連載小説 第155回 4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出

Momoe Sakurada
ペンネーム
桜田モモエ

<これまでのあらすじ>

サイコーエジソン株式会社の詠人舞衣子(よんびとまいこ)です。訳あって4ビットAIを内蔵しています。心理学科卒文系女子ながら先端技術製品の営業に携わっています。10年近くに及ぶ海外赴任(アメリカ、ドイツ)を経て、今は東京から海外市場をサポートしています。インターネット、IT機器、携帯電話など新しい技術や製品が日々生まれ、それらをサポートする我々の電子デバイスビジネス(半導体、液晶表示体、水晶デバイス)も大忙しですが、台湾や韓国などの新興勢力も台頭してきて、日本の電子デバイス業界は激変の連続でした。

(日本半導体の栄光と挫折?『詠人舞衣子』総目次はこちら

 

第155話 その次の試練

私、詠人舞衣子(よんびと まいこ)は、サイコーエジソン株式会社の25年生。文系ですが技術製品(半導体などの電子部品)の営業に携わっています。10年にわたる海外赴任生活(アメリカ、ドイツ)を経て東京勤務中。世界のIT産業はどんどん変化していくので、ビジネスも大忙し。我々の半導体の売上げも2000年にはサイコー!だったのですが、その後、状況はめまぐるしく動いていきます。電子デバイス営業本部にも毎日のように変化が起こり、とうとう液晶事業は分離される事になっていきました。

 

トム君が彦根市を訪れた重要なミッションというのは、ある方のお葬式に参列する事でした。その方というのは、私たちの2年先輩の上田さんで、ヨーロッパ赴任時代に一緒にお仕事をした方です。

上田さんは、亡くなる直前まで、我々の電子デバイス販売現地法人であるEdison Europe Electronics GmbHの社長として活躍されていました。我々と同時期の頃は水晶デバイスの責任者として赴任していましたが、一度帰任した後、数年後に社長として二度目の赴任をしたのでした。暫くは元気にやっていたのですが、この年の初め頃、急激に体調が悪化して、お休みするようになり、その頃にはもう後戻りできない状態になっていたそうです。春には日本へ戻る事を余儀なくされ、暫く療養されていましたが、6月に他界し、出身地の彦根でお葬式をする事になったそうです。

トム君にとっても、私にとっても、同じ現法で仕事をして、電子デバイス営業本部でも近くにいた先輩ですから、あまりにも急で、とてもショッキングな出来事でした。まだ40代と随分お若くして亡くなってしまわれ、小中学生のお子様二人と奥様の悲嘆を考えると、何とも言えない気持ちになった事を思い出します。

お葬式はしめやかに行われたそうですが、話はそこで終わらず、次は社長として誰がミュンヘンへ行くのかという話に発展していました。白羽の矢が立ったのは、同期の島工作君でした。工作君と言えば、トム君と私とでいつもビールを飲む仲です。私がうら若き頃には、心憎からず思った、あの工作君です。その彼がミュンヘンへ後任として赴任する事になり、俄に人事は動き始めていました。

そうなると今度は、工作君が幅広く担当していた分野は誰が担当するかという話になるのですが、その頃、時を同じくして、営業体制をアプリケーション別ではなく、デバイス別に戻そうという慌ただしい動きが起こっていました。この話には、液晶事業の業界的再編の動きが大きく影響していて、デバイス別の組織編成にしないと、鳥取S社の液晶事業との合併ができないという事情があったためなのでした。この年、2004年10月には、液晶事業を分社して鳥取S社と合併した新会社であるスーパーエディソンディスプレイ社が発足するのですが、その前段階の動きが会社全体に大きな影響を及ぼしていました。

さて、そのような状況の中、あれこれ検討がなされた結果、今度はトム君が海外営業部を担当する事になり、名古屋から東京へ転勤するという事態になっていました。

何だか、色々起こって全然落ち着かない日々でしたが、7月の組織変更で、トム君の勤務地は営業本部のある東京となり、海外営業関係全般を見る事になりました。その組織も10月には液晶事業が分離されて、また変わる事になるのですが・・・。

慌ただしく組織変更が繰り返されると、人心は落ち着かず、業務も連続性に欠け、あまり良い影響はもたらしません。加えて、転勤をしなくてはならない人が増えると、みんなバタバタしてしまいます。トム君にとってもその影響は結構大きくのしかかりました。何故なら、奥様は女子大生だったからです。魔女ではありません。念のため。

奥様である海ちゃんは、名古屋大学と同じ文京エリアにある、ミッション系の「みなみ山大学」に通っていました。社会人が大学へいくという事はまだ珍しかった時代ですが、海ちゃんは時代に先駆けて、小さな子どもを育てながら、結構難しい大学の試験に合格したのです。

4月に3年生として編入したばかりだったので、トム君一家にとって、東京転勤は寝耳に水です。小さな子どもを二人育てながら大学生をしているのですから、なかなか大変だったでしょうが、保育園を利用する事で、海ちゃんは母親と大学生を両立し、充実した生活を送っているようでした。

「海ちゃん、おれ、東京へ異動になったよ」

「あら、そう、行ってらっしゃい」

「はい」

というような会話があったかどうか分かりませんが、トム君家族は、海ちゃんが大学生としての勉学を諦める事なく、卒業するまで、家族は名古屋に留まるという決断をしました。トム君は逆単身赴任のような形で、東京にお一人様用ワンルームマンションを借り、金帰月来の生活を始めたという事でした。

かなりの経済的負担を伴う事だったようですが、家族それぞれがやりたい事をやりきるという考えを優先したようです。カッコいい家族だなと、ちょっと感心しました。

という訳で、私たちの同期はまた、それぞれ新しい道に進んで行く事になった訳です。

という事は、次回 「4ビットAI内蔵 “詠人舞衣子” の思い出」 はビールで激励会って事? 「かんぱ~い!」から始まるって事ですか?

 

 

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