連載小説 第93回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品のICを販売する米国現地法人のSS-Systemsへ赴任していましたが、夫の倫太郎さんがソミーヨーロッパへ転職する事になり、私もサイコーエジソンの現地法人Edison Semiconductor GmbHがあるドイツのミュンヘンへ異動しました。IT環境は、インターネット、電子メール、Windows95と新時代を迎える中、ヨーロッパでは携帯電話の普及というビジネスの波が起こっていました。我々の半導体製品もその波に乗って大忙しです。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第93話 食欲復活のミュンヘン?

 

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の16年生。文系ですが技術製品(半導体)を販売するアメリカの現地法人SS-Systemsへ赴任し、今度はヨーロッパの現法Edison Semiconductor GmbHへ異動しました。ドイツのミュンヘンで倫ちゃんとの新しい生活がスタートです。新婚さんみたい。うふっ。でも、仕事は結構忙しくて、新婚生活どころではありません。結婚して4年ほど経ってますけど(笑)

 

 

「あの、すみません、ミス・ハーゲル、私もドイツの運転免許証をとりたいのですが、ヘルプして頂けますか?」

「はい、モチロンです」

私は、日本人赴任者のサポート業務をしてくれているハーゲルさんに日本語で話しかけました。ん?わざわざ日本語でなどというところをみると、どうやらこのハーゲルさんは日本語のできるドイツ人か?と思われた方は、相当いい線いってます(笑)。でも、事実はその逆で、ドイツ語のできる日本人の方なんです。ま、簡単にいうと、ドイツ人男性と結婚してミュンヘンに住んでいる日本人女性という訳です。

このような方は数多くいて、大抵のドイツの日系企業には一人や二人ハーゲルさんのような方が勤めているようでした。まあ、アメリカでも同じような状況でしたから、何となく分かります。

ハーゲルさんのハーゲルはご主人の苗字で、ファーストネームは真美(まみ)さんといいます。今日は、ミス・ハーゲルなどとお茶目な言い方をしてみましたが、普段は真美ちゃんと呼んでいます。赴任して、すぐに仲良くなっちゃったので、うふっ。

真美ちゃんのお仕事は金丸社長の秘書と日本人赴任者のサポートです。結婚してすぐドイツへ渡り、ミュンヘンに住んで5年だそうです。まだお若いのですが、もう3歳の男の子が一人いて、キンダーガーデンに預けています。ドイツ語も英語もできてローカルの事が良く分かっているので、困った事があればすぐに真美ちゃんにお願いするのでした。

「ねえねえ、真美ちゃん」

「なんですか、舞衣子さん」

「午前中の仕事は大体片付いたから、お昼行かない?」

「あ、いいですね。行きましょう」

「何食べよっか」

「なかなか日本人の口に合うものは多くないんですよね」

「じゃ、とりあえずOEZまで行く?」

「そうしましょう、舞衣子さん」

私たちのオフィスは、ミュンヘンオリンピックの会場にほど近いエリアにあり、歩いて5分ほどの所にOEZ(Olympia-Einkaufszentrum)というショッピングモールがあります。OEZまで行けば、いくつかレストランがあって、まあまあステキな食事ができます。我々日本人が得意な料理はあまり多くはないのですが、その日の気分で、ドイツ的イタリアンへ行ったり、ドイツ的ギリシャに行ったり、ドイツ的ドイツに行ったりしていました。

ミュンヘンのドイツ料理は基本的に塩が多く使われているので、あまり私たちの口に合いません。イタリアンレストランでスパゲッティをオーダーする時に、塩を少なめにして欲しいと頼むのですが、それでもまだ塩辛いスパゲッティがやってくるので、何度も苦しめられました(笑)

OEZのレストランだと一食20マルクくらい必要だったと記憶しています。当時のレートで1400円くらいでしょうか。やや高めなので、時にはもっと安い社食のような場所へも行きました。それは金融系か何かの会社のアトリウムにあるので、我々は今日はアトリウムへ行こうか、という言い方をしていました。我々のオフィスから一番近くて、誰にでもオープンしており、安価なので、便利ではあるのですが、食べ物は美味しくありません。12マルクくらいで一応ランチが手に入るのですが、舌鼓的な満足度は低く、あまり積極的に行きたくはないような社食的カフェでした。

私はミュンヘンの生活は新鮮で夫の倫太郎さんとも色々な場所に出かけていたので、とても楽しく暮らしていたのですが、こと外食に関しては、たまにしか当たりくじを引く事ができないねと笑い合っていました。

真美ちゃんと私は、ショッピングモールの中にあるデパートのカフェテリア的なところに入って、まあまあナイスなランチを頂きました。若い(?)女の子同士でのランチはいつでも楽しいものです。

そこでは、好きなものをいくつかとって後で会計するスタイルなので、気を付けていないととんでもなく高価なランチを食べる事になってしまいます。真美ちゃんは慣れているからいいのですが、私のような新参者は、あれもこれも試してみたくなってしまい、ついついトレイの上を溢れかえらせてしまうのです。

生来の食欲はここミュンヘンでも絶好調でした(笑)。アメリカ生活後半でなんとかコントロールできるようになっていた体重問題がまた勃発か?

「気を付けて私、舞衣子myself !」 と心の中で叫んだのでしたが・・・。

 

 

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