鳥なき里のマイコン屋 (39) MarvellのWiFiマイクロコントローラ

MCUで検索すると、このシリーズでフォーカスしている “MicroController Unit” (マイコン)でなく、アメコミ映画で有名な、”Marvel Cinematic Universe” の方がヒットしてしまいます。その上、半導体業界には、Marvelと綴りの非常によく似た Marvell社も存在します。大手半導体企業群の一角を占める会社といってよいでしょう。ネットワーク関係、ストレージ、モバイルと結構手広く商売している中で、「間の悪いこと」に「こちらの 」Marvell社にも MCU (マイコン)が存在するのです。その名は88MW320。前回、WiFi搭載の8ビット系マイクロコントローラを取り上げさせていただきましたが、WiFiを売りにしているという点では、こちらの方が本命かも。

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Marvell社が、各種の組み込み向けSoCプロセッサを展開していることは、業界通の皆さんはよくご存知だと思います。しかし、マイクロコントローラ(ROM, RAM積んだマイコン)に位置付けられるようなチップも出していたことは、ちょっと意外でした。対象はわずかに2機種

    • 88MW320
    • 88MW322

2機種の違いはと言えば、パッケージが違い、端子数が違い(当然汎用I/O数が違い)、USB OTGが使えるか、使えないかが違う。「膨大」といえる機能を集積したチップの中で、その違いは周辺端子回りの僅かな部分だけ。中みないと分かりませんが、中身は同じ、という可能性も無きにしもあらず。

コアは、組み込み向けArmの中では、FPUも搭載した高級機種

Arm Cortex-M4F

です。メモリは、maskROM 128KB、RAM 512KB、外付けシリアルFlash上のコードをキャッシュするためのSRAM 32KBなど搭載しています。このメモリ構成からして、アプリケーションプログラムは、外付けFlashに書き込んで、RAMに読み込んで使う(RAMに読み込まずにFlashから読んでキャッシュSRAM上で実行することも可能と思われる)ようです。搭載のmaskROMは、Marvell社が「基本的な階層」を書き込んで出荷するのだと思いますが、詳しいことは不明です。(ちゃんとMavell社と契約すれば資料が出てくる筈)

周辺回路を見ても強力で、I2C、SPI、UARTなどの定番のシリアルI/Fに加え、シリアルFlash要にQSPI、ADC、DACなどのアナログI/F、当然のGPIO、TimerにPWM、RTC、WDTなどのタイマ関連、AES(暗号)とCRC計算、USB-OTG(88MW322のみ)、DMACなどてんこ盛りです。その上、オンチップにDC-DCコンバータ回路やら、USBのPHYやらまで搭載しています。しかし、最大の売りが、物理層からMAC、ベースバンドにいたる

WLAN搭載

です。IEEE 802.11規格各種と暗号化を含むWiFi接続をサポートできます。その際、

    • ダイレクト・コンバージョンだぜ、外付けSAWフィルタなど不要
    • ゲイン選択できるLNA(ローノイズ・アンプ)搭載
    • ダイナミックレンジの広いAGC(オートマティック・ゲイン・コントロール)
    • PA(パワーアンプ)も搭載

無線チップとしても、水準の高さが読み取れます。そしてちょっとマニアックなことに、このWLAN側にももう一つのCPUを積んでいます。

Feroceon

です。こちらのCPUにもちゃんと、独立したROM/RAM積んでいるのですが、こちらはWLANの制御専用で、アプリケーションプログラムを実行することはできないと思われます。しかし、Feroceon です。ぶっちゃけ、

Marvell 版の ARMコア

です。アプリケーションプログラムを実行する側では、Arm純正のCortex-M4Fが動作しているのに、裏でWLANを制御しているのは、Marvell版のArm互換コアなのでした。この辺、ライセンス的に何らかの話がついている筈ですが、どういう契約なのか気になります(気になっても教えてくれたりはしないでしょうが。)まあ、Marvellのことだからかなり強力なライセンスを持っているに違いありません。はるか昔、今は無きDECが開発したStrong ARM、DEC崩壊のころStrongARMは一度はインテルに引き取られましたが、最終的にはMarvellに落ち着いたなどということも思い浮かびます。StrongARMは、初期のARMにしたら珍しいARM以外の会社がマイクロ・アキーテクチャから開発した「高性能」チップです。DECはコアを改変できる権利をARMから手に入れた上でこれを作っていた筈。ずっとそのままの契約を何十年も続けてきた筈はないですが、ひょっとすると手直しと更新を重ねながら連綿と続いているのかもしれませんで。

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