連載小説 第134回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、日本勤務中です。20世紀も終焉を迎える中、我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)、そして日本の産業はどこへ向かって行くのでしょうか。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第134話 20世紀完了しま~す

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の21年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て日本へ帰任しました。家族は3人一緒でラブラブですよ。うふっ。世界はITバブルの真っ盛り。半導体の売上げもサイコー!・・・だった頃です。

 

「ねえねえ、トム君」

「どうした、舞衣子」

仕事納めだよ、今日は」

「そうだな」

「という事は?」

「という事は?」

「だからさあ、仕事納めなんだから」

「分かった、舞衣子、大掃除!

「ん、もう、大掃除もするけど」

「するけど、何だよ」

「早あがりでしょ」

「ああ、仕事が早く終わる」

「って事は?」

「さっさと帰れる」

「って事は?」

ビールか?」

「そうだよ、トム君、ビールだよ。ビール行こうよ」

「うん、いいな。ビール行くか」

「うん、いこいこ」

「でも、お子ちゃまは大丈夫なのか?」

「うん、今日は倫ちゃんがいるから、大丈夫」

「そうか。じゃ、工作も誘うか」

「うん、そうしよ」

「よし、内線しちゃうか」

と言って、トム君は工作君に電話を入れました。

「おい、工作、たまにはビール行くか? 舞衣子も今日は大丈夫なんだってさ。え、何?行けない?どうしたんだよ。ん?課のメンバーと行く事になってる?何だよ、そうか、それは仕方ないなあ。うん、分かった、じゃまたな。うん」

「え、大体聞こえたけど、工作君、今日は駄目なの?」

「ああ、あいつも自分のとこのメンバー大事だろうから、課の方の集まりを断る訳には行かないだろ」

「残念、折角久しぶりに集まれると思ったんだけどな」

「ま、それぞれの部署だからな」

「まあ、そうだね」

「あいつも課長なんだからしょうがないよ。それより、だったら、俺たちも海外営業のメンバーを集めてビール行こうよ」

「ま、そうだね。そうしよっか」

「ああ」

という訳で、普段から一緒に仕事をしている吉川君や古谷君やみっちゃんたちを誘って、飲みに行くことになりました。サイコーエジソン株式会社は例年、12月29日が仕事納めで、その日は午後3時には退社する事になっていました。それはそれでちょっと嬉しいのですが、3時というと開いているお店が殆どないという問題もありました。

どうせ、いつも遅いんだから、お店が開き始める5時くらいの退社でも十分有り難いのでしたが、どういう訳か3時退社なのです。きっと、遠くの実家まで移動するような人たちの便宜を考えての事なのだろうと思いますが、移動の必要ない人たちにとっては、ちょっと時間を持て余してしまう事もありました。

ま、それでも、早くから開いているお店を何とか見つける事ができて、全員着席したのは4時を回った頃でした。

「それじゃあ、20世紀最後のビール会、開催しちゃいま~す」

とか言って、かんぱ~いとなりました。

「冬でも夏でも、やっぱ、ビールですよね」

「今日は飲んじゃいますよ~」

「お疲れ様でした~」

「20世紀、さいこー!」

「去年の今頃はミレニアムとか言ってましたけど、今年はセンチュリアルらしいですよ」

「世紀のCenturialだな」

「そうらしいです」

「とうとう、20世紀も見納めか」

「あと2日ですね」

「今年は忙しかったなあ」

注文すごかったですもんね」

「もう、納期調整とか大変でした~」

「その分、売上げもかなり行ったんじゃないか?」

「3月末の締めが楽しみですね」

半導体は過去イチになりそうですよ」

「うん、絶好調だったよな」

夢の2000億までもう少しですね」

「事業部長は5000億円を目指すとか言ってるそうですよ」

「すごいなあ。でも、そんなにいっぱい製造できないだろ」

「ええ、でも、なんだか秘策があるらしくて」

「また、工場建てるの?

「その辺はよく分からないですけど」

「へえ~」

「ま、いいや、とりあえず飲もう!」

「そうですね」

「かんぱ~い」

「かんぱ~い」

「Cheers !」

などという酔っ払い気味の会話が行き交って、気がつけばもう10時をまわっていました。

「ねえ、私たち6時間以上もビールばっかり飲んでるよ

「ま、いいんじゃない。ビール美味しいし」

「今日は20世紀最後の飲み会だからいいんだよ」

「そうだな」

「ビール最高!」

「イエーイ!」

みたいな、更に酔っ払いが加速した状態で、夜は更けていったのでございます。

その頃の私たちはまだ体力的には絶好調の時代で、いくら沢山ビールを飲んでも、ちょっとやそっとでは倒れない若さをもっていました。

私も久し振りに沢山きこしめしてしまいまして、相当酔っぱらった事を思い出します。その夜、帰宅後、倫ちゃんにちょっとだけ説教されちゃいました。でも、倫ちゃんは優しい夫さんなので、ちょっとだけでした(笑)

あと2日で21世紀に突入です。

 

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