このところオペアンプ続きだったので、たまにはディスクリートのバイポーラ・トランジスタを使いたいと思うのです。しかしアナログ素人には敷居が高いです。例えばバイアス電圧の与え方。教科書みれば設計の仕方いろいろ載ってますがメンドクセーです。そんなときLTspiceに”.TF”というコマンドあることに気づきました。
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.TF — Find the DC Small Signal Transfer Function
元よりSPICE素人、LTspiceの.TRAN(過渡解析)/.AC/.DC などはよくお世話になっておりますが、.TF(小信号伝達関数解析)は使ったことがなかったデス。でもエミッタ接地増幅回路のベース電圧のバイアス点を決定するのにこれを使ってみたらば、あら便利。これさえあれば何とかなるんじゃね。
伝達関数っす。電圧で考えれば出力信号電圧と入力電圧の比を求めればよいっと。実際、書式は以下のような感じです。
.TF V(out) Vin
V(out)の方は V()なので出力である「out」ノードの電圧ということです。一方「Vin」の方は独立電源のお名前です。何も工夫せずにVinの1つの電圧に対して走らせると素っ気なく V(out)/Vinの比を求めて「お答えは数値でテキスト表示」されます。確かに伝達関数の値だけれども。
カッコいい伝達関数のグラフを表示してもらうには、.TFには.ACや.DCのようなスイープ機能がないらしいので、自力でVinの電圧をパラメータ化して.STEP指定などして複数のポイントで伝達関数を求めるようにしないとならないみたいです。
また、通常の電圧のように対象のノードをクリックすればグラフに表示してくれるわけではなく(回路図には伝達関数そのもののノードなど無いっす)、グラフペインで右クリックのAdd TraceからTransfer Functionを選択しないと表示されないです。
エミッタ接地増幅回路で小信号伝達関数解析してみる
ターゲットのバイポーラトランジスタは、多分米国で定番の2N3904、NPNトランジスタです。LTspiceのデフォでSPICEパラメータが入ってます。シミュレーションしやすいので愛用させていただいております。それで手元には多少在庫を持ってます。まずはゲイン1倍の回路が以下に。
上記の回路を小信号伝達関数解析した結果が以下に。X軸がVin電圧で、Y軸がゲインです。上記の回路は反転の-1倍増幅狙いなので、中央部の約-1.0くらいの範囲が目論見通りの動作ができる範囲ということになります。
Vinが0.5V以下では動作しないし、また約3.0Vを超えてもダメだと。それでもゲインー1ではバイアス電圧の許容範囲が広そうです。
目標ゲインを大きくすると、「使えるベース電圧」の範囲が狭まっていくではないですか。
小信号伝達関数解析を使えば、ベース電圧の使えそうな範囲が分かるので、このグラフみながらバイアス点など決めることにいたしました。諸般の事情(手元の部品)から、RC=10k、RE=2.2kのときに使うつもりの範囲はこの辺っと。拡大グラフ。
ベース電圧1.3Vを中心に入力電圧は±100mVといたしとうございます。さすれば(上記グラフでは傾いて見えるけれど)ほぼフラットなゲイン部分をつかって歪もなく増幅できるハズ。
一応、過渡応答のシミュレーション結果
現物回路に組むつもりの回路が以下に。ベタな設定ですが、ベース電圧、DC的には1.3Vになるハズ。
100mV振幅、100Hzの信号を入れたときのシミュレーション結果が以下に。緑が入力、赤が出力デス。ほぼほぼ予定通りの波形。
さて、実機動作確認
シミュレーション同様に100mV振幅100Hzの正弦波を入力した結果が以下に。
歪んだりもせず綺麗な正弦波に増幅できてるような気がしますが、なんかゲイン少な目でないの?なぜ。
一方、小信号伝達関数解析の結果からは振幅200mVも入れるとそろそろ波形が歪始める筈でしたが、実機では400mVくらい入れないとガッツリ歪が確認できなかったデス。以下のグラフ。歪んでますな。どうも実機の方がゲイン少な目にできている分、許容できるベース電圧範囲も広めになっているみたい。
実機とシミュレーションで、微妙な差(微妙って言うのか?)はあるけど、傾向は予想通りということで。小信号伝達関数解析でバイアス電圧決めるのはお楽。計算しないで済むからだな。いいのかそういうことで。