連載小説 第31回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ> サイコーエジソン株式会社IC海外営業課の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。わけあって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを海外に売っています。時は1989年。昭和も平成へと移り変わり、バブル真っ盛りです。

 

 

第31話  会うだけ会ってみる? からの~ 会ってみたい!

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、文系ですが技術製品(半導体)を販売するIC営業部の4ビットAI内蔵営業レディです。同期の富夢まりお(トムマリオ)君とともにアメリカ市場を担当しています。お正月休みで実家へ戻ったら、母親からマッチングを勧められ・・・。焦るなあ~。

 

1988年は暮れ、激動の1989年がやってきました。

何が激動かって、それは本日元旦から激動なのです。ドキムネです、うふ。男の人と会うのです。何故かって?それは、第30話をご覧頂ければお分かりになると思いますが、ひと言でいえば、母の同級生とデートするのです。あ、間違えました。母の同級生だと、相当なおじさんですね(笑)。それと、デートではありませんでした。母の同級生の次男さんとちょっとお会いしてみる、という話です。あくまで、ちょっとお会いしてみるという感じの話で、堅苦しい“お見合い”みたいな感じではないのでした。

私は最初、「ええ、お見合いなの? 会わないよ」 と言い張っていたのでしたが、色々話を聞いていくと、どうやら以前に一度ご一緒した事がある人のようですし、それに何と言ってもシリコンバレーの外資系メーカーで仕事している人らしい(!)というので、面白そうだから、とにかく会ってみようという事になったのでした。

母は最初アルパチーノがどうのこうのと言っていたのですが、どうやらそれはクパチーノの間違いだったらしく、クパチーノと言えば、シリコンバレーの一都市で大有名メーカーのある街。そう、アップルコンピュターの本社がある街なのです。この当時、コンピュータと言えばIBM-マイクロソフト連合のMS-DOS系のPCが非常に高いシェアを誇っていましたが、通(つう)のアップルファンには根強い人気がありました。

今でこそ、Appleと言えば、泣く子も黙る?じゃないかな、飛ぶ鳥を落とす勢い?の、超巨大ITメーカーです。いや、そんな陳腐な比喩表現では言い表せません。ご存じの通り、スティーブジョブズがトップに戻って以来、iPhoneやiPADなど、エポックメイキング的なイノベイティブな商品を生み出し、世界に届けたメーカーです。彼は将来、スマホを発明した人として歴史に名を残すでしょう。

さて、1989年頃のアップルはどうだったかと言えば、創始者のスティーブジョブズが1985年に退社に追い込まれた後の体制の中、それでもマッキントッシュPCを上手いこと差別化してそれなりの地位を築いていました。例えば、DTP(Desk-Top Publishment)のアプリ開発で先行し、この世界では完全にシェアを確保していましたから、どうしてもマックでなければダメというユーザーも多かったのです。

ただ、トータルの数ではDOS互換機にははるかに及びませんでした。ですので、その当時のアップルを見て、その後の世界で今のような地位を築くと想像できた人がどれだけいたでしょうか。恐らくほぼ皆無だったと思います。しかし、それがシリコンバレーの面白いところで、名もないベンチャーが突如、世界を変える製品やビジネスモデルを出して、超巨大企業に変貌する、などという事が平気で起こるのです。今で言えばGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)ですね。

さて、話を元に戻しましょう。私は、クパチーノにあるAppleにお勤めの日本人の男性と会う事になりました。ここで、考えなければいけないのは、どんな事でしょう。そうです、どんな服装でいけば良いか?ではなく(笑)、まそれもありますが、それよりは、どんなお話をするかのシミュレーションですね。私がお話したかったのは、

  • どのような経緯でアメリカの企業に就職したか?
  • アメリカ企業で働くとはどんな感じなのか?
  • 将来はどのように生きていきたいのか?
  • 好きな女性のタイプは?うふ?

ま、こんなところでしょうか。

「お母さん、じゃ、行ってくるね」

「ええ、頑張ってね」

「頑張るって、何を?」

「だから、舞衣子もいい年なんだから、そっちの方、頑張ってっていう事よ」

「はいはい、そっちの方ね、どっちの方だか分かんないけど、行ってきま~す」

 

私は同年代の方が海外でどんな活躍をしているかが一番の興味でした。二番目の関心事は、もしかして、もしかしたら、もしかするかも、という事です。だって、ねえ、一度子どもの頃、奥多摩のバーベキューでご一緒した事があるようだ、というだけで、どんな人かも分からないのに、いきなりつき合うだの、結婚を前提としてお付き合いしてください、とか、世間様でいう“お見合い”って全くイミフですよね。

注:イミフ(意味不明)という言葉は当時はありませんでした。

待ち合わせは原宿の駅前です。元旦の街はどこも静かですが、明治神宮のある原宿は結構な人出です。その人との共通点と言えば母親同士が同じ学校の出身という事なので、顔が分からない同士、母親の学校のイメージカラーの何かを腕に付けていくという約束でした。携帯電話がない頃の話です。顔が分からない場合の約束事は極めて重要でした。一回すれ違ったら、ずっとすれ違い続けたりするかも知れないのです。まるで、「君の名は」の真知子さんたちみたい。あれ、「君の名は」知りません?  「君の名は。」の三葉(みつは)さんなら知ってます? ま、いっか。私だって、真知子さんのラジオドラマはリアルでは知りませんけど。

 

で、無事会えたか、ですか? 会えましたよ、勿論。 声をかけた最初の男性は人違いでしたけど(笑)。二人目の方は間違いなく、お約束をしていた青井倫吾郎さんでした。

 

この続きの展開、どうなるんでしょうね~?

では、次回をお楽しみに。

 

 

 

第32話につづく

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