鳥なき里のマイコン屋(6) Analog Devices、一味違うレガシーコア

次々と検証?される「Armのお供にレガシー8051説」ですが、本日取り上げさせていただくのは、アナログ半導体会社の最右翼といってよいでしょうAnalog Devices社です。ご存知ない方に申し上げておきますと、アナログといっても出入り口だけがアナログで、内部の処理はデジタルという信号処理システムは現在とても多いのです。Analog Devices社(以降アナデバと勝手に省略させていただきます)は、そんなデジタル信号処理にもぬかりはありません。

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なにせ、1桁精度の良いアナログは、2桁以上値段が高かったりする世界だったりします。アナデバ社の本業はそういう高精度のアナログ・デバイスを売ることだと思うのですが、ちゃんとMCUもラインナップしているのです。以下その製品ラインと使用コアの表です。

ADuC7xxxアナログマイクロコントローラARM7TDMI
MicroConverter8052
ADSP-CM4xx ミスクドシグナルコントロールArm Cortex M4
高精度マイクロコントローラArm Cortex M3
超低消費電力コントローラArm Cortex M3/4

最初の2行に「レガシーな」コアが登場します。まずARM7TDMI。このコアはARM一番のレガシーと言ってもよいかもしれません。このコアが20年以上前に携帯電話世界を席巻したことが、ARM社が大を成す基礎となったと言えます。いまでは後継のCortex-Mシリーズが存在するのでARM7TDMIはあまり生き残っていないのですが、アナデバ社では生き残っています。なぜか、と考えるに、ARM7TDMIとともに集積されている、高精度のADコンバータ、DAコンバータのためでしょう。価値のあるアナログ搭載のMCUなので、コアそのものをわざわざ取り換える必要性がないのだ(それに製造プロセスも変えたくない)、と思います。次に登場するのが8052です。8052は8051の兄弟(命令セットは同じ)なので、8051説、ここでも成り立っていることにいたします。オリジナルのインテルの仕様では、8052と8051の違いは以下のようでした。

80518052
ROM4Kバイト8Kバイト
RAM128バイト256バイト
タイマ2本3本

もともとメモリが倍(蛇足ですが、あのころのROMはFLASHなどではありませんよ。工場でプログラムするマスクROMです。一応インテルは書き換え可能なEPROM版、消去するときは紫外線!も作っていたのですがその型番は8751です。)というのが8051と8052の違いだったです。けれどアナデバ社の「8052」製品ではメモリの容量などはいろいろ。「8052」と銘打っているのはタイマ3本の方のコア使っているぞ、という主張じゃないかと思います。やはりレガシー、高精度のアナログのお陰で生き残っています。それにアナデバ社は明朗会計、ウエブ上に一応1000個ロット(MCUとしてはささやかな数量です。通常はもっと大量取引なので値段はぐっとお得になる筈)の値段が表示されています。その欄を見れば、8ビットの8052、下手な32ビットMCUの何倍もの価格がついています。やはり高精度のアナログは強い。

そして、製品ラインの後半のカテゴリでは、Arm Cortex-Mシリーズが登場。近代的なコア構成になっています。しかし、アナデバ社と言えば、デジタル信号処理チップこそ本流かと。本稿はMCUテーマですが、折角なのでDSPの表も入れておきましょう。

ADSP-21xx固定小数点DSP、「本格」ADC集積
Blackfin16/32bit MAC組み込みプロセッサ、「お手伝い」ADC
SHARC浮動小数点DSP
TigerSHARC高性能浮動小数点DSP
SigmaDSPオーディオ向けDSP

さすがアナデバ、DSPも充実してます。最初の2つが整数(固定小数)を扱うための小さめのDSPチップ。どちらかというと Blackfinといっているタイプが主力じゃないかと思うのですが、値段を見ればADSP-21xx系列の方が高めです。その差はといってみれば、やはりADコンバータでした。ADSP-21xx系列には「本気の」ADCがDSPと一緒に集積されているのですが、Blackfin系列にはHADC(HはHousekeepingだそうです)と呼ぶちょっと精度低めのADCが搭載されています。それはBlacfinを精度が低いアプリに使えということではなくて、データ処理の本流の部分には別チップの高精度のADCを買いなさい、Blackfin内蔵のHADCは、なにかお手伝い仕事に使いなさい、ということなんだと推測します。当然別チップのADC、精度良いものはお値段も張ります。さらに浮動小数点DSPにはSHARCとTigerSHARCという怖そうな名のついた2つのラインが存在します。SHARCの方は相当な品種がありますが、見たところTigerSHARCの方はまだ一品種のみ。ただし、このフラグシップ処理能力は1GFLOPSを越えます。MCUネタとしてちょっと注目すべきはSHARCの方で、DSPコアであるSHARCの横にArm Cortex-A5搭載の製品もあるのです。MCU向けのCortex-Mではなく、普通にスマホやタブレットなどに使われるアプリケーションプロセッサ向けのCortex-Aシリーズの「ベーシック」な機種。ベーシックといってもCortex-Mには乗らないデータ処理向けのOSやファームウエアが実行可能な筈。

やはり強いアナログがあると、MCUの差別化できますね。そういうものがない会社は安売りに走るしかない?

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