもバリバリ音がしました。しかし、それでも「機械が計算してくれる」というのは衝撃的な事態でした。亡くなった私の父親も数十万円する電卓を買った口です。当時小学生くらいだった私は触らせてもらえませんでした。おぼろげな記憶では、「残念なことに」シャープ製だったかと。
そうインテル4004は今は無き日本の電卓会社ビジコンのカスタム・チップが出発点であったのです。これまた当時は有名な話でしたが、ビジコンは特許化せず、また、インテルに他社への販売を許したために、今のインテルがある、と。ちなみに10進(BCD)演算するための「4ビット」なので、10進補正は必須。そして10進補正命令は、8080、8085を経て8086へも「遺伝」し、今のパソコンにいたるまで残っておりまするで。
個人的に残念なことと言えば、私が業界に入ったころには既に電卓戦争はケリがついていて、電卓用の4ビットの戦いは終わりを告げていました。4004は「物理的に指で」触ったことはあるのですが、通電して動作させてみたことはありません。個人的には8ビット機、16ビット機、32ビット機とアチコチで設計に関わった後、巡り巡って4ビット機にもかかわらせてもらいました。4ビットに関わった時には既に21世紀になってました。直系の子孫ではないものの、4ビット機を見れば昔がよみがえる(ほんとか?)
L.W.R.(39) 古文書編#10、COMPUTER ORGANIZATION & DESIGN、Hennessy and Patterson, 1993 へ戻る