連載小説 第3回             4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

ペンネーム    桜田ももえ

 

 

 

 

 

<これまでのあらすじ>上諏訪時計舎に就職した詠人舞衣子(よんびとまいこ)。わけあって4ビットAIが埋め込まれている新人OLです。早慶大心理学科卒文系女子なのに、半導体営業課に配属。半導体って何?の勉強から舞衣子のチャレンジが始まります。因みに同じ課に配属された同期の4人は結構イケメンでした。それってラッキー?

第3話 半導体って何だっけ?

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系なのに半導体営業課に配属されちゃいました。心理学専攻なので、怪しい男子とか、虚勢を張っているおじさんとかを見抜くのは得意ですが(笑)、物理や化学は不勉強です。一応高校卒業までの理科の知識はあるので、電池の並列と直列の違いくらいは知っています。しかし、どちらが危険かと言われるとどっちも危険のようなそうでないような・・・よく分かりません(汗)。

 

 

 

 

都会を離れ、あえて地方の会社にチャレンジしたのですが、入社した上諏訪時計舎に関する知識は不十分で、作っているのは時計だとばかり思っていました。ところが、半導体営業課では時計を売るのではなく、今年から製造を始めたばかりの半導体を売るのが仕事だというのです。しかも、半導体を売る相手先が時計メーカーだったりするというので、一体何の事か最初はまるで分かりません。時計を製造するための色々な電子部品を自社でも作れるようにしようと、半導体や水晶振動子や液晶表示体などの事業を開始したという事を後になって知りましたが・・・。

最初の1ヶ月は集合研修で、同期の70人ほどと一緒に社会人のイロハから会社の業容などを、途中から分かれて自分が関わる事業の詳細、技術的知識などを叩き込まれました。私は半導体に関わる同期の20人ほどと一緒に研修を受けたのですが、営業配属の5名以外は皆理科系で難しい技術の話も楽々と理解しているように見えました。営業の5人はほぼ文系なので、「よく分からないねえ技術の話はアハハ・・・」 とか言いながら、ゲートとソースとドレインだの、そのトランジスタの集まりだの・・・馬の耳に念仏の状態。それよりもお昼のメニューや夜のビールなどを楽しみにしているダメな5人でした。

あ、正確に言うと、そのうちの一人だけはあんまりダメではなく、理工学部(でも生産工学専攻)だったので、中では一番分かってるっぽい状態(しかも一番イケメン)。私を含め、あとの4人はポンコツで、そのうちの一人は東大卒なのに「ホントに東大出てるの?何で分からないの?」と思わず聞いてしまうほどの理解度でした。答えは「だって経済卒だもん」でしたが。

そんなこんなで1ヶ月の研修が終わり、正式配属で営業に、と思いきや、我々5人は更に5ヶ月の事業部工場実習をしてもらうと言い渡されました。え、工場実習?何するの?と思いましたが、後になって考えて見ると、この工場実習がどれだけ役にたったか分かりません。唯一の理系であり一番イケメンの早慶大理工学部君と、私と東大の落ちこぼれ(?)君との3人が検査課で、あとの二人が品質課で実習する事になったのです。

そろそろ、彼らにも名前をつけてあげましょう。そうしないといちいち早慶大理工学部出身の一番イケメン君とか長くてまどろっこしいですしね。で、分かりやすく、下表を参照下さい。

 

詠人舞衣子(よんびとまいこ) 

早慶大(文)心理学 東京出身 笑顔が可愛い(うふ)

富夢まりお(トムまりお) 

東大(経)の落ちこぼれ(多分) 二年後からマリオのようなヒゲを生やした。おちゃらけキャラ。

島工作(しまこうさく)

早慶大(理工)生産工学 イケメン 課長島耕作っぽくてカッコいい

 

とりあえず、富夢君はトムと呼んでおくことにします。島工作は島工作でいっか。トム君には後々一番お世話になるのですが、この1980年の時点では島工作君がカッコよくて、そちらの方がちょっと気になっていました。

検査課は半導体製品の検査を行い、出荷してよいか悪いかを決める職場です。ウェファー状態で一回検査を行い、良品チップだけを選別して、それをプラスティックモールドパッケージに埋め込んだ後、最終出荷検査を行います。半導体というのは作るのが大変難しいらしく、ウェファー状態での検査でいくつもの不良品が廃棄される事になります。その際の良品率を歩留まりと言うのですが、最初はブドマリって全く聞いた事ないけど、どういう意味?から勉強しなくてはなりませんでした。今では、歩留まりという言葉は当たり前に使っていますが、最初は外来語だろうなと思いましたね(笑)。だって、日本語の響きじゃないもん。

それと、半導体業界でこんな事を言うと笑われてしまいますが、ウェファーってお菓子だと思いますよね、大抵の人は(笑)。ま、いいです。私も段々なれていきました。

いつもトム君と島工作君と一緒にいるので、3人はとても仲良しになりました。同期っていいですね。それと同時に島工作君に引っ張られて半導体の知識もずいぶんとレベルアップする事ができました。実習が終わる頃にはフリップフロップの真理値表なんかも一応書いてみたりしていましたよ。今考えると、よくそんな事ができたなと思いますけどね。いずれにしても、二人には本当に感謝しています。うふ。

それでは、この続きはまた今度。

 

 

 

第4話につづく

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