連載小説 第135回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICの営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、日本勤務中です。とうとう21世紀を迎えました。我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)、そして日本の産業はどうなっていくのでしょうか。

 

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第135話 2001年は宇宙の旅?

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の21年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)を販売しています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て日本へ帰任しました。家族は3人一緒でラブラブですよ。うふっ。世界はITバブルの真っ盛り。半導体の売上げもサイコー!・・・だったのですが・・・。

 

時は流れて、2001年を迎えました。

2001年といえば、いよいよ21世紀なのです。

そして、2001年といえば、「2001年宇宙の旅」の2001年です。

2001年以降にその映画を見た人にとっては、「へええ、そんな映画があったんだ」くらいにしか思えないかも知れませんが、2001年以前に、もっと言えばそれより10年以上前くらいに観た人にとっては、遠くに思えていた21世紀が現実のものとなり、更に、もしかしたらホントに起こるかも知れないと思えていた宇宙船による地球外惑星への旅はまだ2001年には起こらないのだ、というような事を感じたのではないかと思います。

リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」はこの映画のテーマ音楽としてあまりにも有名ですよね。因みに使われたのは、カラヤンの指揮によるウィーン交響楽団の演奏だったそうです。

1968年の作品でもう古典となった映画ですから、ネタバレしてもまあいいかと思いますが、この映画の中に登場する「HAL9000」は、今でいうAIであり、感情や意思をも持つに至った超高度なコンピュータでした。因みにHALの由来はIBMよりも一文字ずつ上だからみたいにも言われていますが、作者のアーサー・C・クラーク氏は,そのような事は全く意図せず、HALはHeuristic ALgorithmic=発見的アルゴリズムの略だと考えたのだと言われています。

木星探査宇宙船「ディスカバリー号」の中に据え付けられた家ほどの大きなマシンは、人間の声を完璧に理解でき、感情もあり、嘘もつければ,5人の乗組員のうち4人を自分の意思で殺戮するなどという、とんでもないAIでした。

ロボット3原則というのをご存知でしょうか。ロボット三等兵ではありませんよ(笑)

SF作家のアシモフさんの小説に出てくるロボットの基本ルールです。いわく、

第1条

ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第2条

ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第1条に反する場合は、この限りでない。

第3条

ロボットは、前掲第1条および第2条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。

これは、アシモフさんが1950年代~1960年代にロボット小説の中で謳った考え方で、その後のSF作品や、実際のロボット開発に対して、非常に大きな影響を与えている原則です。

しかるに、「2001年宇宙の旅」に登場する「HAL9000」は、その原則をまるっきり無視した設定になっていて、人の命令はきかず、人に危害を加え、自分の意思で全てを支配しようとする人工知能でした。

私がテレビで放映された「2001年宇宙の旅」を観たのは1980年代後半だったと記憶していますが、鉄腕アトムを正しいロボット(笑)のように感じていた自分にとって、HAL9000はとてつもなく不気味なモノに思えたのでした。いくらSF映画の世界の話だと分かっていても、いつの日かこのような未来がやってくるかも知れないと思い、20代だった自分はそうでない未来を願いました。

果たして、昨今のAIの世界はどうなっているかと言えば、ご存知のとおり、ロボット三原則どころか、ほぼ野放し状態になっており、放っておくとAIを使った機器やソフトウェアは、戦争のための道具や、犯罪のための知能になってしまう危険性をあらわにしています。

ChatGPTという優れた生成AI(Generative AI)が誕生し、様々な便利を私たちに与えてくれるようになっていますが、これは、調べもの、アイデア受領程度の使用範囲でなら、さほどの問題はないかも知れませんが、自分でソフトウェアを作れてしまったり、設計をできてしまったりという事になると、その使い方次第では、人々に危害を加えるモノやコトが容易にできあがってしまうという危険性をはらんでいます。

シンギュラリティ(技術的特異点)という概念があります。自律的な人工知能が自己フィードバックによる改良を繰り返すことによって、人間を上回る知性が誕生するという仮説です。人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏が2045年にシンギュラリティーに到達すると予測している事から2045年問題とも言われています。この時にロボット三原則のような絶対的なルールがなかったとしたら、一体どんな世界になるのでしょうか。それこそ、AIが人類を支配する世界が誕生してしまうかも知れません。

HAL9000の不気味さに比して、可愛いロボットというのも存在しました。1999年にソニーがアイボという初代犬型ロボットを世に出しました。当時も面白いロボットが開発されたなあ、と思いましたが、2001年には外見をもっと可愛くしたアイボが登場して、ロボットペットという市場が生まれました。

その後、アシモペッパーなどの人型ロボットが登場するに至るのですが、そのお話はまたの機会にいたしましょう。

私が個人的に好きなロボットは、なんと言っても「ドラえもん」です(笑)。

こんなに可愛くて、役に立つロボットはいません。アイボが犬型ロボットなら、ドラえもんは猫型ロボットですね。

登場する「ひみつ道具」は約2000種類にものぼると言われています。そのうち、ホントに実現したアイテムはいくつもあります。藤子不二雄先生はホントにすごいなあと思います。

このお話になると、もう一冊の本ができてしまうほどですので、これもまた、いつかの機会に譲る事にしましょう。

さて、2001年はそんな「2001年宇宙の旅」の年として、また、21世紀の始まりとして幕を開けたのですが、そこにはいくつかの困難が待ち受けていました

 

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